62、ティアナの想い人
お風呂に入って着替えて、待っていてくれたティアナの元へ向かう。
「大丈夫? レイシール」
「うん。ありがとう」
アンナに紅茶を淹れてもらって、ティアナの向かいに座って溜め息を吐いた。
「怖いわね。川に突き落とされるだなんて」
私が怖がっていると思ったのか、ティアナが心配げに眉を曇らせた。
「公爵ご夫妻やヒョードル様はいらっしゃらないのね。話を聞いたら激高されるでしょう」
確かに、大騒ぎしそうだなぁ。でも、お父様はたぶん薬の件で忙しいし、お兄様は社交があるから、なるべく大事にしたくないんだけど。
そうだ。お兄様と言えば。
「ねえ、ティアナ。私のお兄様って、カッコいいわよね?」
「え? え、ええ」
脈絡のない質問に、ティアナは面食らいながらも答えた。
ふふふ。北の公爵の密命を遂行するのよ。ティアナがお兄様に良い感情を持っているなら、押せ押せで二人をくっつけてしまえば、美男美女カップルが誕生する!やるぜやるぜやるぜー!
「ほら、お兄様ってまだ婚約者がいらっしゃらないじゃない? お父様達も心配していらして、誰かいい人がいないかなーって」
「ああ。そうなのね」
「ティアナも婚約者がいないけれど、理想の殿方とかいらっしゃるの?」
具体的に教えてほしいわ! 金髪とかアイスブルーの瞳とか北国育ちとか氷の貴公子って異名を持っているとか!
私が勢い込んで迫ると、ティアナは顔を真っ赤に染めた。
「わ、私は……」
「誰か素敵だなって思う方がいらっしゃったり?」
「そ、そんなこと……」
ティアナは目を泳がせた。この反応はっ、いるのね誰か!
「誰!? 誰なの!?」
「そんな……私などが、おこがましくて……」
ティアナは小さくなって俯いてしまった。
もったいつけないで、教えてー!
「で、でも、私はたぶん、良く思われていないの……だって、可愛いげがないんですもの。昨夜も、取り乱して食ってかかったりして……みっともない姿を……きっと気の強い女だと思われたわ」
昨夜って、ティアナが怒ったのは私のためだったのだし、あの姿を見てみっともないなんて笑う奴がいたら私が許さないわよ。リシリ島に送って強制労働でこんぶ漁の刑よ!
「誰からも憧れられる御方だし、私など見てもらえるとは思っていないけれど……あの方が誰かを選ばれる時までは、そっとみつめていられれば……アルベルト様のこと」
ティアナは切ない息を吐いた。
ア……ア……アルベルトぉ!? そんな! なんてこった!
ティアナってばアルベルトのことが好きだったの!? なんでやねーん!
ティアナがアルベルトにラブだったなんて……くっそ、アルベルトの野郎! 攻略対象の分際でティアナの心を奪うとは、ふてぇ野郎だ! 奴はとんでもないものを盗んでいきました! ティアナの心です!
アルベルトがティアナに粉かけてるなら邪魔するけど、ティアナがアルベルトに、なら協力するしかない。くう~。くやし涙。
ムカつくから冬になったら東の公爵家に大量の雪だるまを送りつけてやる! 暮れの元気なご挨拶、雪だるまギフトに恐れおののくといいわ!
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