第36話 好きな料理

「俺の会社があの戦闘で壊れたとさ。さっき連絡があったよ」

「マジかよ!? 俺の会社も戦闘地帯の近くだったけど、大丈夫かな? 今は特に連絡がないけど、不安だ……」


 などの様々な声が出雲の耳に入る。

 出雲は下を向きつつ、あの大規模な戦闘でどうやって被害を抑えられたのかと悩んでいた。


「俺には被害を抑えて戦う程の力はないな……もし戦闘になったら俺はどう戦うのだろう……」


 出雲は自身が戦う場合、どのように戦うのかと考えるも、戦闘被害を出さない戦いなど思いつくはずもなかった。


「俺には被害を出さずに戦うっていうのは無理だ。どうやっても被害は出る。なら、被害が出ても人を助けるしかないか」


 そうしようと考えながら出雲は、電車を乗り継いでやっとの思いで地元の駅に到着をした。地元に着いた時には既に夜になっており、時刻は19時を回ってしまっていた。


 戦闘が始まってから既に9時間が経過をしていた。昼食も取らずに戦い、既に夕食の時間を回っていた。出雲は地元の駅に到着をすると、緊張の糸が切れたのか一気に疲れが全身を巡ってしまう。


「疲れが……」


 何度か咳き込んでしまった出雲は、おぼつかない足取りで家へと向かっていく。通常の2倍近く時間がかかるも、何とか家へと到着することが出来た。


「ただいまー……やっと帰ってこれた……」


 出雲が玄関扉を静かに開けると、琴音の姿がそこにはあった。琴音は出雲の姿を見ると、お兄ちゃんと叫び泣きながら抱き着いてきた。


「帰ってこないから心配したんだよ! お兄ちゃん全然帰ってこないし、テレビで戦闘があったって報道があったらお兄ちゃんの姿が映るし! しかも戦ってるし! 心配したんだから!」

「そっか、優雅さんと一緒に戦った時か……心配かけてごめん……」


 抱き着いてくる琴音を出雲が抱きしめ返すと、階段を駆け下りてくる足音が聞こえてくる。

 出雲は勢いよく駆け下りてくる楓の姿を見ると、ただいまと笑顔で話しかけた。


「お帰りなさい……無事でよかったわ! 何をしていたのかはこっちから聞かないから、今はゆっくり休みなさい」

「ありがとう、母さん」


 楓も出雲に抱き着くと、琴音が苦しいと小さな声で呟いていた。出雲は琴音にごめんと言うと、3人でリビングに移動をすることとなった。

 リビングに出雲が入ると、そこにはカレーが食卓に置かれているのが出雲の目に入る。


「カレーだ! 晩御飯はカレーなの!?」

「そうよ。出雲が戦っている姿を見たら、晩御飯は好きな料理にしようと思ってね」

「私も手伝ったんだよ! 褒めて褒めて!」

「ありがとう! 凄い美味しそうだよ!」


 琴音の頭を優しく出雲が撫でると、琴音がありがとうと言っていた。

 出雲たちはカレーを食べるために食卓の椅子に座ると、出雲は目を輝かせてスプーンを手にする。その瞬間に、頭の中にミサの声が響いてくる。


「美味しそうじゃない。カレーっていうのね、早く食べて」


 突然頭の中に流れたミサの声に驚いた顔をする出雲。

 その驚いた顔を見た琴音は何かあったのと出雲に話しかけた。


「い、いや、何でもないよ! ちょっとカレーに感動してただけ!」

「感動しすぎだよ! 早く食べよ!」


 琴音が出雲に言うと食べ始めた。

 出雲もカレーを一口食べると、美味しいと言葉が自然と口から出た。するとミサも美味しいと言葉を発しているようで、出雲はどうやって食べているのかと、頭の中でミサに話しかけた。


「君の精神と繋がっているから、出雲君の食べた感覚や食事の味も分かるのよ。それに気が付いたのは少し前だったけどね」

「そうなんだ。先に言ってよ」

「ごめんなさいね。出雲君の体を動かしたときに気が付いたのよ。血の味を感じた時にもしやと思ってね」


 血の味と聞いた時に出雲がごめんと再度言った。ミサはどうして謝られたのか理解が出来ていなかったが、謝る必要はないわよと言う。

 出雲が真顔でカレーを食べながら頭の中でミサと話していると、楓と琴音がどうしたのと話しかけてきた。出雲はちょっと考え事をしてたと言って、ミサと話していたことを隠すことにした。


「何でもないよ。ちょっと考え事をしてただけ。カレー美味しいよ! ありがとう!」

「そう? なら良かったわ。あ、これも好きだったわよね? 食べて」


 そう言いながら、楓がキュウリの浅漬けをお皿に乗せて出雲の前に置いた。出雲は好きな料理だと笑顔で言うと、キュウリの浅漬けを食べ始めた。


「この味が美味しい! 母さんの手作りの浅漬け美味しいよ!」

「ありがとう。沢山あるから食べてね!」

「うん!」


 出雲がキュウリの浅漬けを食べていると、頭の中でミサが美味しすぎるわと叫んでいる声が聞こえた。

 出雲は突然叫んだミサの声を驚くも、どうしたのとミサに話しかけた。


「ど、どうしたの!? 急に叫んで!?」

「美味しいわ! このキュウリの浅漬けっていうの美味しすぎる! もっと食べて!」


 ミサはキュウリの浅漬けが好きなようで、沢山食べてと出雲に言った。しかし、出雲はそんなに食べたら病気になるとミサに言う。

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