遺物創造主(アーティファクトメイカー)の気まま旅 〜最強無敵の錬金術師は弟子が欲しい〜

りゅーいち

プロローグ

閉店致します

「そうだ、弟子を探そう」


 俺の名前はキリオン。ここ“キリオン工房”の店主であり、唯一の店員であり、そして商品の作製主でもある。


 商品は錬金術で作った道具。こう言うと瓶やら素材やらでごちゃごちゃした店を想像する人は多いらしいんだが、俺がやるのは基本的にオーダーメイドだから店に商品は並んでいない。


 顧客が入れる場所にあるのは、俺が座っている椅子と頬杖をついているカウンター、それと顧客用の椅子だ。

 もちろん全て錬金術で俺が作ったものだ。


 中でもこの椅子は最高傑作の1つ。1日どころか1週間くらい座っていても尻と腰と背中が疲れない。顧客の中には、他の道具の商談を全部ほっぽり出してこれを売ってくれという人物もいるくらいだ。

 ……まあ、価格を聞いて大抵諦めてしまうのだが。


 閑話休題。


 店から遠いはずのメインストリートから聞こえてくる喧騒をBGMに、先程の呟きについて考えてみる。


 俺は、自分で言うのもアレなんだがすごい錬金術師だ。


 顧客の要望以上の物を常に作りつづけてきた。

 これからメインストリートで行われるパレードの主役にも、俺の商品は渡っていたはずだ。

 俺の作った物で活躍してくれたと思うと、鼻が高い。


 しかし問題もあった。


 この技術を伝承できる人間が見つからないのだ。


 以前は俺の弟子になりたいという錬金術師の卵もそれなりにいたんだが……俺が求めているのは必ずしも錬金術の才能ではないから仕方ない。


 そんなわけで今まで弟子というものは諦めていたのだが……


 待っていて見つからないなら、探せば良い。


 なぜこんな簡単なことに今まで気がつかなかったのか。


「そうと決まれば早速閉店の準備かな。とはいえ持ち出すものはほとんどないし、パパッとやっちゃうか」


 俺は自慢の天パをいじる手を止める。考え事をしている時にやってしまう俺の癖だ。


 パレードの1週間前くらいから急に顧客の数は途絶えてしまったし、そろそろ移転なりなんなりしようかと考えていた頃合いだったから丁度いい。


「んじゃ、先に店内からかな。“分解”」


 俺が右手をかざすと、緑色の光が手の平から溢れ出してカウンターに降り注ぐ。もう何千何万と見た光景だけど今だに神秘的に感じるのだから不思議だ。


 光を浴びたカウンターはカタカタと動き出し、あっという間に原木と金属塊に変わった。


 錬金術による製品完成までのプロセスは大きく分けて3つ。原料から使いたい性質・成分を取り出す“抽出”、それを入れる器を形作る“成形”、そして取り出した性質を器に入れる“注入”。今やった“分解”は“成形”の逆バージョンだ。


 以前他の錬金術師と話したことがあるが、俺の使う錬金術は少々特殊らしい。“抽出”はほとんどやらないし、“成形”はできても“分解”で元の素材には戻せない。


 再利用もできないなんて不便だよなあと思いつつもいつのまにか店の奥、作業スペースの不要なものたちもいつのまにか分解が終わっていた。


「じゃあこいつらはしまうか。来い、“コンテナ”」


 そう言うと今度は白い魔法陣が地面に現れる。大きさはちょっと小さめの絨毯くらい。そこに向かってぽいっと分解した原料を投げ込む。そいつらは魔法陣の中に消えていった。


 魔法のように見えるけどこれもれっきとした錬金術の道具。物を異空間の中に保存しておける“コンテナ”だ。安全な場所でしか使えないことが唯一の難点だが、容量はほぼ無限。


 さらに中では時間の流れもゆっくりになっており、確認した限りでは1ヶ月前の食事を暖かいまま食べることができた。ちなみに設計上は3年くらいなら大丈夫。

 なお錬金術の最中でも邪魔にならないように、今みたいに俺の音声に合わせて発動できるようにしてある。これは後付けの機能だな。


 いやー、これを作製してからというもの作業がそれまでと比べ物にならないほど快適になった。これもある意味では最高の発明かもしれない。


「さて、原料はこんなもんかな。あとは本とか椅子を詰め込んで……」


 店内と作業場、それに個人的な生活スペースにある家具たちにポンポンと触っていき、コンテナに回収させる。こういうまとめて大きなものを修理するのにもコンテナは便利だ。ちなみにこの機能も後付けだ。


「ほい、片付け完了! あとは適当に手続きしておしまいかな」


 不動産屋に退去手続き、商業ギルドに店じまいの報告、各種定期便のキャンセルに……ああ手続きというやつは面倒だ。これもコンテナに物をしまうように楽にやりたい。


「そうだそうだ、肝心なこと忘れてた」


 取り出しましたるは紙とペン。あとテープって呼んでる、片面が粘着質になった薄くて透明で靭性の高い膜。


 紙に文字を書いて……


「ドアに貼り付ければオッケーだな。これで新規の顧客にも伝わるだろう」


『店主都合により、閉店致します。ご愛顧ありがとうございました キリオン』


 そう書いた紙を貼り付けて、ペンとテープ、ついでに表の看板も下ろしてコンテナにポイ。


「さーてメインストリートはパレードでも役所はやってるはずだよな、今日平日だし。サクサクっと終わらせて今日中にはこの街を発ちたいなあ」


 そう言いながら、通用口から役所目指して歩いて行った。パレードが始まったようでものすごい盛り上がりようだが、俺の心はその盛り上がりにも負けないほどワクワクしていた。

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