第34話


 何度かスケルトンと遭遇しつつも順調に撃破して、目的の部屋に辿り着いた。

 射程が伸びた分、わざわざ走らなくて済むのは非常に便利だ。

 ただこれ、遠くなる程威力が落ちる難点は変わってないけどね。


「さてと。リング、この部屋?」

「――肯定:オウカの魔力残滓があります」

「……んじゃまー、入りますか」


 少し緊張しながら、入口にあったものと同じ丸い奴に手を当てる。

 がちゃり、と音がして、扉が開いた。


 中は倉庫みたいになっていた。いろんな箱が積み上げられてる。

 そんな中に、鉄製のベッドが置かれていた。金属の板とか紐みたいなものがたくさん付いてる。

 ……なんだこれ。寝にくそうだな。

 でもなんか、見覚えがある気がする。


「――オウカ。金属板の部分に記名があります」


 板って、これかな。確かに何か書いてある。


『Type-0【killing Abyss】』


 ……これ、私だよね?


「え。じゃあこのベッド?」

「――はい。魔力残滓はこのベッドにあります」


 おー。そっか、私はこれに寝てたのか。

 しかし、ううむ……思ってたより、何も感じないなー。

 見覚えがある気はするけど、ただの鉄のベッドにしか見えないし。



 付近を探して見たものの、特に何が見つかる訳でもなかった。

 何となく、ここにいたんだー、と思うだけである。

 ……むう。仕方ない、帰るか。



 廊下にでて、来た道を戻る。

 なんだかなー。わざわざ来て収穫無しかー。

 まー無いもんは仕方ないんだけど、ちょっと徒労感はある。

 はぁ、とため息を吐いた時、リングの声が上がった。


「――警告:オウカ、異常な魔力反応があります」

「異常?どんな?」

「――オウカの魔力パターンと近似しています」

「……は? 私の?」


 私に似た魔力ってなんだ。どゆこと?


「――魔力パターン接近中。警戒してください」

「ん、おっけ。戦闘準備」

「――Sakura-Drive Ready.」


「Ignition」


 古代遺跡に桜を舞い散らせ、戦闘体勢に移行する。


 言った側から、黒い塊が見えた。

 黒い布で全身を覆われてるけど、長い黒髪が隙間から見える。

 それにあの顔、私に似てる。ただ、目だけが赤い。

 何だあれ。気持ち悪い。



「踊ってやる。早々に退場願おうか」


 不意に伸ばされた両手。咄嗟に横に飛ぶと、黒い弾丸が隣を通りすぎた。

 撃ってきた。なるほど?


 駆け寄り、回転、銃底を叩きつけると、同じように回って銃底を叩きつけられる。

 お互い弾かれ、離れ際に発砲、同時に相手の弾を避ける。

 ……こいつ、見た目だけじゃない。構えや戦い方まで似ている。



 回転、銃底、蹴り、銃弾、全て同じタイミング。

 こちらが撃てばあちらも撃つ。

 こちらが蹴ればあちらも蹴る。

 威力も同じ、弾かれ、回り、同時に銃底を叩きつけ、止まる。



 ニヤリ、と笑う私じゃない私。裂ける、三日月の様な口。

 凄く底意地の悪そうな顔だ。私も気をつけよう、うん。


 しかしこれ、永遠に戦い続ける事になりそうだな。さて、どうしたものが



「リング、これどうにかならない?」

「――提案:戦い方を変えましょう」

「……説明して」

「――記録の読込先を変更可能です」

「なんかよく分からないけど、任せる。やっちゃって」



「――OK. SoulShift_Model:Vanguard. Ready?」

「――Triggerトリガー



 頭に浮かんだ言葉を呟く。

 がちゃりと、私の中で何かが切り替わった。



 拳銃を逆手に持ち、引き金を引く。

 バーニア加速、銃口の逆側に魔力を纏わせ、思い描いた軌跡通りに叩きつける。

 ヒット。これなら、いける。


 両手で加速、宙を舞い、バーニアで再加速。推進力を回転力に変え、殴る。

 腕を砕き、更に回転、加速。狙いは胸の真ん中。



「 撃 ち 抜 け っ!! 」



 当たる瞬間、圧縮された魔力を解放。

 放出された魔力が加速を生み、地面と水平に敵を吹っ飛ばした。



 ぐらり、と視界が歪む。

 ダメだ、目が回る。無茶な動きをし過ぎた

 ふらふらと壁に手を付き、もたれ掛かる。



「――周囲に敵性反応無し。ロストしました」

「了解。戦闘終了」


 ホルダーに拳銃を戻す。いつもの様に、薄紅色の魔力光は次第に消えていった。



 奥を見ると、

 見ると、吹っ飛んだ奴は胸元が大きく抉れていた。

 見る間にドロリと溶け、銀色の何かを残し、黒い塵になって消える。

 うげ。嫌なもん見た……自分と同じ姿の亡骸なんて、二度と見たくない。



「しっかし、何だろね、今の」

「――不明:魔力反応、外見共にオウカと類似していました」

「んー。気になるけど、分かんないなら仕方ないか。それよりさ、さっきの何?」

「――戦闘記録の読込先を一時変更しました。

 ――『疾風迅雷ヴァンガード』に似せた戦闘が可能となります」

「アレイさんに? そんな事できんの?」

「――可能:しかし、オリジナル程の戦闘力は望めません」

「なるほどねー……アレイさん、あんな動きしてんのか」


 静止状態から瞬時に最大加速を繰り返し、逆方向に魔力を噴出して無理矢理止まったり、回転による遠心力を得て、魔力を纏った武器で撃ち抜く。


 はっきり言っても無茶苦茶だ。あんな事、恐すぎて何度もやりたくない。


 始めて空を飛んだ時みたいに視界が暗くなって、回りすぎてクラクラする。

 実は英雄の中で一番ヤバいのってアレイさんかもしんない。

 生き物のしていい動きじゃないよ、あれ。



「――大丈夫ですか?」

「……ちょい休みたい。周囲の魔物を探索を頼める?」

「――了解:探知範囲に魔力反応無し」

「ありがとー」


 クラクラ揺れる視界が収まるまで、しばらく座り込んでいた。




 あいつが残した物を見に行くと、カードみたいな物が落ちていた。ひっくり返して見てみても、両面とも特に何も書いていない。

 またよく分かんない物が出てきたな。


「リング、これ何か分かる?」

「――解析中……情報記録媒体のようです」

「ん? なにそれ?」

「――手紙のようなものです。

 ――破損が見られますが解析が完了すれば一部再生可能かと思われます」

「手紙ぃ? んー……任せた。何か手掛かりになるかもしんないし」

「――了解: 解析を続けます」

「頼んだ。しっかし、疲れたわ。早く帰りたい」


 そして美味しいものを食べたい。

 王都と宿のおばちゃんのご飯とか。

 ……だめだ、おなかすいてきた。


「リング、早く帰ろう」


 遺跡の入口を目指し、とぼとぼと歩き出した。

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