第169話


 領主様が帰ったあと、近所の人たちを巻き込んで盛大なカニ祭りが開催された。

 滅多に手に入らない高級食材なだけあって、みんな嬉しそうに食べてくれた。

 それでも余ってしまう辺り、ちょっと狩り過ぎたかなーとか思っている。



 なので、オウカ食堂で数量限定メニューとして売り出してみる事にした。


 最初にみじん切りにした玉ねぎを炒めておいて、茹でたカニの身を解して小麦粉と牛乳を混ぜる。

 そこに塩とコショウで味付けして、小麦粉、卵、パン粉の順にまぶしていく。

 最後に高めの温度でカリッと揚げれば完成。

 カニクリームコロッケである。


 カニそのまんまだとお弁当には向かないからね。

 高級食材を揚げちゃうのは罪悪感あるけど……まあ、今更だしな。

 最高級食材のドラゴン肉も揚げちゃったし。



 普段より高めに設定したにも関わらず、カニクリームコロッケ弁当は開店一時間で売り切れた。

 まかない分に取っておいた分も売れてしまい、お店の子達が少し切なそうな顔をしていた。

 前言撤回。また今度狩って来るか。


「あ、そだ。フローラちゃん、アスーラとビストールって特に問題ない感じ?」

「大きなトラブルがあった報告は来ていませんね。流通も滞っていませんし、売上は右肩上がりです」

「なるる。魔法教えて貰ってる子達はどう?」

「既に魔法を使える子がほとんどだそうですよ。最高の先生が就いてますから」

「やっぱみんな使えるのかー……まーそうだよね」

「ちなみにカノンさんの下で働いているシルファですが、どんどん仕事を任されてきているようです」

「おー。みんな頑張ってんねー」


 例によって例のごとく、私は何もしてないけど。

 そういやフリドールの件はどうなってんだろうか。

 近いうちにイグニスさんとこ行かなきゃなー。


「ところでオウカさん。最近、国王陛下が頻繁にお店に来るんですけど。何かしました?」

「あー……うん。なんかゴメン」

「やっぱりですか……ウチの店、違う意味でも話題になってますよ。

 英雄が開いた店で他の英雄が定期的に通っていて、更には国王陛下が足を運んでいますからね」

「いや、私は英雄じゃないから」


 でも確かに、そう聞くと中々にとんでもない事になってんなー。

 英雄とか、普通なら年に一回見かけるかどうかだし。

 普通なら、だけど。なんか今更感あるけど。


「まだそんなこと言ってるんですか。諦めて受け入れましょうよ」

「じゃあフローラちゃんは店長になってね」

「それはお断りします」

「なんでよー。実質店長じゃんかー」


 ぶっちゃけ、私居なくても回ってるもんね。


「オウカ食堂の店長はオウカさんです。そこは譲れません」

「むむむ……中々折れてくれないよね」

「お互い様かと。あ、そう言えば、王都のお店……オウカ食堂本店とネーヴェ菓子店に関してなんですが」

「んに? 何かあった?」

「いえ、好調過ぎてですね……売上が大変な事になってるの、ご存知でした?」

「え、そうなの?」

「王都の一等地にある御屋敷が余裕で買えます」


 ……は?

 ちょい待って。王都の一等地って、金貨が百枚単位とかだったと思うんだけど。

 普通の人が一年間で稼げる額が金貨三枚くらいだよね?


「マジか……うーん。そこまで儲けが出てるとは思ってなかったわ」

「人件費や列車の件で結構使ってますけど……それを踏まえても売上がとんでもない事になってるんです。

 この辺りの冒険者のほぼ全員がお弁当買って行きますし、貴族様方がお菓子を買いに来てますからね」

「あー……なるほど」

「どれだけ作り置きしてても毎日在庫切れです」


 うわあ。そんなとんでもない事になってるとは思ってなかったわ。


「んー。どうしたもんかなー。みんなのお給料上げる?」

「今でも十分すぎる額を貰っています。これ以上あげるのはどうかと」

「そっかー……色んな孤児院に定期的な寄付はしてるんだよね?」

「勿論です。ですが、そちらにも限度がありますし……」

「まさかお金の使い道で困ることになるとは思わなかったわ」


 んー……まあ、良いことではあるんだろうけど……

 確か、一箇所にお金が集まりすぎるのは良くないって学校で聞いた覚えがある。

 どっかでお金が止まっちゃうと街の営みが回らなくなる、とかなんとか。

 だったら何かに使わなきゃいけないんだけど……


「何か買うか……? でも何を買うのよってなるよね」

「現状、特に困ってませんからね」

「ふむ……あ、そうだ」

「何か閃きました?」

「依頼出して街道の整備してもらうってのは?」

「……は? 街道ですか?」

「いや、今のままだと馬車でも時間かかるし、何気に乗ってるとお尻も痛くなるしさ」


 思い出したのは初めて王都に来た時のこと。

 野宿はしてないけど、馬宿は綺麗では無かったし、移動中はクッションが必須なくらいガタガタ揺れてたし。

 その辺を整備出来れば少しは行き来しやすくなるんじゃないかな。


「……また凄いこと考えますね」

「でもありだと思わない? 冒険者のみんなに依頼出せば作業中のに魔物出ても対処もしてくれるだろうし」

「確かに……悪くないかもしれませんね」

「んじゃ、ちょっとカノンさんに相談しに行くかなー」

「いや、そんな気軽に……大丈夫なんですか?」

「ふふん。我に秘策あり」


 ニヤリと不敵に笑ってみた。




「ちわーす。お届け物でーす」


 手なわけで。いつものノリで王城に来てみた。

 ちょうど良くカノンさんとカエデさんが居たので、大きく手を振る。

 

「オウカちゃん、こんにち、は。」

「あら。お届け物ですか?」

「正確には新作できたんで貢ぎにきました。お納めください」

「はあ……どうも。これは?」

「オウカ特製プリン、アレンジ版です」

「わ。真っ白だ、ね」

「ミルクプリンです。バニラを入れて臭みは消してます。どぞどぞ」


 アイスクリームの応用で生クリームとバニラを入れてみたんだよね。

 卵の臭みも消えるし、食感も味もパワーアップした一品である。

 あ、カノンさんがソワソワしだした。


「で、ではせっかくなので……っ!? これは……!?」

「わ、凄い……とてもなめらかだ、ね」

「特別製なので。あ、皆さんの分あるので後で配っておいてください」

「凄いですね……あれより更に美味しくなるとは……ああ、幸せです……」


 普段のクールな振る舞いとは違い、プリンのように蕩けたお顔のカノンさん。

 よし。効果は抜群だ。


「ところで相談があるんですけど」

「……はい? あ、すみません。なんですか?」

「いえ、今度街道の整備をしようと思ってまして。なんか店の売上が凄いんで、お金使わないと行けないんですよね」


 ぴくりと。プリンの容器を持つカノンの手が震えた。


「……なるほど。つまり、私の仕事が増えることに対する賄賂わいろですか、これ」

「やだなー。ただのお裾分けですよー」

「はあ……分かりました。どうせ何を言ってもやるのでしょう。

 具体的な案は纏まってるんですか?」

「や、まだです。先に話を通しとこうかなーと」

「それは正直ありがたいですね……では、具体案が決まったら教えてください」

「りょーかいでーす」


 深く、大きなため息。

 いやほんと、毎度毎度お世話になります。


 あとは日程決めて、護衛と整備してくれる人の依頼出して……

 ついでに、馬宿を定期的に掃除出来るようにしたい所だね。

 ちょっと寝心地悪かったしなー、あそこ。

 とにかく、一度戻ってフローラちゃんと相談だな、うん。



「……ちなみに、お味は如何でした?」

「……また作ってきてください。是非」

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