第44話


 ダンジョン探索が空振りに終わってしまったので、今日は改めてゲルニカの古代遺跡に来てみた。

 前回はちょい急いでたので、今回はじっくり探索するつもりだ。


「何かあればいいけど……リング、マップ出して」

「――解析完了:マップ表示します」

「ありがと」


 えーと。前回はあっち行ったから、今回はこっち行くか。


「――オウカ、報告があります」

「ん、どしたん?」

「――前回ここで入手した記録媒体ですが、解析完了しました」


 お。例のカードかな。


「偉い。で、あれなんだったの?」

「――英雄の戦闘記録です。オウカにインストールされている戦闘記録と、英雄シマウチハヤトの戦闘記録でした」

「……げ。んじゃあの黒いやつらって」

「――戦闘記録を媒介に作り出された疑似生命体かと思われます」

 

 疑似生命体ってのがよく分からんないけど。


「つまり、戦闘記録のお化けってこと?」

「――肯定:また、それらが自然発生する事は有り得ません」

「ん? それって、わざわざ作った奴がいるってこと?」

「――肯定」


 ふむ。なんか話がきな臭くなって来たな。


「なるほどね。てかさ、そもそも戦闘記録ってなんなの?」

「――回答:その人物の戦闘経験及び戦闘パターンです」

「……えーと。戦いの記憶と、戦い方ってこと?」

「――肯定」

「……ね。ちょっと疑問なんだけどさ。なんでそんなものがあんの?」


 誰が、どうやって、何のために記録を残したんだろう。

 他人の戦闘経験なんて、書き記せる物では無いと思うんだけど。


「――不明:古代語で書かれていた理由も不明です」

「むう。なんか気味悪い話だね」

「――ですが、私の中には最初からオウカの戦闘記録がありました」

「あー。まあ、そうなるよね」


 じゃないとまともに戦うことも出来ないし。


「――そこから分かることが二点。オウカが私のマスターであるという事と、戦闘記録はコピーを作成できるという事です」

「あ。そうか、こないだの黒いのがオリジナルならリングの奴はコピーになんのか」

「――更に不明点として、限定解除後、『疾風迅雷ヴァンガード』の戦闘記録にアクセス可能となった件があります」

「ん? それも元々あったの?」

「――不明:ですが、限定解除時、何かに接続しようとした痕跡があります」

「……んーむ。なんなんだろうね、私らって」


 分からないことが多すぎる。

 まあ、それを探すために冒険者なんてやってんだけど…

 なおさら、何か手掛かりを見つけたいところだわ。


「ま、探してりゃいつか分かるか」

「――肯定:更に解析を続行します」

「ありがと。でも無茶しないようにね?」

「――承知」

「……あ。そう言や、モデリングだっけ。あれはできたの?」

「――……。作成中です」


 何だ今の間。あ、こいつもしかして。


「――謝罪:忘れていました」

「ふふ。あんたも忘れたりすんのね」

「――謝罪」

「別にいいって。いつか見せてね」


 何気に超楽しみにしてっからなー。

 直接目で見て話したいし。


「――肯定:解析と同時に作成作業を進めます」

「あいあい。頼んだ……おっと?」

「――オウカ、魔力反応:スケルトンです」

「出たな骨ども」


 前回同様、地面からスケルトンが湧いてきた。

 これもこれで、いまいち理屈が分からない現象だよなー。


 さておき。おしゃべりは終わりだ。

 さっさと蹴散らしてお土産持って帰ろう。


「リング、やるか」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition」


 薄紅色を纏う。光跡を曳いて、構える。

 いつも通り。腰を沈め、左手を前に。右手は逆手に顔の横に。


「さあ、今回もダンスの相手を務めてもらおうか」



 目標は五匹。まずは、一匹目。

 大きく踏み込み、低姿勢からの蹴り上げ。仰け反ったところにヘッドショット。

 崩れる骨、その奥に居た奴を蹴り飛ばし、後ろの奴ごと撃ち抜いた。

 残り、二匹。どちらも私の範囲内だ。


 直進。突き進み、盾を蹴りあげる。さらに射撃。盾を弾き飛ばした。

 がら空きの頭に発砲。頭を貫く。

 ラストの一匹。振るわれた剣、それを受け流し、銃底で殴りつけた。

 よろめく骨の魔物。その隙を逃さず、射撃。魔弾は当たり前のように眉間を着い抜いた。


「リング、周囲を検索」

「――検索:周囲に魔力反応無し」 

「了解。殲滅完了」


 ホルダーに拳銃を戻すと、いつものように魔力光が散っていった。



 ふう。最近、だいぶ慣れてきたなー。

 サクラドライブ無いと無理だけど。

 とりあえず、捜索再開と行きますか。



 あらかた全ての部屋を回ってみたけど、特に手がかりなし。

 この部屋が最後の部屋だ。何かあると良いんだけど。


 入口の球体に手を当てて、ぱしゅんと扉を開く。

 壁一面の本棚。部屋の真ん中には大きめの文机。

 書斎、かな? 本を一つ手に取ってみると、そのままボロボロと崩れてしまった。

 ここもハズレかなー。あ、一応文机の中見てみるか。


 引き出しを開く。中には乾ききったインク壺と羽根ペン。そして、黒い手帳が入っていた。

 状態も比較的マシだ。開いてみると、私にはまったく読めない文字がつらつらと書かれていた。

 おっし。謎の収穫物げっと。


「リング、これの解析も頼んで良い?」

「――了解:並行して行います」

「ん。任せた」


 ひとまずアイテムボックスに突っ込んで、リングに解析を頼んでおく。

 んー。見た感じ、他には何もなさそうだなー。


「んじゃ、帰りますか」

「――直に日が落ちます」

「ん。アスーラで宿を取ろっか。今日はお魚尽くしだね」


 ああ、焼き魚、煮魚、揚げ魚。

 海老や貝もいいなあ。

 海竜とか大海亀とかも食べてみたい。


 さて。お腹も空いたし、ぴゅーんと飛んで行きましょうかね。



 アスーラに到着。

 途中、何のトラブルも無く、至って平穏にたどり着いた。

 当たり前の事なんだけど、何気に珍しい気もする。

 いつも魔物と遭遇したりするからなー。


 早速宿屋に向かい、カウンターにいたおっちゃんに声を掛ける。


「すみません、一泊いいですか?」

「ああ、すまないね。今日は全室埋まっちゃってるんだよ」

「え。大部屋もですか?」

「珍しく団体客が来てね。申し訳ない」

「……まじか。分かりましたー」


 本当に申し訳無さそうなおっちゃんに手を振って宿屋を後にした。


 えーと、どうしよ。そろそろ日が沈むんだけど。

 強行して王都に戻るしかないか? ああでも、お魚尽くしが……

 いや、それより今日の宿の方が大事だな。


 仕方ない。空の旅、延長。




 ああああぁぁぁ寒いいいいぃぃぃ!!!

 夜の空めっちゃさみぃぃぃぃぃぃ!!


 ただでさえ気温が低いのに、風が容赦なく体温を奪っていく。

 革手袋を付けてても手がかじかんで、拳銃を落としてしまいそうだ


 時々降りて体暖めないときっついなこれ。

 くそう。こんな弱点があるとは思わなかったわ。

 てか、高い方が寒いのか。そういや山も高い所は雪が積もってるもんなー。

 分かってれば外套持ってきたんだけど……まあ、無いものは仕方ないか。


 時々地上に降りては、魔力で作った大鍋を加熱して暖を取り、暖まったら飛ぶ。

 休憩を挟んだせいもあり、王都に帰り着くまでの時間は、行きの時の二倍くらいかかってしまった。



 あああああ、さむいいいいい。

 宿に帰ってきてすぐさま毛布にくるまってみたけど、だめだこれ。

 まったくぬくもれない。

 くっそさみぃ。

 

 あーもー。こうなったら、最終手段を使うしかないか。



 かなり大きな寸胴鍋と、更に大きな深皿を魔力で作成。

 アイテムボックスから出した水を注ぎ、木の蓋を沈める。

 加熱。熱くなりすぎないように気をつけている間に、鍵がしっかりかかっているのを確認。

 カーテンも閉めきって、服を脱いだ。


 そう、お風呂である。

 宿屋のおばちゃんにばれたらめっちゃ怒られるけど、背に腹は変えられない。

 すぐ適温になったのでこの温度をキープ。ゆっくり鍋に浸かる。



 うあー。良い湯加減だー。

 少しくらい溢れても深皿で止められる安心設計だし、言うこと無しだ。

 ……まー年頃の乙女としてどうなんだろうとは思うけど。

 やっぱ家借りた方がいいなー、これ。

 いや、夜に外出なきゃいいんだろうけど。


 まあなんでもいいや。

 ぬっくいし。とりあえず温まろう。

 うあー。気持ちいいー。



 しばらくして、体を拭く布を用意してなかった事に気付くまで、穏やかな時間を過ごした。

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