5、俺はヒョードル・ホーカイド。
俺はヒョードル・ホーカイド。
公爵家の嫡男だ。
俺には二つ下の我が儘な妹レイシールがいて、せっかく遊びに行くのについてくると言い張ってきかない。
せっかく一人で羽を伸ばそうと思っていたのに、台無しだ。
どうせ、寒いだの疲れただの文句ばかり言って、すぐに家に帰る羽目になるんだ。あーあ。
「お待たせしましたー」
レイシールは何故か大量の荷物を背負って現れた。
おまけに、毛皮に毛皮を重ねたような着膨れ状態で、帽子もマフラーもぐるぐる巻きで、はっきり言って目元しか見えていない。
いつもはぴらぴらした格好しかしない癖に……いや、そういえば最近は何故か厚着していたな。
あまりにも着膨れているので、レイシールは馬車に乗り込むのに失敗して転がっていた。
馬車が走り出しても、いつものようにうるさく我が儘を言ったりせず、むしろ真剣な顔で黙って乗っている。
なんだ、調子が狂うな。
静かな妹を不気味だと思っていると、急に外が吹雪き出した。
雪の勢いがどんどん強くなっていき、馬車が停まる。
すると、レイシールが勢いよく立ち上がって馬車の外に出て行った。
「おい!」
こんな雪の中で外に出たらたいへんだ!
そう思って追いかけようとしたら、レイシールは御者を連れて戻ってきた。
「はいはい、早く乗ってください!」
レイシールは御者を馬車に乗せると自分も乗り込んで扉を閉めた。
「おい!なんで御者なんか中に入れるんだ?」
使用人と一緒に馬車に乗るなんてあり得ないだろ。
「え?だって、外は酷い吹雪です。外にいたら凍え死んでしまいますよ」
荷物を漁りながらレイシールがあっけらかんと言う。
確かに、御者は雪まみれでぶるぶる震えている。
が、だからといって公爵家の馬車に使用人を乗せるだなんて……
「はい!雪で濡れた服を脱いで、これを着てください!」
レイシールは何故か着替えを持ってきていた。やたらとでかい荷物にはコートなどが詰まっていたようだ。
「いいですか、お兄様。私達は子供です。御者が外で凍死してしまったら、馬車の中に残された私達は家に帰れなくなりますよ」
レイシールにそう言われて、俺は口を噤んだ。
確かに、御者がいなければ馬車は動かない。
「ずっと馬車の中に取り残されると不安になって、このままここにいるよりは、って外に飛び出して、遭難して凍死するのが関の山ですよ!だから御者大事!唯一の大人は大事!」
レイシールの言い分と外の猛吹雪を見て、俺はそれ以上何も言えなくなった。
「はい!これを食べてください!」
「なんだ、これは?」
「ショウガとハチミツを煮て固めた飴です!体が温まります!」
レイシールは俺にも毛糸で編まれた服を渡してきた。
「朝になれば雪が収まって、誰か探しに来てくれますよ」
何故かこんな状況で堂々としている十歳の妹は、御者にも飴を渡してなんやかやと話しかけていた。
妹は使用人なんて見下していたはずなのに、いったいどうなっているんだ。
まるで人が変わったような妹を不気味に思いつつ、俺は外の猛吹雪が早く収まることを祈った。
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