78、こめこめ食うLOVE




「では、出店のメインは白米ということで」


 私が多少強引に宣言すると、公爵令嬢に口答えできないと思ったのかケイレブは何も言わなかった。


「米ならうちからも出せるぞ」


 ルイスが言う。宮城も米どころだもんね。


 前世では北海道も米どころだったけれど、元々は寒冷地なので稲作には敵さなかったらしいわね。私が生きていた時代のほんの四、五十年ほど前までは北海道の米は「鳥またぎ」=鳥も跨いで食べない、て言われるくらい美味しくなかったそうだ。

 けれど品種改良を繰り返し、北海道でも美味しい米が作れるようになった。だけど、このゲームではまだ品種改良が進んでいないのか、ホーカイド公爵領の米の収穫量は多くない。


「しかし、貴族の中には米をほとんど食べない連中もいるだろ。うまく行くかね?」


 デイビッドが首を捻る。

 普段、米を食べない人間でも思わず食べたくなるような料理……


「私、カレーライスが食べたい」


 ニチカが手を挙げる。確かに、カレーにはご飯が必須だし、カレーを嫌いって言う人は滅多にいない、日本の国民食だけれども。

 貴族令嬢が人前でカレー食べられるかしら? 制服にカレーが飛んで大惨事になるんじゃない?


 何か他に、ご飯と一緒に食べられるもので、簡単に作れるもの……うーん。


「では、各自考えて明日もう一度話し合いましょう」


 いいアイデアも出ないので、今日のところはここで打ち切りにした。


 寮に帰ってからもメニューについて考え込んでいたら、心配したアンナに声をかけられてしまった。


「お嬢様。お嬢様ならきっと素晴らしいアイデアを思いつきます!」


 アンナは何故か私を全面的に信頼してくれるけれど、私は別にアイデアマンってわけじゃないからなぁ。


「お嬢様はいつも斬新な発想で皆を驚かせるじゃありませんか! ほら、これだってお嬢様のアイデアですし!」


 アンナはそう言って、棚の上に飾ってあった木彫りの熊を手に取った。


 ああ。確か、私が十三歳の時だったか、冬は農作業が出来なくて収入がなくて困っているという農民に、木彫りの熊を作って売るのを勧めたんだっけ。前世でおじいちゃんの家にあったのよね。木彫りの熊。


 おなじみの鮭をくわえたポーズの民芸品を眺めているうちに、私はふと思いついた。


 季節は秋。

 鮭が美味しい季節だ。



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