顔のない人々に関する考察
ニャルさま
1 カイロの街で彼女と出会い、黒い陶像を手にすること。
私はカイロの街を歩いていた。
異国情緒を感じさせるエキゾチックな建物のデザインが私を楽しませる。日本とは違う色彩感覚の食べ物や衣服が並ぶ商店に目をチカチカさせた。
そんな、どこか違和感を覚える街並みをどこへ行くとでもなくさまよう。
カイロの街でぼんやりとした時間を過ごすうち、とある店の前でなんとなく立ち止まった。
それは奇妙な彫刻の数々が置かれた店だった。見るものすべてが珍しいと感じる私にとっても、一風変わった雰囲気だった。
店に入ると店主と思しき男がチラとこちらを見て、すぐ興味なさげにそっぽを向く。どこか陰気な印象の親父だった。
陳列を眺めているうちに、なんとなく興味を抱いた私は、猫の頭をしている女性の彫刻を手に取った。
大きさはちょうど手のひらに収まる程度、6~7cmくらいの細身の像だ。触れるとその素材が陶器であることがわかる。
「それはバステト女神の像よ」
不意に話しかけられた。
振り向くと、いつの間にか私の後ろに若い女性が立っていた。
金髪に白い肌、欧州の人のような容姿だが、彼女のファッションから観光客の臭いはしなかった。現地の女性たちと同様に地味な色のスカーフをまとっており、どことなく生活臭の感じ取れる服装もカイロの人々と変わりはない。
そんな不信感と好奇心の渦巻く私に、彼女はイアラと名乗る。
ここの店員なのだろうか。親切に商品の説明をしてくれる。
神話や伝説に登場する神々や王、英雄たち――あるいは怪物たちをかたどった数々の彫像たち。その解説を聞くたびに、まるで映像でも見ているかのように想像が実体を持って迫ってくる臨場感がある。
やがて、彫像たちの中でもひときわ奇妙な雰囲気を持った、顔のない黒い怪物の像が私の興味を引き付けた。その像に視線を向けると、妙に冷めた眼差しになったイアラがつぶやいた。
「それは顔のない黒いスフィンクス――ニャルラトホテプよ」
その言葉を聞いた瞬間、電撃を浴びたような衝撃を受けた。私の両腕は私の意思とは関係なく、電気を帯びたロボットでもあるかのように反射的に動く。
いつの間にか、私は黒い陶像を握りしめていた。
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