43、不穏な気配
そういえば、フレデリカ・エヒメンとピーター・コーチはゲームでは監督生だった。
グレアム・トクマシーも、不良ではあるけれど、成績は優秀らしい。
四国は頭いい設定なのかしら。このゲーム。
とすると、残りの香川もやはり秀才なのかしら。
気になるわ。香川を見つければ東北に続いて四国コンプリートだし。
しかし、いまだ一人も出てきていない九州勢も気になる……っ。
「レイシール? 難しい顔をしてどうかしたの?」
教室の席でまだ見ぬ香川と九州勢に思いを馳せていたところに、ティアナが現れて私の様子を見て首を傾げた。
「なんでもないわ。それより、何か用?」
四国と九州が気になって、と本当のことを告げるわけにはいかないので笑って誤魔化し、隣のクラスのティアナがうちのクラスに何をしにきたのか尋ね返した。
「ちょっと見てほしいものがあるの。私のクラスの子に相談されたんだけれど……」
そう言って、ティアナがポケットから小さな小瓶を取り出した。薄桃色のガラス瓶に赤い液体が入っている。
「立夏祭の前に、どこかから流れてきたらしいの。女の子達の間をたらい回しにされたみたいで、出所がわからないのだけれど」
ティアナの説明が耳を通り抜けていく。
その瓶を見た瞬間に、私の脳は嫌~な記憶を思い出していた。
はいはい。ありましたね。こんなの。
その瓶の正体は説明されなくても知っている。
愛の妙薬——つまり、惚れ薬だ。
ゲームでレイシールがアルベルトに盛ろうとしてニチカに阻止されるっていうシーンがね、あったのよ。
まあ、今思うとレイシールは盛ろうとした現場を押さえられた訳じゃなくて、その小瓶を持っているところをニチカに見咎められて、そこに例によって登場した攻略対象に糾弾されるという展開だったので、もしかしたらティアナみたいに誰かから回ってきたのをたまたま持っていただけかもしれないけどね。
ゲームの中のアルベルトとニチカのクズっぷりのせいで、レイシールは本当に悪役令嬢だったのか疑惑が私の中で沸騰中よ。
「意中の相手に飲ませれば恋が叶うという触れ込みの薬らしいのだけれど、こんな怪しいもの誰かに飲ませる訳がないでしょう? 皆、怖がってぐるぐる回しているうちにどこから入ってきたのかわからなくなってしまったようなの。こんなものでも、学園に薬物が入ってきたというのは見過ごせないわ。他の監督生の方々にもすぐにお知らせしたいの」
ティアナの言い分は実にまっとうで良識ある令嬢のものだ。私も当然だと頷いた。
「では、今日の放課後、皆様に集まってもらえるよう、お声かけしておきますわ」
「お願いね」
立派な侯爵令嬢とはいえ、学年も身分も下なティアナでは二、三年生の教室を訪ねて四大公爵家の嫡男に声をかけるのは敷居が高い。私ならば後でお兄様にお願いすればいいだけだ。
「それで、この薬はレイシールに持っていてもらいたいのだけれど……」
「ええ。わかったわ」
重要な証拠品なので、私が預かった方がいい。万一、紛失した、とか何か問題が起きた時に、それを所持していた者の身分によっては罪が重くなってしまう。
たとえば、平民がこの薬を持って貴族の周りをうろうろしていたら、それだけで「貴族に薬を使って取り入るつもりだったのでは?」という疑いがもたれちゃうのよね。下位貴族なら「上位貴族に取り入るつもりだったのでは?」ってなっちゃう。
侯爵令嬢で婚約者もいないティアナがこの薬を持って公爵令息のいる学園内を歩くのは良くないということだ。
悪意あるものがティアナを貶めようとしたら、「薬を使って公爵令息をものにしようとした」なんてあらぬ噂を立てられる可能性もある。
考えすぎ、とは言えない。それぐらい慎重にならなければならない身分なのだ。私達は。
だから、公爵令嬢でこの上の身分がない、おまけに相思相愛(笑)の婚約者がいる私が持っていた方が安全なのだ。
まあ、ゲームでは公爵令嬢でも平民のニチカと攻略対象にぼろくそ言われたけどね! 本来ならあり得ないわよね!
私はその小瓶をティアナから受け取って、ハンカチに包み込んでポケットにしまった。
まあ、ゲームとは違って今の私はアルベルトの婚約者じゃないし、ニチカが乗り込んできたところでどうってことない。
この時の私は、そう思っていた。
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