第35話 弱さの実感

「昼? それぐらいお安い御用だ」


 景昌は沢山食べるといいさと言い、愛理の肩を数回叩いた。

 そして、側にいる出雲に近づく。景昌は出雲に対しても怖い思いをさせてすまなかったと言う。


「大丈夫です。これ以上ない経験をしましたし、自身の弱さを実感してより強くなりたいと思いました!」

「黒羽君……君は強いよ。俺だったら怖くて立ち上がれないと思う」


 景昌は出雲に強いなと言うと、出雲が源十郎に言われたことを口に出す。


「俺は源十郎さんに心と共に強くなれと言われました。俺はこれから言われたことを胸に秘めて、強くなっていきたいです」

「そうか。その気持ちを忘れなければ、黒羽君はいずれ強くなれる」

「ありがとうございます!」


 出雲が景昌と話していると、出雲たちに近づいてくる影があった。

 その影は静かに出雲たちに近づくと、戦闘が終わった終わったみたいだなと声を発した。


「その声は! 竜司! 無事でよかった!」


 出雲が見た竜司の姿は痛々しいものであった。

 竜司は頭部と左腕に包帯を巻いており、歩くのも辛そうであった。


「第一部隊が倒したようだな」

「竜司! 怪我は大丈夫か? 人を助けた時に怪我をしたって聞いたけど?」

「ああ。柄にもないことをした結果だけどな」


 竜司が柄にでもないことをした結果だよと出雲に言うと、愛理がいいじゃないと竜司に言う。


「助けたいと少しでも思ったその気持ちを大切にするといいわ。あんたに足りないことにいずれ気が付くはずよ」

「俺に足りないことはねえよ。俺は完璧だ」

「完璧なら傷つかないでしょ?」


 愛理と竜司が話していることを聞いていた出雲は、間に入っちゃダメだと察していた。出雲は二人を放っておいて、戦闘の後の地域を見ることにした。


「辺り一帯が地獄みたいだ。多数のビルが壊れたり、道路も陥没しているところばかりだし、これからどうなるんだ……」


 出雲が戦闘のあった場所を見渡すと、戦闘をしていた第一部隊の人たちと戦闘後に現れた魔法騎士団の人たちが何やら動き始めていた。


「第一部隊の人たちと、魔法騎士団の人かな? あの魔法騎士団の人たちってどの部隊の人たちだろう?」


 出雲は何やら沢山集まってきた魔法騎士団の人たちを見て疑問に感じていた。どのような部隊の人なのか出雲は景昌に聞くことにした。


「景昌さん、あの第一部隊とは違う人たちはどういった部隊なんですか?」

「ん? ああ、あの部隊は民間の委託部隊だよ」


 民間の委託部隊と聞いた出雲は、そんな部隊がいたのかと何度も頷いていた。

 公になっていない部隊なのか、知らない部隊だと目を輝かせながら委託部隊を眺めていた。


「あの委託部隊って何をするんだろう? 瓦礫の撤去とかしているけど、戦闘の後の片づけがメインなのかな?」


 委託部隊の姿を見ている出雲に景昌が続けて言う。


「民間業者から集まった人たちで構成をしている部隊で、戦闘後の後始末を主に担当をしてもらっている。各業者出身の人たちを中心に、工事にて大規模な戦闘の後の復興を主にしてもらっている」

「そうなんですね。ということは、あの部隊が出てきたら大規模な戦闘後で被害が多数出ているってことなんですね……」


 出雲のその言葉に景昌がそうだと肯定した。


「委託部隊の人たちには俺の参加した戦闘でもお世話になってもらっている。後始末ってわけじゃないが、委託部隊が出動をしたことで助かる人もいるわけで、持ちつ持たれつでやっているわけ」

「そんな裏があるんですね……良いような悪いような……でも、大規模な戦闘でこんな惨状になって悲しいですね……」


 出雲は救護テントが張られた場所を見て、そこに避難をしている人や、食事を受けている人を見て悲しいと呟いていた。


「そうだな。この惨状で喜ぶ人もいれば、悲しむ人もいる。喜べない状況で喜ぶ人もいる。そう簡単には出来ていないが、それでも俺たちが戦うことで救える命もあることも忘れるなよ」

「はい……一人でも多くの人を救えるように鍛えます!」


 出雲の言葉を聞いた景昌は満足をしたようで、笑顔でその意気だと出雲に言った。

 景昌は出雲と話していると、今日は先に家に帰って良いぞと出雲たち3人に言った。


「帰っていいんですか!?」

「あんな戦闘があったんだ。疲れただろう? この後は俺に任せてゆっくり休んでくれ。明日は魔法騎士団本部に朝9時に集まってくれ」


 景昌はそれだけを出雲たちに伝えると第一部隊に合流をした。

 景昌は優雅と何やら話している様子であり、出雲は本当に帰っていいのか悩んでいた。


「本当に帰っていいのかな? 何か出来ることがあると思うけど……」


 出雲が悩んでいると、その姿を見ていた愛理が先生が帰っていいって言ったんだから素直に従いましょうと言う。


「そうだよね。今日はこのまま帰ろうか」


 出雲の言葉を革切りに愛と竜司はその場を離れる。

 景昌が言った明日の集合場所と時間を忘れないようにしようと考えながら出雲もその場を離れて帰宅をする。


「近場の駅は使えないし、戦闘の影響で線路が壊れているから遠回りをして帰るか……」


 溜息をしつつ出雲は地下鉄などを乗り継いで地元の駅を目指していく。

 途中、電車内の車内テレビで戦闘のことを取り上げていることに気が付いた。


「さっきの戦闘のことをもうニュースで流してる。第一部隊とハニエルとの戦闘を主に扱っているみたいだ」


 出雲がその車内ニュースを見ていると、周囲の人たちがもっと被害を抑えてくれよと文句を言っている声が聞こえてくる。

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