第10話 お披露目会



僕がシブシブ昨晩の大広間に行くと、黒石家の直系親族一同が勢揃いしていた。


親族と言っても今日集まったのは直系の者達だけで、昨晩の様な何百人という単位ではない。


という事は、昨晩は僕のお披露目のためだけに全ての親族が揃ったてことなのか……


(名も知らぬ親族の方々よ、申し訳ありませんでした……)



そんな事より今は此方に集中しなくては。


司会進行役のボーゲルが順番に黒石の人々の紹介をしていく。



「まずは右手から、黒石美智子様。美智子様は黒石系列会社の代表取締役の任に就かれております」


黒石系列の会社といえば全国区に支店を構える大企業だ。


彼女の印象は、ヒステリックそうなおばさんだ。


(その会社のCEOとは凄い人が出てきたぞ……)



「美智子よ。よろしく」


なんともあっさりした挨拶の美智子さん。僕のことになぞまるで興味が無さそうだ。



「そのお隣が、美智子様の御息女の紗夜様。モデルのお仕事をなさっておられます」


(この人雑誌で見たことがある!まさか身内にモデルが居たなんて知らなかったよ……)


「そしてそのお隣が御子息の晶様。黒石系列で退魔師のお仕事をなさっておられます」



2人とも軽く頭を下げる事で僕への挨拶とした。

2人の印象は当たり障りなしといったところか。



「続きまして左手側、黒石豪毅様。豪毅様は現在県議会議員をしておられます。次の選挙では国政へ鞍替えし当選間違いなしのお方です」



「豪毅だ、よろしくな……」


射抜く様な鋭い眼光と共に僕に挨拶をする豪毅。

その眼光からは明らかな敵意を感じる……


彼の印象は猪突猛進。自分の意にそぐわない者は徹底排除、そんな印象だ。


ちなみに柔道6段の有段者だ。



(…… この家の次男だっていうし、いろいろあるんだろうな……)



「そして豪毅様の隣り、将毅様と輝毅様。麓の高校に通っておられます」


俗にいうピザデブな兄弟、その見た目からいって我儘三昧の性格は悪そうだ。



(うん?なぜかこの2人だけ紹介が雑な気がするけど気のせいかな……)


案の定、不貞腐れた態度のピザデブ兄弟からの挨拶は無かった。



「そしてそのお隣の方が黒石康之助様。康之助様は現在無職で自分探しの旅の真っ最中でございます」



「おい違うぞボーゲル。俺は自由を求めて旅をしているんだ、そこを履き違えるなよ」


途中、康之助からボーゲルへクレイムが飛ぶが、ボーゲルに気にした様子はない。


昔なにやら因縁があった様だがそれを伺い知る事は出来ない。


康之助さんの印象は、剛毅で兄貴分な引っ張っていってくれる人。そんな印象だ。


見た目も短髪にガチムッチョのガッテン系だ。


ちなみにボクシングで東洋太平洋チャンピオンになった事もある実力者だ。


その実力から世界も狙えると言われていたが、何故か表舞台から姿を消した。



「おい、優畄とかいったな」


突然僕に話を振る康之助。


「は、はい」


「酒は飲めるか?今度一緒に飲みに行こうぜ」


「えっ!?の、飲みに?!」


なんと康之助から飲みの誘いが来たのだ。



「……康之助様、夢畄様はまだ未成年でございます。不逞の行為に導くその様な行為はお慎みください」


ボーゲルの言葉には康之助を軽蔑する色が伺えた。


「硬い事を言うな、だからお前はつまらんのだ」



康之助とボーゲルが睨み合いピリピリとした空気が張り詰める大広間。毎度の事なのか周りの親族に変わった様子はない。


だけど僕は気が気じゃない……


(おい、おい、この状況はやばいんじゃないのか?なんで誰も止めないんだ?!)



「毎度の事だから心配しなくても大丈夫でしてよお兄様」


「お、お兄様?」


突然割って入ってきたのは、この屋敷に相応しくない金髪にブルーアイズの少女。


その胸には彼女とソックリな人形が抱かれている。



「猫の戯れ合いみたいなものですわ。お気になさらずに、お兄様」



(この子また僕の事をお兄様と……なんでだ?)


「猫の戯れ合いって、マリアあんまりな言い草だな」


「だってそうじゃない、今日は優畄お兄様との初顔合わせなんだから邪魔しないでほしいわ」


「今度はコイツに付き纏うつもりなのかマリア?」


「付き纏うだなんて、なんて言い草でしょう。なんでしたら、またあちらの世界へ送って差し上げましてよ」


此方の2人にもどうやら因縁がある様だ。


(康之助さんが酷く怯えた様な顔になったけど、この女の子は一体何者なんだ?……)



「……そいつは勘弁だ」


「そう、それは残念」


康之助が突っかかってくるのを期待していたのか残念そうなマリア。



「それじゃあと。俺は場違いみたいなんでここらで行かせてもらうぜ」


康之助さんは立ち上がるともう帰ると言いだした。



「おい当主候補、困ったことがあったらいつでも俺のところにきな。少しは力になってやる」


そうとだけ言い残すと康之助はこの場を去っていった。


「「「………」」」


突然の康之助の退場だったが、他の親族にはまるで気にした様子は見られない。


きっといつもの光景なのだろう。



「話は逸れましたが、引き続きご紹介を」


そしてボーゲルさんはいたってマイペースだ。



「続きまして黒石陣斗様。陣斗様は若くして黒石系列の研究所の所長であらせられます」


(け、研究所の所長!まだ20歳位なのに凄いな……)


「優畄君、よろしく」


この人の印象は年がら年中研究室に閉じこもり研究三昧。そんな印象だ。


見た目もガリヒョロで少しは日光浴をした方がいいと思えるほどに不健康にみえる。


顔が良いだけに勿体ない……




「そして最後に、この石黒家相談役にあらせられますマリア様。マリア様には、この黒石の領土全般の維持と管理を担っていただいております」



(えっ!?こんな女の子が?!)


今までで1番驚いたかも知れないマリアという少女の存在。見た目が少女だからかその存在は尚更不気味だ。


正直あまり関わりたくない。そう思えるほどマリアの存在は異質なのだ。



そしてお開きになった黒石家親族との顔見せ会。


途中で康之助さんが退場したり、解散後ピザデブ兄弟が難癖を付けてきたり(テメエ、ムカつく!とか何とか言ってたな……)といろいろあったが、なんとか乗り切った感のある僕。



そして僕は再びボーゲルさんの導きによってある場所を目指していた。

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