水の畔

碧瀬空

水は全ての起源なり


「水」に纏わる伝承は数多く存在する。



 晴れた日に雨が降ると

 狐の嫁入りが行われている、

 河童に遭うと尻子玉を抜かれる。


「水」を司る神様、

「水神」がいるとも。



 各地で多少名称は違えど、

 それらはほぼ

 同じものを指している。



 日本は「水」が豊富な国だ。


「水」に対する畏怖が

 人一倍強い国だとも言える。


 それ故に、

 このような伝承が

 語り継がれてきたのだろう。



 そんな国で、


「水は骨から生まれる」


 という噂が流布したなら

 どうなるだろうか。



 今でさえ、

「水」に対する畏敬の念は

 薄れつつあるものの、

 私たちはそういう

 オカルト的なところに

 弱い節がある。


 真偽が定かでない

 妖しい何かに惹かれる

 風潮が存在するのかもしれない。


 無意識の、

 それも潜在意識の中に

 植え付けられた

 本能には逆らえない。




 しかし、柊水にとって

「水」は無意識下での

 対象ではない。



「俺はね、誰よりも

 水でいなきゃいけないんだ」


 常に付きまとう因縁であり、

 存在意義で、

 生き甲斐で、道標だ。



「水でないなら、

 生きている価値もない」



「水」という概念を愛し、

「水」という呪縛に囚われ、

 ただ一人の愛を欲した。


 鏡花水月のような何かを

 ただ偏に追い求めて。



「貴方は水という

 お名前をお持ちですから、

 生きている限り水ですよ。


 何も、無理に

 成ろうとなさらなくとも、

 水以外の別物ではありません」



 その行く末はきっと、

 手に掬ってみても掴めない

「水」宛らだろう。



「いいや、違うんだよ。

 俺は、水という

 名前を与えられたからこそ、

 水のような人間にならなくては

 ……いや、水のような

 人間でなくてはならないんだ」



 孤独に苛まれる柊水は

 人を癒す薬と人を狂わせる劇薬、

 どちらになり得るだろうか。




「水」に呑まれ、

「水」に溺れる者たちが

 織りなす水と欲の怪奇。


 柊水に行き逢った彼等の悲劇は

 ――「水」に始まり、「水」に終わる。



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