7、お米万歳ラスト






 アンナが一袋のお米を手に入れてきてくれたので、早速炊いてみることにした。

 なるべく忙しくなさそうな時間を見計らって、厨房を使わせてもらう。料理長は怪訝な顔をしながらも鍋を貸してくれた。ただ、妙な真似をしないようにかじろじろと見張られている。


「お嬢様、本気でライスを食べるんですか?」

「本気よ。東と南では食べられているんでしょ?」

「それはそうですけど……」


 アンナは気がすすまなそうだが、私はかまわずに米を研いだ。


 炊飯器がないのでうまく炊けるか少し心配だったが、少し焦げただけでなかなかうまくご飯が炊けた。

 塩をもらって塩むすびにする。


「いただきまーす」


 久々のおにぎり!ん~、梅干しが欲しくなる。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。食べてみる?」


 小さめに握ったおにぎりを差し出してみると、アンナはこわごわと手に取って恐る恐る口に運んだ。


「ん……しょっぱい、けど、おいしいです」


 厨房の隅でもそもそおにぎりを食べていると、それまで黙って見守っていた料理長が寄ってきた。


「お嬢様は、どこでライスの食べ方を学んだのです?私は東出身なので、子供の頃から食べ慣れていますが、北の貴族はライスを家畜の餌と呼んで、よっぽどの貧乏人じゃないと食べようとしないのに」


 そうなんだ?


「んー、本で読んで興味があって……」


 私は適当に誤魔化した。それよりも、料理長は東の出身なのか。東と言えば我が仇敵アルベルトである。


 あれ?なんか思い出しそうだ……アルベルト。米。アルベルト……


 あー、そうだ。お弁当イベントだ!


 学園で、遠足かなんかがあって、レイシールは豪華なお弁当を持って行くんだよね。婚約者のアルベルトに。

 もちろん、自分で作ったんじゃなくて料理人に作らせた奴ね。

 んで、東ルートのニチカはアルベルトにお弁当を作ってくるんだけど、レイシールにそれを扱き下ろされるんだ。

 そのニチカのお弁当におにぎりが入っていたんだ。レイシールはそのまま「家畜の餌をアルベルトに食べさせる気!?」って怒るんだけど、東では米食文化はそれほど珍しくないのでアルベルトはレイシールの発言に不快感を示してレイシールを罵倒してニチカを庇うんだよね。

 んで、ニチカのお弁当を食べて二人できゃっきゃうふふ、レイシールのお弁当は食べてももらえず。


 うん。レイシールも発言は良くないけれど、しかしさぁ、婚約者のいる男に手作り弁当持ってくる女ってどうよ?常識的に。


 ちなみに、他ルートの場合もお弁当を広げる二人の前にレイシールは現れて「家畜の餌」発言をしてきっちり返り討ちに遭うので、それに関しては「ご苦労様」としか言えない。暇なのか、レイシール・ホーカイド。


 あー、そういや、ヒノモント王国では元々お米が主食だったけれど、ヒノモント王家が滅びると共に米食も廃れたっていう設定で、ニチカが王家を復活させると米食も国中に広まって皆ハッピーというお米万歳ラストだったっけ。

 凍死要員のお兄様と、レイシール以外は全員ハッピーだよな、このゲーム。


 まあ、私はアルベルトの婚約者にはならないから、お弁当イベントもなしだ。ニチカが何作ろうがかまわぬよ。よきにはからえ。


「料理長。どんな米料理が作れる?チャーハンとか作れる?」

「ほう。通な料理をご存知ですな……」


 料理長と話し合った結果、私の夕食は米料理にしてもらえることになった。もちろん、お嬢様に「家畜の餌」を食べさせるなんてバレたらたいへんなので、私は夕食だけは理由を付けて部屋でとることにした。

 やったぜ!毎日米が食える!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る