第150話


 翌朝。

 朝食は大きなソーセージとオーク肉のスープに、ブランデーを少し入れたホットミルクを出してくれた。

 どれも美味しくて体がポカポカになった。


 特にソーセージ。王都とは違いスパイスをたくさん使った辛めな味付けで、ピリっとしててめっちゃ美味かった。

 あれは頑張って再現したいところである。


 宿屋のおばちゃんにしっかりお礼を言ってから、防寒装備で宿を出た。



 さて。折角フリドールに来たので色々見て回ろうと、宿を出たのは良いんだけど。

 大通りからして、王都とはえらい違っている。


 まず、露店が無い。

 雪が積もるからかもしんないけど、これだけ広い道に何も無いのはかなり新鮮だ。


 それに街中は何処も白く煌めいていて、歩いているだけで楽しくなる。


 道の真ん中だけ膨らんでるのは、雪が解けたら水が端を流れるように作ってあんのかな。


 あと見た感じ、どの家にも煙突があって、朝早いのにいろんな所から白い煙が上がっている。

 モクモクしてて面白い。



 とりあえず前にエリーちゃんが革製品の聖地と言っていたので、一番大きな革加工店に入ってみた。

 中も王都とは少し違う。

 窓が小さくて、代わりに大きな暖炉が部屋の隅にある。

 でも、独特なオイルと革の匂いは同じだ。


 店内を色々見て回ると、王都では見かけない商品がたくさんあった。


 主に防寒具。

 ふわふわな毛が着いてる革鎧や内側がモコモコな手袋。

 ヘルメットのような帽子もある。

 中でも目を引いたのが、ちょっと可愛いジャケット。

 裏起毛で暖かそうだし、腰部分が空いてるからホルダーを付けるのにもちょうど良い。

 少し迷ったけど、サイズもちょうど良いので買っておいた。


 他にもエリーちゃんへのお土産にちょっと小さめな手袋。

 意匠が可愛いし、似合いそうだなー。



 次に足を踏み入れたのは、ガラス細工のお店。

 動物や魔物をモチーフにしたオブジェやアクセサリー。

 どれも精巧に作られていて、キラキラと光を反射している。

 店の奥には素敵な色使いのステンドグラス。

 小さめだけど、教会のものと同じくらい綺麗だった。


 ここではユニコーンの形をしたペン立てを購入。

 ガラスなのに耐久性にも優れているらしいので、普段使い出来そうだ。



 少し小腹が空いたので、次はカフェに行ってみた。

 キラキラした外見と違って、中は暖かな雰囲気の小さなお店。

 見たことも無い名前の料理を頼んで見ると、サービスで紅茶を付けてくれた。


 運ばれて来た料理は、見た目は薄く切ったバゲットに肉を挟んだもの。

 食べてると、なんと熊肉だった。

 獣臭さもスパイスで消されていて、中々美味しい。



 お昼用に持ち帰りで何品か包んでもらい、お昼前。

 そろそろ良い頃合いかなと思い、冒険者ギルドに足を運んでみた。


 昨日とは違い随分と活気に溢れている。

 受付には昨日見たお姉さんの姿。

 ふむ……とりあえず、依頼書を見てみよっかな。


「あらぁ…昨日の子ねぇ…いらっしゃいぃ…」


 昨日も思ったけど、ゆったりとした喋り方な人だな。

 何となく、気分が落ち着く。

 ……あと、やっぱり胸が大きい。

 受付のお姉さんってみんな胸が大きいよね。


「おはようございます。アルカさんでしたっけ」

「そうよぉ…依頼を見に来たのぉ…?」

「ですです。緊急性の高いやつとかあります?」

「今だとぉ…雪熊の討伐かしらぁ…」


 雪熊。どんなんだっけ。確かでっかくて白い熊だったっけか。


「お、これか。んじゃ受けますね」

「いいけどぉ…大丈夫ぅ…?」

「たぶん。ヤバそうだったら逃げます」

「そぉ…気をつけてねぇ…」

「はーい」


 さてさて。さっそく新調したジャケットを使ってみるか。




 街門から外に出ると、一面雪景色だった。

 すっごい。見える範囲ずっと積もってる。

 白くてキラキラしてて綺麗だ。

 ちょっと歩きにくいけど……そこは飛んじゃえば変わりないか。


 それに、今日は暖かいし。

 外套の下にジャケット羽織っただけなのに、かなり違うな。

 これなら空も寒くないかも。


「リング、検索頼んだ。雪熊いる?」

「――右方向、森の中に敵性反応。二匹います」

「おっけ。じゃあ行こっか」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition」



 桜色を纏い、低空を飛んで森へ向かう。

 一匹目はすぐに見つかった。

 大きい。五メートルはあるだろうか。

 こちらを見て威嚇している。


「この距離なら狙撃するか。ヘイムダル・バレット」

「――SoulShift_Model:Heimdall bullet. Ready?」

「Trigger」


 強化された視界の中、雪熊がこちらを見て牙を剥いているのが見える。


 狙うはその額。

 照準を合わせつつ魔力を圧縮。

 引き金を、引く。


 甲高い音を立てて魔弾が発射され、ヒット。

 一撃で仕留めた。




 上出来。とりあえず、アイテムボックスに入れておくか。

 もう一匹は、とマップを確認しようとすると。

 真後ろに気配。


 振り返り、振るわれた腕を銃底で受け流す。

 噛み付き。横に跳び回避。その隙を狙い、銃撃。

 肩に当たるも、大したダメージは与えていない。

 皮膚が分厚い。通常弾は通らないか。


 吼える雪熊。

 ビリビリと空気が震える中、魔力を圧縮。

 猛烈な突進を避け、ブースターで距離を離しながら、発砲。

 肩と胸、その両方を貫き、雪熊はゆっくりと倒れ込んだ。


 よし。さすがにトロールほど硬くは無いらしい。

 コイツもアイテムボックスに収納。

 再度マップを見直すと、特に敵性反応は無し。


 但し、少し離れた場所に、人の反応が一つ。


「リング。これ、人間?」

「――肯定」

「……こんな所で何してんだ?」



 魔物のいる森の中で散歩という訳でもないだろうし。

 とりあえず、様子を見に行ってみるか。




 その男性は、大きな斧で木を切り倒していた。

 がつん、がつんと大振りで斧を打ち付け、切れ込みを入れている

 昨日見た、熊のような人だ。あれ? 冒険者じゃ無かったのか。



「こんにちは」

「……おう、昨日の嬢ちゃんかい」

きこりだったんですね」

「兼業だがな。普段は冒険者だが、最近雪熊が出るからこっちの仕事をしてんだ」


 成程。討伐出来る対象がいない時は兼業してるのか。

 この寒い中で木を切り倒すのは大変だ。

 下手したら魔物を倒す方が楽かもしれない。

 

「俺ぁモーバだ。よろしくな」

「どうもです。あ。雪熊なら二匹倒してきましたよ」

「ほう、そいつぁありがてぇ。みんな困ってたんだ」

「……疑問に思わないんですね」

「あぁん? 何をだ?」

「私みたいなのが一人で魔物を倒してる事です」


 昨日は散々子ども扱いされたんだけど。


「嬢ちゃん、『夜桜幻想トリガーハッピー』だろ?

 なら腕っぷしに疑いはねぇよ」

「……そうですか」


 ニカッと笑う樵のおじさん。

 うーん。この人、結構いい人かもしれない。

 顔が怖い人は良い人だし。


「では、私は一旦戻るので。お気をつけて」

「ありがとよ。嬢ちゃんも気ぃつけてな」


 手を振り、高空へ。

 ひとまずギルドに報告しに帰ろう。

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