10、私はドミニク・ホーカイド公爵である。
私はドミニク・ホーカイド公爵である。
私には十二歳になる嫡男と、十歳の娘がいる。
その娘の方が、最近どうも様子がおかしい。
元々はただの思慮の浅い我が儘娘だったのだが、ここのところめっきりおとなしくなったというか、使用人をいじめることもなくなったし、欲しいものをねだってくることもない。
そして、私達を避けているのか、「勉強があるので夕食は部屋でとってもいいですか?」などと言い出して私室にこもるようになった。
娘の変化と時を同じくして、我が家の使用人達にも変化が現れた。どこから手に入れたのか、なにやら暖かそうな服装をしている者が増えたのだ。
そして、娘も使用人と同じような服を着ている。
そんな服を買ってやった覚えはないし、妻に聞いても知らないと言う。
最近は使用人と話しているところをよく見かける。
娘は使用人など人間扱いしていなかったはずなのだが、いったいどういう心境の変化だろう。
このあいだは、娘らしき小さな子供が使用人達に混じって雪かきをしていたように見えたが、さすがにそれは見間違いだろう。
雪をよけているというよりは自ら雪に埋もれに行っているような有様で、はっきり言って邪魔にしかなっていなかったが、公爵令嬢が雪かきなどするわけがないのであれは娘ではなかったのだろう。屋敷に住み着いた妖精か何かだ、たぶん。
ともあれ、娘がおかしくなった原因を探らねばならんと考えていた。その最中、「使用人達が入れ替わり立ち替わり娘の私室に訪れて、長時間出てこない」という恐るべき報告を聞いてしまった。
いったい何が起こっているのか、すぐに調べなければならない。もはや一刻の猶予もない。
私は焦燥を抑えて、娘の部屋の前に張り込んだ。
すると、一人の若い男が娘の部屋を訪れた。あれは、確か御者として雇った男だ。先日の遭難の際に子供達と共に助け出された後、子供達を危険に晒した罪と公爵家の馬車に子供達と一緒に乗ったという使用人にあるまじき行いでクビにしようとしたのだが、娘が一緒にいた御者は無事か?と頻りに気にかけるので処分を保留にしたのだった。
おのれ!やはりさっさとクビにしておくべきだった!主君である私の目を盗んで令嬢の私室に立ち入るとは!
私は動かぬ証拠を掴んでやろうと、娘の部屋の扉をそっと開けて中の様子を窺った。
そして、そこに広がっていた光景に――息を飲んだ。
「あ、お嬢様。なんかおかしいんですが。うまく編めないです」
「ここ、目をとばしているわよ」
「お嬢様!これは悪魔の仕業ですか!?危ない!お下がりください!」
「餅が焼けてふくらんだのよ。悪魔の仕業じゃないわ」
「あー、出たくない……」
「炬燵は魔物なのよ」
床に娘と娘の侍女、御者、庭師が座り、低いテーブルを囲んでいる。テーブルの上には小さな焼き網を乗せた壷のようなものが置かれ、壷の中で火が焚かれているらしく煙が上がっている。焼き網の上には謎の白い物体が載っており、四角いその物体の真ん中が割れて不気味に膨れ上がっていた。
いったい何が起きているんだ?
「皆、炬燵の魔力にとりつかれちゃいましたねー」
魔力?これは、もしや何かの儀式なのか?
まさか、こいつら。邪教集団の一味か!
レイシールはこいつらに唆されて、夜な夜な恐ろしい儀式に参加させられているのでは?
くっ!このホーカイド家でそのような恐ろしい事態が進行していたとは!
すぐに司祭を呼び、悪しき者達から娘を救わねば!
待っていろレイシール!
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