67、SADAKOとOKIKU
結論から言うと、劇はものすごくおもしろかった。
なんか悔しい。
でも、まさか青い猫があそこであんな道具を出してくるだなんて……完全に意表を突かれた。劣勢の魔王が井戸にたどり着いて自らの命と引き替えにSADAKOを呼び出そうとしたところでは手に汗を握ったし、部下の裏切りによりSADAKOではなくOKIKUを呼び出してしまったことに気づいた魔王の悲痛な演技には思わず泣かされた。
でも、OKIKUが意外にも主人公を苦しめるのよね。OKIKUの皿バリアーが破れなくて、主人公は禁断の攻撃魔法「チャブダイガエシ」を使うしかなくなるんだし。
「おもしろかったな」
「うん!」
劇場を出て、私とジェンスはカフェでお茶をしながら劇の感想を語り合った。
「西方歌劇団ってことは、西の貴族が出資しているの?」
私は何気なく尋ねた。役者にはたいてい貴族のパトロンがついているものだ。
「ああ。西の領地は演劇が盛んだからな。俺は小さい頃一度西に行ったことがあるが、そこかしこに劇場があるんだぜ」
「へー」
西はとっても華やかな場所らしい。そんな華やかな場所で育ったっていうのに、ガウェインもリリーナも華やかな雰囲気じゃないよなぁ。
パンケーキを口に運びながらなんとなくそう思った私は、ふと違和感に気づいて眉根を寄せた。
リリーナはともかく、ガウェインって、ゲームではもっと明るいキャラじゃなかったっけ?
そうだ。ガウェインは可愛い子と見ればすぐに口説くお調子者で、いつもへらへら笑っているというキャラだったはずだ。
そうだ。真っ先にニチカを口説いてきてことあるごとに絡んでくれるから、攻略対象の中でも難易度イージーって言われていたはず。
でも、学園でガウェインが女の子に声をかけているようなところを見たことがない。ニチカにも興味を示している様子はない。
もちろん、この世界は既にゲーム通りではないのだけれど……何か気になる。
「レイシー? どうした」
「なんでもない」
ジェンスに顔を覗き込まれて、私は慌てて首を横に振った。
しかし、どうもやっぱり西が気になるなぁ。レオナルドも「オッサカーに気をつけろ」って言っていたし。
あの時はガウェインのことかと思ったけれど、もしかしたらリリーナのことを指していたのかもしれない。或いは、その両方か。
いやだなぁ。何事もなく平和に過ごせればいいんだけど。
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