第106話


 ハヤトさんに教えてもらった方に向かうと、一際大きな人の輪があった。

 見た感じ、その中心に髭を剃って燕尾服を着ているアレイさんやドレス姿のカノンさん、カエデさんがいるっぽい。

 んー。周りにいる人は兵士さんから貴族っぽい人まで、多種多様だなー。


 声を掛けるかどうか悩んでる最中に、その中の一人が私を見て、指さしてきた。 



「おい、まさか……嬢ちゃん、『夜桜幻想トリガーハッピー』か!?」



 いや、その二つ名は止めて頂きたい。割と真面目に。 


 更にその声に反応して、周りの人が一斉にこっちに視線を向けた。


「おお、この子が十一番目の英雄……!」

「あの幼さでオーガを倒しと言うのか……」」

「まだ幼いのに冒険者になったなんて……不憫な」

「あのナリで武術大会優勝か……見た目によらんものだな」




 あ? なんだコイツら。

 ケンカ売ってんなら買うぞ、おい。




「おいおい、こんなところでぶっ放すなよ? 連中も悪気はないんだ」


 私の表情を見て、アレイさんが慌てて止めに入った。

 てかそれ、悪気が無いって余計にタチ悪くない?


「あの。オウカさ、ん。落ち着い、て」

「わ。カエデさん、お久しぶりです。今日も美少女ですね」


 相変わらず愛らしいお方だ。いや、私より歳上なんだけど。

 いやぁ、和むわー。

 そしてドレス姿も可愛らしい。水色のふわふわしたドレスがよく似合っている。


「えっと……お久しぶりで、す。今日のご飯、オウカさんが、つくってくれたんですよ、ね?」

「今日のは自信作ですよー」

「たくさん、食べてま、す」


 見ると、楓さんの後ろに、お皿が山のように積まれてあった。

 ……いやまさか。これ、一人で?


「久しぶり、に。大満足、です」

「……そですかー。それは何よりです」


 うん。あまり深く考えないようにしよう。

 美少女が喜んでる。それだけで幸せだし。


「そうですね。私も美味しく頂いています」


 お。カノンさんにも好評なのか。良き良き。

 ナイトドレスって言うんだっけか。黒のドレスが凄く似合っていて、とても綺麗だ。


「そりゃ作りがいがありますねー。美女の笑顔は私の原動力ではす」

「……ありがとうございます。ええと、そういうのはあまり……」

「ん? どれです?」

「その、美女とか言われるのは……照れますので」


 片手で顔を隠して小さな声でそう呟く。

 ほほう。普段は凛としたカノンが恥じらう姿も、また良いものですな。

 これがギャップ萌えってやつか。


 ……なんかこう、ね? 更に言いたくなるよね?



「おーい。オウカちゃん、人の妹で遊ぶんじゃない」

「失敬な。遊んでなんていませんよ。私は常に本気マックスなんで」

「確かにカノンは美女だが、人前で言うのは控えてやれ」

「だってこんなに可憐で、整ったお顔で、性格も良いんですよ?」

「まあ俺から見ても自慢の妹だからな」


「あの……二人とも、本当にやめてください……」


 更に両手で顔を隠して縮こまる美女カノンさん

 やばい。何かに目覚めそうだ。


「……てか、アレイさん両手に花ですか。羨ましい」

「まあ、妹と妹分だけどな」

「どちらかとは言いません。どちらもください」

「本人と交渉してくれ」

「……だそうですけど?」


 カノンさんは、ゆらりと立ち上がると、素早くアレイさんの腕を確保した。

 うわ。今の動き、肉食の獣っぽかったなー。


「お兄様。この国はそのうち、兄妹間でも結婚できるようになりますからね?と言うかしてみせます」


 美女に腕組まれてるの羨ましいなー。

 ……なーんか空気が重くなった気はするけど。


お前カノンが言うと洒落にならんから辞めろ」

「本気ですもの。現在有力な貴族に打診しているところです」


 あー。前言ってたヤツ、マジなんだ。

 うわあ……そっかー。マジなやつなのか。


「いやマジで辞めろ、おい……冗談だよな?」

「……うふふ」

「答えろブラコンシスター」

「あらやだブラコンだなんて。褒めても何も出ませんよ?」

「少なくとも褒め言葉では無いんだが……」



 ……おやおや。カノンさん、目がマジだな。

 てゆか目から輝きが消えてるんだけど……これはアレイさん、地雷踏んだかな? 



「……妹分、か。昔より、マシなのか、な…」

「お。カエデさんもアレイさん狙いですか?」

「正直、よく分からない、けど。好きなのは、確か、かな」

「ふむ……ちなみに、私のことは?」

「え? 好き、だよ」

「おっと、真正面から来られると割と照れますね、これ」


 一方こちらは天使のようなカエデさんとイチャついてたり。


 はぁ……ほんと和むな、この人。

 なんかもう、ずっと見ていたい。

 …………魔法使用時はまあ、アレだけど。

 うん。あのモードはちょっと取り扱いに困るけども。


「あ。そだ。前に持ってったヒュドラの核、何かわかりましたか?」

「人の手が、加えられてる、事しか、分からなかった、かな」


 んー。てことは、やっぱ誰かがわざと魔物作ったって事か。

 なんだろね。目的が分からん。あんな所に魔物作ってなんの意味があるんだろ。


「でも、それが誰かまでは、まだ把握できて、なくて」

「ふむふむ……私に出来ることがあれば言ってくださいね。最優先でやりますんで」

「ありがとう、ございま、す。その時は、お願いします、ね」


 なるほどなー。しかしまあ、どうにも怪しい話だな。

 まあ、専門家が分からないことを私が考えても仕方ないけどさ。


「ふーむ。ちなみに今日の料理って、何が一番好きでした?」


「レッドドラゴンです。タイラントウルフの煮込みも柔らかくてとても美味しかったですが、決めてはソースですね。ただでさえ美味しいドラゴンカツに良くあっていて、私の人生で二番目に美味しかったです。付け合せのマッシュポテトやサラダも細かい所まで手が行き届いていて美味しかったですし、オークのソテー自体は食べ慣れた味でしたけど、辛みのあるソースがとても新鮮な感じでした。新鮮といえば魚はビストール産ですか?脂が乗っているのにあっさりしててとても美味しかったです。それと」


「へい、カエデさん。ストップ、ストップ!!」


「あ……ごめんなさ、い。少し、興奮して、ました」

「ええと……気に入ってもらえて何よりです」


 びっくりした。好きなことだと饒舌になるのかな。

 ……まー、これはこれで可愛いから私的にはありだな、うん。

 マジでびっくりしたけど。


「ほんとに、ごめんなさ、い。

 食べ物と、魔法に関しては、たまに、暴走しちゃいま、す」


 ……たまに、か?


「……ちなみに。過去一番美味しかったのって、何ですか?」

「えっと、それは……」

「それは?」


「旅してる時、野営中に、アレイさんと、飲んだ、簡易スープ、かな」


 にこりと、花が開くように微笑みながら、そう教えてくれた。


 ……うーん。それには勝てそうにないわ。


「まあ、また機会があれば作らせてもらいますね」

「楽しみに、してます、ね」

「今度はお菓子も作ってきます」


 こないだリュウゲジマコトさんに渡した後、あんまし作れてないからなー。

 時間が出来たらまた大量にストック作っておこう。


 あ、ヒムカイハルカさんとイグニスさんにも、店長代理引き受けてくれたお礼もしに行かなくちゃなー。

 

「じゃあ、名残惜しいですけど、そろそろ行きますね。レンジュさん放っておいたら後が怖いですし」

「うん、また、ね」


 ひらひらと小さく手を振ったくれた。そんな姿も愛らしい。


「アレイさん達も、ほどほどにしましょうね?」

「それはカノンに言ってくれ……って言うか、レンジュのところに行くなら気をつけろよ?」

「え、何にですか?」

「アイツ、酒持ち込んでるからな。絡まれるぞ」


 ……へぇ。この間約束したばかりなのに、いい度胸だなあの人。

 すうっと、自分の表情が冷めていくのが分かった。


「有益な情報をありがとうございます。ちょっとシバいてきますね」

「お、おう……ほどほどにな?」



 さあって。悪い子は、どこかなー?

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