狸寝入り

せいや

狸寝入り

(眠気も無いのに目を閉じ続けるってのは、思いの外しんどいものだ。

狸寝入りを始めてから何分経過したのだろう。

というか、奴がゴールにたどり着くのにあとどれくらいかかるのだ。あぁ、こんな事なら奴が普段歩く速さを前もって聞いておくんだった。

それか昨晩オールでもして眠気を溜めておくんだった。スタート前に睡眠薬でも飲んでおくんだった。

あぁ、しんどい。眠りたいのに眠れないのもしんどいが、眠りたくないのに眠らなければならないのはもっと辛い。

早くしてくれ。出来るだけ速く歩いてくれ。奴が走れないのは知っている。奴が俺みたいに跳べないのも知っている。だからせめて速く歩いてくれ。このレースを競歩だと思ってくれ。

羊でも数えようか。いや、羊を数えて眠りにつけたためしがない。あんなものは人間がつくり出したまやかしだ。

だめだ。八方塞がりだ。早く、はやく...


...おや?なんだか周りが妙に騒がしいな。

お、これはもしかして...?)


目を開けると、客席が盛り上がっていた。レースが終わったのだ。

彼はこぼれそうになる笑みをなんとか堪え、負けて悔しがっている演技をした。

そして、喜びを表現している対戦相手に小声で言った。


「カメさんよぉ、負けてやったぜ。

これで勝者の名誉はお前のものだ。

約束通り、明日までに賞金の倍の額を俺の口座に振り込みな」

「わ、わかりましたウサギさん...」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狸寝入り せいや @mc-mant-sas

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ