第83話


 結果から言おう。

 辞退出来なかった。

 と言うか、断りきれなかった。



「貴女が出ないとなると暴動が起きます」

「……へ? いやいや、幾らなんでもそんなことは…」

「オウカさんは新たな英雄『夜桜幻想トリガーハッピー』として民に認識されつつあります。

 そんな貴女が英雄の部に出ないとなると、皆の不満が募ることは間違いありません」


 なんか難しい顔で説明してくれてるけど……まじか。


「それに、リリアさんも希望すると言うことでしたら、二人揃って出場していただけると、私が出なくてよくなります。

 正直、これ以上仕事を増やしたくないんです」


 ものすっごい疲れた顔で言われた。

 あー……いつもお疲れ様です。


「……おっけぃ。出ます」

「非常に助かります。皆、今の期間だけでも大人しくしてくれていればもう少し楽なのですが……」

「……今度また差し入れ持っていきましょうか?」

「是非。出来ればプリンをお願いします」

「了解です」


 なんとなく、握手しあった。



 という訳でエリーちゃんとリリアさんに事の次第を伝え、屋台巡りは今日行うことになった。

 と言っても大体のお店を渡り歩いた後なので、掘り出し物でも無い限りはブラブラ歩き回るだけだったりする。

 美少女二人に囲まれてちょっとテンションが上がっている私としては、それだけでも非常に楽しめていたりする。


「リリアさんって貴族ですよね? 買い食いとかするんですか?」

「いまは一冒険者なので。それに、夜営の経験もありますよ」

「おお……獲物捌けるんですか」

「……いえ、そこはアレイさんにお任せしていました。ソロになってからは保存食がメインです」


 あー。でも、解体はできた方がいいた思うけどなー。

 まあひとそれぞれか。


「てかアレイさんって、何でもできそうなイメージありますね」

「大体合っています。出来ない事……あるのでしょうか」


 小首を傾げられた。

 そんな仕草も可愛らしいけど、聞かれても困る。


「今度暇な時にでも探ってみたらどうです?」

「中々隙を見せてくれないので……何とも」

「そこは努力でなんとか」

「そうですね。お酒を飲ませて既成事実さえつくってしまえばこちらのものです」


 あれ、そんな話だっけ。あ、目がマジなやつだ。


「あの……キセイジジツって、何ですか?」

「エリーちゃんはまだ知らなくていい話じゃないかなー」


 とりあえず。エリーちゃんの教育に悪いんで止めてほしい。



 どうやらリリアさん、同年代の知り合いが学校の元同級生以外は、英雄くらいしかいないんだとか。

 それはそれで逆に凄い気がするけど、日常会話なんかは困りそうだ。

 そのせいか、何てこと無い話題で結構盛り上がっちゃったりしている。


「リリアさんって王都在住なんですか?」

「今はアスーラを拠点に活動していますが、他の都市にもよく足を運んでますよ」

「ほほう。氷の都とか砂漠の都とか、ちょい興味あります」


 めっちゃ寒い国とめっちゃ暑い国らしいけど、こっちにはない香辛料とか食材が多いし。

 あと単純に、氷に覆われた街や砂漠を見てみたい。


「ああ、どちらも遠いですからね。王都とはまた違った面白味がありますよ。

 と言うか、オウカさんなら空を飛んで行けるのでは?」

「なかなか機会が無くて……今度行ってみようかな」


 でも確かに空を行けば日帰り出来るかもしれないし、今度行ってみようかな。


「あ、私も氷の国は行ってみたいです。革製品の聖地なので」

「そうなんだ。エリーちゃんも将来革職人になるの?」

「そのつもりです。うちは私とお父さんだけなので」

「おー。凄いねー。私は……このまま冒険者かなあ」


 ……もしあの日、あの手紙が来なかったら、私はパン屋さんで働き続けてたんだろうか。

 それか王都に出稼ぎに行ってたかもしんないなー。

 うーん。人生、分かんないもんだなー。


「あれ? オウカさん、お店出してるのに冒険者続けるんですか?」

「私、基本的に何もしてませんからねー。みんな頑張ってくれてますし」


 ……手伝い行っても案外気付かれないのは、喜んでいいんだろうか。


「居たら完全に溶け込んでますからね、オウカさん」

「それ、従業員の年齢低すぎませんか?」

「……リリアさん、どういう意味かな」


 決勝戦の再現すっか、こら。


「失言でした。仲むつまじいのは良いことですね」

「……まあ、うちは孤児院からの出稼ぎ組がメインだからねー。大人の方が珍しい……て言うか、いないし」

「凄いお店ですね、それ」


 確かに。我がことながら同じ感想持ったわ。

 でも今んとこ問題ないからなー。


「あ、でも、評判はいいですよ」

「みんな頑張ってっからねー。あとお客さん、いい人多いし」

「あの一角は特に治安が良くなりましたよね」

「うんまあ……そだね」


 それに関しては、冒険者のみんなが悪人を追い払った結果だと思う。過保護と言うか親バカと言うか。

 少しでも悪影響与えそうな人は排除して回ってるからね。

 そんな理由で治安が良くなるってのも凄い話だと思うけど。


 ただ、私をあの子達の中に含めるのは止めて頂きたい。

 わりと真面目に。みんなと一緒に飴玉渡されても困る。


「オウカさん凄い複雑な顔してましたもんね」

「悪意が無いから対応に困んのよねーあれ」


 まあ、飴は美味しかったけど。


「……なんだかオウカさんって、思っていたより普通なんですね」

「ええと……ごめん、どういう意味です?」

「いえ、闘技場での様子と少し違ったので」

「あれは武術大会限定。普段はこんなもんだよ、私」

「そんなところもアレイさんみたいです」


 また言われた。

 うーん。てかそもそも、アレイさんの事あんまり知らないんだよなー。


「……そんな似てます?」

「ふふ。英雄らしくない英雄という意味ではそっくりですね」

「あの……私はただの町娘なんで」

「アレイさんもよく言ってましたよ。自分はただの一般人だって」

「いやそれは無理があると思う」


 一般人が龍殺しドラゴンスレイヤーになんてなれないと思う。

 そもそも、魔王倒してんじゃん、あの人。


「ふふ。オウカさんに対しても、みんな同じように思ってますよ?」

「そんな馬鹿な……」

「ごめんなさい、私も同意見です」

「エリーちゃんまで……」


 そんな他愛の無い話をしながら、屋台や露店を冷やかして回った。

 ……おっかしいなー。どっからどう見てもただの町娘でしかないのに。

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