8、主力商品は毛糸のパンツ






 女性にとって冷えは大敵だ。


 というわけで、うちで働く使用人達に毛糸のパンツをつくって配り歩いた。最初は皆、怪訝な顔したり狼狽えたりしていたけれど、そのうち毛糸のパンツの暖かさに気づいて履いてくれるようになったわ。

 男性使用人には腹巻きを編んであげて、庭師のベン爺さんには靴下とカーディガンも編んであげた。


「ねえ、アンナ」

「なんですか、お嬢様」


 私は毛糸をもてあそびながらアンナに尋ねた。


「私の編んだ服って売れると思う?」


 アンナは目を丸くした。


 この世界で快適に暮らすに当たって、作りたいものがあるのよね。そのために資金を稼ぎたい。

 しかし、十歳の公爵令嬢に働くあてなんてある訳ない。セーターや毛糸のパンツを売って稼ぎたいところだけど、公爵令嬢が商売とかするわけにもいかないし。


「売れると思いますよ?でも、お嬢様がお店を出したり商会に卸しにいく訳にもいきませんもんね」

「そうなのよー」


 最近のアンナは私の公爵令嬢にあるまじき言動に馴れてきたようで、いちいち驚かない。


「あ。そうだ、メイソンさんにお願いしてみましょうか」

「メイソン?」


 メイソンはあの御者の名前だそうだ。


「メイソンさんのご実家は確か小さなお店をやっていたはずです」

「そうなんだ」


 アンナがメイソンを呼んできてくれて、三人で頭を寄せ合って商談を始めた。


「店に置くのはかまいませんよ。値段はどうします?」

「原価とメイソンのお店に払う分を抜いて、利益が出るように。でも、庶民も買える値段じゃないと」

「毛糸のパンツは売れると思います!」


 議論の結果、私が編んだ商品を毎週メイソンが店に運んでくれることになった。


「お嬢様は命の恩人ですからね~」


 遭難事件で私に恩を感じていたらしいメイソンが全面的に協力してくれるので、両親にバレずに商売ができるわ。ありがたや。


「にしても、今日も雪がすごく積もってるわね」

「春が待ち遠しいですね」


 外は見渡す限りの銀世界だ。窓から眺めているとどさどさどさーっと上から雪が落ちてきた。

 これは雪かきが大変だなぁ。


 よし、私も雪かきを手伝おう。


 雪かきをする使用人に混ざろうとしたら、さすがに泣いて止められたけれど、強引に混ざってやった。

 だって、運動不足解消にもなると思うのよね。レイシールって体力ゼロだし。


 この先、宿敵ニチカとその手下アルベルトとの遭遇に備えて、体力を付けておかないと。


「お嬢様!さすがに旦那様に叱られます!」

「大丈夫~。お父様は私にそんなに興味ないって」


 とはいえ、いきなり頑張ると体力ゼロのレイシールでは倒れてしまうので、程々にしておこう。

 毎日少しずつ雪かきをして、体力を付けることにするわ。


 引き続き雪かきに励む使用人達のために、料理長と一緒に甘酒を作って戻ってきた皆に振る舞った。

 私が東でもマイナーという甘酒を知っていたことで料理長のテンションが上がっていたわ。なんでも、相当のお年寄りかよっぽど米料理に詳しい料理人じゃないと存在すら知らないらしい。


「甘くて暖まる」と皆からは好評だったので、そのうち両親の目を盗んで甘酒屋台でもやろうかしら。




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