66、浮かれてないよ。
リリーナ・オッサカーが転生者だとして、私やニチカを陥れようとする理由はなんだろう。
考えられるとすれば、ヒロインのポジションを奪おうとしている……?
攻略対象の誰かに恋をしていて、ニチカが目障りだ、とか。
でも、現状、ニチカが空回っているのは見ればわかるのだから、排除するより先に攻略対象にまっとうにアタックした方がいいのではないだろうか。
考えてもわからんなぁ、と二、三日悶々としていたら、ジェンスからデートのお誘いが来た。
わーい。別に浮かれてないわよ。
「護衛は三十人ほどつけましょう。腕利きの」
「護衛は必要ないわよ」
「必須です!」
アンナはぷんぷん怒っていたけれど、三十人の護衛に囲まれて歩いてたら、絵面が「デート」じゃなくて「厳戒態勢で護送される凶悪犯」みたいになるじゃない。
迎えに来てくれたジェンスを威嚇する使用人達をなだめて、私はデートに繰り出した。
思えば、デートって初めてじゃないかしら。初デート初デート。別に浮かれてないったら。
「評判の劇を観に行こうと思うんだが、レイシーは他に行きたいところあるか?」
「ううん、劇でいい。どんな劇なの?」
「悪の組織に薬を飲まされて子供になってしまった主人公が海賊王を目指しながら七つ集めると願いの叶うボールを集めて最終的に青い猫にもらった不思議な道具を使って魔王を倒す話らしい」
うん。
「なんかすごそうな話だね!」
突っ込まないぞ。
「西方歌劇団は長いこと落ち目だったんだが、この劇で新しい花形役者が登場して盛り返しているらしい」
「へー」
いろいろ教えてもらいながら劇場にたどり着いた。途中で一度、おかもちを担いで駆けていくニチカの姿を見かけた。真面目に働いていて偉いなぁ。冬になって寒くなったら出前も辛くなるだろうから、腹巻きと毛糸のパンツを編んであげよう。
劇場の大看板には主演の名前が大きく書かれていた。
主演、ユージーン・キョートフ。
おおっとぉ! こんなところで京都府ゲット! 一都二府が揃った! 道は最初からあるし、残るは県を集めるのみ!
「ジェンス! 連れてきてくれてありがとう!」
「レ、レイシー? まだ劇が始まる前だぞ」
京都ゲット記念に抱きついてお礼を言うと、ジェンスがでれでれしながら私の腰を抱いて引き寄せた。
「そうですねぇ。出来れば、劇が終わってから感動していただきたいもんですわぁ」
頭の後ろでやんわりとした声がして、私は慌てて振り向いた。
そこに立っていたのは、とっても背の高い細身の男の人。切れ長の瞳で私を見下ろしている。
え? この人って……
「どうぞ楽しんでくださいませ」
するりと後ろに下がって、その人は劇場の奥へ引っ込んでしまった。
「今のって、主演のユージーン・キョートフだよね?」
「ああ。看板の絵と顔が同じだ。実物はずいぶん背が高いな」
自分より頭一つ分は高かった、とジェンスがぼやいた。
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