14、婚約解消どこ行った?
幸い、凍傷もたいしたことなく、翌日にはジェンスは起き上がれるようになった。
お父様にも挨拶をして、突然訪ねてきたことと迷惑をかけたことを詫びていた。
ジェンスロッド・サイタマー。
ゲームでは設定とアルベルトの会話にちょろっと名前が出てくるだけの絵姿すらないキャラだったから、性格とか人となりはよくわからない。外見はちょっと三白眼気味だけどまあまあイケメンかな。
「レイシール、これってなんていう飲み物なんだ?」
自分でカップを持てるようになったジェンスが甘酒を飲みながら尋ねてくる。
「甘酒です。ライスからつくった飲み物です」
「え?北ではライスを食べないと聞いていたが」
ジェンスが驚きに目を丸くする。
「ええ。私がライス料理が好きで食べているうちに、私の両親やお兄様も自然と食べるようになりましたわ」
最初は抵抗があったみたいだけれど、私がもりもり食べるので興味が出たらしく、家族は少しずつ米に馴れていった。私が厨房に入り浸って料理長とあれこれ米料理を作っている様子も気になったらしい。
今では、使用人達の間にも米食は広がっている。北の領地で米が主食になる日も遠くないな!
「そうか。レイシールはライスに抵抗がないんだな。なら、東に嫁いで来ても問題ないよな」
ジェンスがうきうきと言う。
あれ?そういえば、こいつって婚約解消しにきたんじゃなかったのか?
お兄様とお父様と何か話し合っていたけれど、婚約解消は進んでいるんだろうか。
「あのぅ、ジェンスロッド様……」
「俺のことはジェンスと呼んでくれ。こ、婚約者なんだから!」
ん?まだ婚約者のままなのか?
ああ、そうか。解消するにもいろいろと手続きとか必要だろうし、時間がかかるよね。
あ、でも、ジェンスと婚約したままなら、アルベルトと婚約しなくてすむ。それならアルベルトに他の婚約者がみつかるまで、もしくはニチカに籠絡されるまで、ジェンスと婚約を続けておけばいいのでは。
ニチカが誰かを落としてしまえば、私は安心してジェンスと婚約解消できる。
うん、それがいいかもしれない。
「へっくしゅんっ」
ジェンスがくしゃみをした。
寒いのか、少し身を縮めるようにしている。
寒さに慣れていない東の人間だからな。雪に埋もれたせいで体の芯まで冷えただろうし、気をつけないと熱が出るかもしれない。
セーターでも編んであげようかな。今から編み始めれば、帰りに着て帰れるだろう。
「ジェンス、ちょっとごめん」
「へ?」
私はジェンスが座る寝台に片膝をついて、ジェンスの正面から腕を広げて覆い被さるようにした。
「ふぁっ!れれれれれいしーるっ!?」
「うーん……腕を広げてくれる?」
肩幅を測りたかったのだが、ジェンスは何故か真っ赤な顔で自分をかき抱くように縮こまってしまった。
「う、腕を?広げていいのか!?」
「ええ。もちろん」
肩幅を測りたいので。
「レッ、レイシールっ!」
がばーっと腕を広げてくれたので、だいたいのサイズがわかった。お兄様よりちょっと小さいな。
ジェンスがそのまま抱きついてきた。私で暖をとるつもりなのか、くっついて離れない。そんなに寒かったのかな。
何色の毛糸で編もうかなー。
そんな風に考えていると、不意に殺気を感じてジェンスが私から離れた。
「お嬢様に何をしていらっしゃるんですか……?ヒョードル様に言いつけますよ」
怖ーい顔したアンナがジェンスの首根っこひっ掴んで私から引き剥がしていた。
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