第2話
なんだ、いまの。
指輪が光ったと思ったら、言葉を喋った。
「え、なに、お化け?」
教会にお化けとか止めてほしいんだけど。
うわ、心臓ばっくばく鳴ってる。
「……なんなのよ、マジで」
「――確認。何、とは私の事でしょうか」
「またしゃべったああああああ⁉」
ずざざざっと距離を取る。
後ろは窓。最悪の場合、こっから逃げるしかない。
そんで表に回ってチビ達を逃がす。うん、それでいこう。
あ、シスター・ナリアに退治してもらうとか……
いや、お化けは流石に無理か?
「――お化けではありません:私は対人コミュニケーション用インターフェイスです」
「……は? なんて?」
「――私は対人コミュニケーション用インターフェイスです」
「対人こみ……えっと、お化けじゃないの?」
「――否定:私は対人コミュニケーション用インターフェイスです」
「お化けじゃないのね?」
「――肯定:私は対人……」
「いやそれもういいから」
対人コミュニケーション用インターフェイスね。
同じこと何度も言うから覚えたわよ。
取り敢えず、何を言ってるかいまいち分かんないけど……会話はできるようだ。
あと、お化けじゃないらしい。
「……えぇと。あなた、悪い事する?」
「――否定」
「私の味方なの?」
「――肯定」
「……わかった。じゃあ話は後で聞く。待てる?」
「――肯定」
「よっしゃ……うりゃっ!」
恐る恐る指輪を拾う。問題なし。
もう光ってもいない、普通の指輪だ。
……よくよく見ると何製なんだろう、この指輪。
銀だったら高く売れるだろうか。
取り敢えず小包の上に置く。特に変化無し。ふむ。
まあ、ひとまず悪いやつではないらしい。
指輪が悪さできるとも思えないし、まずはやる事やっちゃおうか。
∞∞∞∞
「ほれ、座んなー? 今日はパンがあるよー」
「まじで⁉ やったー!」
それぞれのお皿に貰ってきたパンを置いていく。
他にも、朝と同じ赤豆のスープに揚げ芋、野菜炒めなんかもある。
どれも簡単に作れてお腹に溜まるメニューだ。
何せ食べ盛りがたくさんいるからね。
ほんとは肉とか魚とか食べさせたいけど、高いから毎回は無理だし、ならせめてお腹いっぱい食べさせたい。
幸い、豆や芋は安く農家のおっちゃんに売ってもらえるのだ。ありがたく大盛で作らせてもらおう。
では。全員揃って、「いただきます」。
∞∞∞∞
後片付けを済ませて食後のお茶を飲んでいると、シスター・ナリアが微笑みながら隣の椅子に座った。
うん。やっぱり綺麗だなーこの人。
「ねえオウカ。あの包みはなんだったのかしら。何か叫んでたみたいだけど」
「……んーと。説明が難しいからまた明日でもいい?」
「あらそう。本当に冒険者ギルドからだったの?」
「焼印があるのは確認したけど……身に覚えが無さすぎて」
あと、喋る指輪とか意味が分からなすぎて。
ほんと何なんだろ、アレ。
「何かあったら相談なさいね」
「んー……ちなみに、シスター・ナリアってお化け退治できる?」
「実体がないものは管轄外ね」
「だよねー」
いくら煉瓦を叩き割れる武闘派シスターでもお化けはダメらしい。
まあそうだよね、うん。
……あの指輪、ほんとにお化けとかじゃないでしょうね。
もしもの場合は川に捨てるのがいいだろうか。
地面に埋めて何か生えてきても嫌だし。
∞∞∞∞
で、再度自室にて。
謎の指輪を手に取り、あれこれ眺めてみる。
最初に見た時と何も変わらない。
今度は光りもしないし。
……やっぱり何製かわからないなーこれ。
「ねえ指輪さん。とりあえず、あなたの名前を教えて」
「――不可。私に個体名称はありません」
「え、名前がないってこと?」
「――肯定」
「んー。じゃあひとまずリングって呼ぶわ。おけ?」
「――肯定。当機名称をリングに設定しました」
よし。何となくわかってきた。
人見知りの子と話す時みたいにしたら大丈夫っぽい。
相手の回答をゆっくり待つ感じで。
……て言ってもなあ。聞きたいことが多すぎるんだけど。
「でさ。リング、対人コミュニケーション用インターフェイスってなに?」
「――意訳:オウカと会話する為に前マスターに作られた物です」
んむ? 私と会話? いや、ちょい待ち、その前に。
「何で私の名前知ってるの?」
「――当機のマスターとして設定されていました」
「だから、分かるように言って」
「――意訳:前マスターから聞きました」
「あー……つまり、その人に聞いたら全部わかるのね?」
「――肯定」
分かりずらいわ。
もーちょい、何とかなんないのか。
「むむむ。うーん……ちなみにその人、どこにいるの?」
「――
「そっか。じゃあ、王都のグラッドさん? の居場所は分かる?」
「――
「あ、そっちは分かるのね」
んー。どうしたものかな、これ。
リングに聞いてもイマイチ良くわからないし。
事情を知ってそうな前マスターって人は何処にいるかわかんないし。
唯一分かってるのが王都の冒険者ギルドにいるグラッドさん、だけど。
王都かあ……王都ねえ。乗り合い馬車で三日かかるしなあ。
お金もかかるし……どうしたものか。
まあ路銀は貯めてた分から出すことも出来そうだけど。
……いやまー。そもそも、喋る指輪の言うこと全部信じちゃうのはどうなんだろうと思うけど。
なんだろーなー。何か、嘘とかついてない気がするんだよなー。
……とりあえず、後回しにするか。
「じゃあ次。この拳銃のオモチャはなに?」
「――オウカ専用魔銃型デバイスです」
「私専用ってのも気になるけど……魔銃型デバイスって?」
「――意訳:弾丸の代わりに魔力を撃ち出す銃です」
「え、なにそれ。そんなもんがあるの?」
「――肯定」
むむ。何でそんなものが送られてきたんだろ。
私専用。私の為に作られたもの? なんで拳銃?
前マスターさんが作ったんだとしたら、私の知ってる人なんだろうか。
……駄目だ。分からないことが多すぎる。
うーん。取れる行動としては全部川に捨てて見なかったふりか、王都に話を聞きに行くか、なんだよね。
でも、捨てるのもなあ。
小包の配送も無料ではない。意味もなく送られてくるような物ではないと思う。
かと言って、王都もなあ。むむむむ。
とりあえず、明日は仕事も学校も休みだし、
シスター・ナリアに相談してみよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます