第170話
ひとまず冒険者ギルドに行って、グラッドさんに相談を持ち掛けてみた。
「……お前は毎度毎度、何でそう滅茶苦茶な話を持って来るんだ」
「えー。でもみんな便利になるじゃん」
「それはそうなんだが……ふむ。まあ、依頼を出せば人は集まるだろうな」
「でしょ? 道が整ってる方が便利だし。それに、エルフ達の件で常駐依頼も減ってるからちょうど良いじゃん」
「いや、そういう意味じゃないんだが」
葉巻を咥えて火をつけながら、苦々しく笑う。
は? んじゃどういう意味よ。
「さておき。具体的にどうするつもりだ? まさか石畳を敷く訳にも行かんだろう」
「うん? いや、前に依頼で行った鉱山あんじゃん。あそこから石運べない?」
「……なるほど。確かにあそこなら王都にも近いな」
「んで、運ぶのもお任せしようかなーと」
馬車で荷車走らせれば大丈夫だろうし。
そこまで依頼にしちゃった方がたくさんの人に仕事が回るからね。
「石工職人さんに切り出して貰って、石畳運んでもらって、みんなに整備してもらう。どう?」
「ふむ。悪くない話だと思うが、それなりに金がかかるぞ?」
「むしろそれも目的の一つだからねー。なんか経済とかを回すのにお金使わなきゃいけないんでしょ?」
ぶっちゃけよく分かってないけど。でも皆が困ることはしたくない。
「お前、変なところで知識があるな。
まあ一箇所に金が留まると物流も途絶えるのは確かだが」
「詳しいことは分かんないけどね。でも皆が困ることはしたくないし」
「……よし、話は分かった。着いてこい、受領してやる」
難しい顔で考え込んだ後、先に部屋を出て行った。
慌てて後を追い、受付のカウンターまで移動する。
「リーザ、特殊依頼だ。発注者はオウカ。
内容は石畳の切り出し、運搬、街道整備、作業員の護衛で頼む」
「お願いしまーす」
「あらまあ……また凄いこと考えましたね。とりあえず、依頼書出しておきますね」
楽しそうに笑うリーザさん。何だか少女のようにも見えて、少し可愛い。
「頼みます。あ、依頼料はお任せしますね」
「相場で出しておきます。それで、どの街道ですか?」
「とりあえずアスーラの方で。上手くいったらビストールの方もやりたいですけど」
北のアスーラまでの街道を綺麗に出来たら海産物を運びやすくなるだろうし。
そうなったら王都でも今より気軽に魚介類を食べられるようになるかもしんない。
まあ、私の場合は現地に買いに行くだろうけど。
色々あって面白いんだよね、アスーラ。
「なるほど。しかしこれ、相当な時間と労力が必要ですね。
常駐依頼が滞ると困っちゃうんですが」
「んー。そこはほら、ご近所さんに手伝って貰いませんか?」
「ご近所って?」
「エルフの人達です。しばらくの間なら採取も討伐も何とかなると思います」
王都でのお仕事があれば、エルフさん達も助かるだろうし。
こっちも助けてもらえて一石二鳥だ。
「なるほど……でも、受けて頂けますかね」
「多分大丈夫だと思うんですけど……まあ、難しいようなら直接頼んでみます」
「ではその方向で。他に問題が出てきたら伝えますね」
「お願いします。じゃ、ちょっと行ってきますね」
「はい、お気をつけて」
さてさて。お土産にマカロン作って行かなきゃね。
「うむ。引き受けよう」
エルフの族長のファルスさんに事の次第を話した所、即答された。
「頼んでおいて何ですけど……もうちょい考えたりしなくて大丈夫ですか?」
「オウカの頼みだ。誰も断らん。それに元よりその予定もあったからな」
ニカっと豪快に笑う。相変わらずだな、この人。
「そですか。まあ、ありがたいです」
「皆には私から伝えておこう。きっと喜ぶだろう」
「んじゃお願いします」
「ところでどうだ、嫁に来る気になったか?」
またか。懲りないなー。
「なりません」
「そうか。ではまた改めるとしよう」
めげないな、この人。
さすが、レンジュさんに求婚しただけの事はあるわ。
「あ、てか聞きたかったんですけど」
「なんだ?」
「どうして恵みの森からこっちに引っ越して来たんですか?」
「なに、単純な話だ。森人の数が増えすぎてな。
住む場所に困り、若い者達で新天地を探していた所にユークリアから打診があったと言う訳だ」
なるほど。王様と知り合いだってのはしってたけど、直接話が来てたのか。
じゃあやっぱり、こないだの依頼はただの口実だったのね。
「あれ、じゃあファルスさんも若いんですか?」
「私はまだ百三十六歳だな」
いやいや。まだって年齢じゃないと思う。
「あの、エルフってどんだけ長寿なんですか?」
「恵みの森の長老は四桁を超えているな。正確な歳は本人も分からんらしい」
「ほえー。凄いですね」
四桁て。森の大木とかと変わらないのか。
それならたしかに、百三十六は若者扱いだわ。
「ん? じゃあ古代語とか分かったりします?」
「ああ、あまり人族とは関わってはいなかったから、ある程度だがな」
「んー。この指輪の内側なんですけど、なんて書いてあるか分かりますか?」
リングをチェーンごと手渡す。
これ、本人にも分からないらしいけど、どうなんだろ。
「ふむ……すまないが私には読めない。だが、長老なら分かるかも知れないな」
「なる。そですか」
「もし行くことがあれば私の名を出すと良い。歓迎されるだろう」
「お。ありがとうございます」
んー。まあ、機会があったら行ってみようかな。
うちの相棒、謎が多いし。
「さて、私はそろそろ戻りますね」
「そうか。ではまた近い内に会おう」
「また王都に遊びに来てください。ではでは」
「ああ、気をつけてな」
別れの言葉を告げ、森を飛び立った。
んー。なんか、目的は果たせたけど、また謎が増えたな。
リングのこと、もうちょい調べてみた方が良いのかなー。
とりあえずは目先の問題を片付けてからになるけど。
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