第171話


 ギルドに依頼書が受領されて一週間後。

 早くも人員が揃ったので、街道整備に取り掛かる事になった。

 のだけれど。


 なんか、私は居ても邪魔だからという理由で手伝わせてもらえなかった。

 全員一致でかたくなに譲ってくれなかったので、オウカ食堂に行ってフローラちゃんとお茶している。



「……納得いかん」

「仕方ないですよ。純粋な力仕事ですからね」


 呆れた調子でフローラちゃんに言われて、ぐでーっとテーブルに突っ伏した。


「いやまー、分かっちゃいるんだけどさー。

 なんか、皆が暴走しないかが不安なとこなんだよね」


 お店の件とか、列車の件とか。


「あぁ。毎回凄いことになってますからね」

「街道を綺麗にするだけだから大丈夫だとは思うんだけど」

「たまに様子を見に行ったら良いんじゃないですか?」

「やー、それも最初は断られたんだよねー……なんなんだ、ほんと」


 完全に部外者扱いである。

 最初は毎日様子見に行こうとしてたけど、全員揃って首を横に振られた。

 結局妥協案として、定期的に見に行く事になったんだけど。


 いや、危険だって事は分かるんだけどさ。

 なんかこう、釈然しゃくぜんとしない。



「……まあ、依頼受けてくれただけ良かったと思いましょうよ」

「んー。そだね。腑に落ちないけど」

「それより、フリドールの件なんですけど。イグニスさんから連絡来てましたよ」

「ん? なんかあったの?」

「水中で作業できるゴーレムの量産に成功したらしいですね。近々海中作業に移るようです」

「おー。さすがイグニスさん。仕事が速いなー」


 て事はいよいよ、列車がフリドールまで走れるようになるのか。

 そろそろあっちのお店の方も出来てるだろうし、またフリドールに行かなきゃな。


 あ、てか、カエデさんに使い魔の話もしに行かなきゃ。

 地味に忙しいなー。


「他にも色々と情報が入ってきてますけど……むしろなんでオウカさんが知らないんですかね」

「フローラちゃんに伝えた方が確実だからじゃないかなー。頼りにしてるよ」

「最近ちょっとだけ、自分の立場が分からなくなります」


 難しい顔で腕を組まれた。


「え、フローラちゃんは本店店長でしょ?」

「代理ですよ、代理。本来ならこれ全部、オウカさんの仕事ですからね?」

「いや、私には無理だから。フローラちゃん店長になってよ」

「この人は……せめて作業進捗くらいは把握しててください」

「……えへっ」


 両頬に人差し指を当てて、笑って誤魔化す。

 ……こっちを見るフローラちゃんの目がすっげぇ冷たくなった。


「オウカさん、可愛くしてもダメですからね」

「あ、それそれ。前も思ったんだけど…」

「それ? どれですか?」

「いや、フローラちゃん的に、私って可愛いの?」

「…………え?」

「……うん?」


 何か信じられないものを見るような顔をされた。

 なんだこの反応。


「オウカさん、鏡を見たことあります?」

「いや、そりゃあるけど?」


 なんか凄い困惑した顔してんな。

 言われたこっちも意味分かんないけど。


「ええと、自分ではどう思ってるんですか?」

「どうって……変な色?」

「髪とか目じゃなくて。いやそれも含めてですけど、顔立ちの話ですよ」

「あんまし考えたことないけど……普通じゃない?」


 別に良くも悪くもないと思う。

 髪と目はめっちゃ目立つけど。


「うわ。マジかこの人」

「え、なに? どゆこと?」

「じゃあ今までの全部、天然ですか」

「いやだから、何が?」


 まったく意味が分かんないんだけど。何の話だ?


「……オウカさんって、自分に向けられる好意に鈍いって言われません?」

「あ、それ、なんかよく言われる。そんな事ないと思うんだけどなー」


 最近出会った人ってみんな、良い人ばかりだったし。

 本当にいつも良くしてもらってるからなー。


「あの、いま思い浮かべたこと、多分色々と間違えてますからね?」

「うん? 何が?」

「……ダメだこれ、早くどうにかしないと」

「いや、ちょっと待とうか。ぜんっぜん意味が分からないんだけど」


 え、なに。なんか間違ってるか?

 いやでも、みんな良い人ばかりじゃん。


「えーと……あ、ほら。よく求婚されてますよね?」

「あんなんいつもの冗談じゃん」

「男性からよく声を掛けられませんか?」

「なんかよく道聞かれたり食べ物貰ったりする」

「……同世代の方からは?」

「学校の奴らは遠巻きにこっち見てたわね」

「………。あのですね。オウカさん、見た目かなり美少女ですからね。もう少し自覚を持ちましょう」

「はあ? 私が?」


 また意味の分からない事を言い出したな。

 なんで私が美少女なのよ。そういうのはカエデさんとかエリーちゃんに使う言葉でしょうが。


「オウカさんって……かなり自己評価低いですよね」

「いやいやいや。妥当でしょ?」

「容姿だけじゃなくて実績面でも。ただの町娘ならオーガ倒したり王国の物流改善したりしないでしょう」

「うぐっ……いやそれはほら、周りの人がやった事だし」

「一個一個功績を言っていきます?」

「それはやめて……お願いだから」


 普段から考えないようにしてんだから。

 冒険者ギルドのタグとか、賞罰が自動で浮き出る欄が怖くてずっと収納しっぱなしだもん。


 てか、それ全部私だけの力じゃないからね。

 装備と周りの人が凄いだけだし。


「とにかく立ち振る舞いには気をつけた方が良いですよ。オウカさん、他人との距離感近すぎるとこあるんで」

「そっかなー……好きな人に触れたいのって普通じゃない?」

「……そういう所ですってば」

「え、なにが?」

「いえ、分からないなら良いです……私そろそろ仕事に戻りますね」

「あいあい。頑張ってねー……とりゃ!」


 隙があったから抱きついてみた。


「ひゃっ!? だからいきなり抱きつくのはやめてくださいってば!!」

「にひひ。んじゃまたねー」

「あ、ちょ……まったくもう」



 怒られる前に逃げるが勝ち。


 てゆかフローラちゃんの美的感覚、よう分からん。

 本人は美少女なのになー。勿体ない。

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