56、どうして




「ふう、なんだか喉が渇いちゃった。何か飲み物を取ってくるわ」

「あ。私達はまだ挨拶しなきゃいけない相手がいるので。これで」


 ティアナが言うと、我に返ったマリヤは少し離れたテッドの元へ戻っていった。


「じゃあ、レイシールの分も取ってくるわね」

「え、私も自分で……」

「いいわよ。ここで待ってて」


 ティアナがそう言うので、お言葉に甘えることにした。ええ子やなぁ、ぐへへ。


 あ。ちょっと待って。もしも、お兄様に想い人がいないのなら、ティアナって良くない?

 身分的にも釣り合うし、成績優秀だから次期公爵夫人としてなんら問題なし。お兄様と並んでも見劣りしない美少女だし。

 小姑である私との仲も良好。


 あら、どこにも問題がないじゃない。いいんじゃない。ティアナ・カーナガワ。


 考えれば考えるほど、ティアナ以上の相手はいない気がしてきて、私は思わずニヤニヤした。

 これは、私がキューピット役になっちゃうんじゃないの?

 マリヤとテッドが結ばれるのにも一役買ったし、私ってば縁結びの才能があったりして~。


 そんな風に考えていた時、ヒールの先に何かがこつっと当たった。


「ん?」


 足下を見ると、小さな瓶が床に落ちている。

 私は何気なくそれを拾い上げた。


「お待たせー。レイシール……」


 グラスを手に戻ってきたティアナが、私の手元を見て顔色を変えた。


「レイシール。あなた、それ……」


「ああ。レイシール嬢にティアナ嬢、いい夜ですね」

「なんでこんな隅にいるんだ?」


 ナディアスとガウェインが私達を見つけて近寄ってきた。彼らのパートナーも一緒だ。

 彼らもまた、私の手元を見てティアナと同様に言葉を失った。


「ホーカイド様、それっ!」


 ガウェインの腕を引っ張ったリリーナが叫んだ。


「どうして、こんな場で薬を持っていますの!?」


 周囲にいた人々が、リリーナの声を聞きつけて怪訝な表情で振り返った。

 私は、手の中のピンク色の小瓶をみつめて茫然として立ち尽くした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る