4、いきなり凍死ってハード設定でしょう






 とくにやることもなかったので編み物がはかどった。

 アンナがたくさん毛糸を持ってきてくれたので、まずはマフラーを二本編んで一本はアンナにあげた。

 次にベストを作って早速着込んだ。ふいー。


「お嬢様、どこでこんなもの習ったんです?」

「ふふふ。秘密よ。口止め料に毛糸のパンツを作ってあげるわ」

「え?毛糸のパンツ?なんですかそれ?」


 アンナは戸惑っていたが、毛糸のパンツを履いてみたらすっごく気に入っていた。


「すごく暖かいです!」

「でっしょー?」


 自分用の毛糸のパンツを作りながらきゃっきゃっと盛り上がった。冷えは女性の大敵だからね!特に足腰は冷やしちゃ駄目!という訳で、次は靴下を作ろう。


 そんな風に編み物を量産する日々が続いたある日のこと、朝食の席でお兄様が「マコマナ村に行きたい」と言い出した。

 穴釣りがしたいそうだ。

 まあ、ずっと閉じこもってばかりだから、男の子は外に遊びに行きたいだろうなぁとのほほんと思っていたのだが、何か引っかかった。

 なんだろう?なんか、忘れているような気が……


 もそもそと食事を続けながらぼんやり考える。なんだっけなぁ……お兄様が関わることだったような……


 はっ。


 私はスプーンを取り落としそうになった。


 そうだ。思い出した!


 二つ年上のお兄様、ヒョードルは、私が十歳の時に遭難して凍死しているのだ。


 えーと、ノベライズ版の番外編で触れられていたはず……確か、穴釣りに出かけて猛吹雪に遭い馬車が動かなくなり、御者共々凍死したはず。


 うわあ。

 私は頭を抱えた。


 いやいや、でも今ならお兄様を助けられる!


 しかし、行かないでくださいといっても聞いてもらえないだろう。なにせ嫌われてるからな、私。我が儘令嬢なので。

 お兄様が凍死すると訴えても信じてもらえないだろうし、十歳の子供の言うことでは誰も取り合ってくれないだろう。


 お兄様はお父様からお許しを得て二日後にマコマナ村へ行くことに決めていた。


 うーん。止める方法が思いつかない。かくなる上は、止めるのではなく凍死を防ぐ方法を考えるべきか。


 凍死を防ぐ方法、現代のような防寒具は存在しないし、せいぜい毛皮のコートを着るぐらいしかないのよね。


 ここでお兄様を見捨てると、後にニチカに首っ丈になって私を断罪するクソ義弟ルイスが我が家にやってきてしまう。


 よし、なんとしてでもお兄様の凍死を阻止する!


「お父様、私もお兄様と一緒に行っていいですか?」

「はあ?」


 私が横から口を挟むと、お兄様が不快そうに顔を歪めた。


「ふざけるな。お前が着いてきたら台無しじゃないか」

「邪魔はしません!行きたいだけです」


 私が熱心に主張すると、お父様は面倒になったのかあっさり許可してくれた。子供に興味ないのがこういう時には便利だな。


 お兄様はめちゃくちゃ不機嫌になって文句たらたらだったが、凍死するよりいいだろと言ってやりたい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る