第30話 心と共に

「この俺と斬り合えるとは、お前のその体はどうなっているんだ! そんな鍛えていない体で俺とどうして張り合えるんだ!」

「ワレワレハシンカヲシテイル」

「進化だと? お前たちは生命体なのか?」


 源十郎の言葉は鍔ぜり合っている目の前の敵には通じなかった。尚も源十と力任せに鍔ぜり合っていると、ハニエルが右足で源十郎を地面に向けて吹き飛ばした。


「ぐぅ!?」


 ハニエルに吹き飛ばされた源十郎は勢いよく地面に衝突してしまう。

 その場所は出雲のすぐ目の前であり、出雲は源十郎が地面に衝突した衝撃で後方に吹き飛んでしまった。


「がぁ!? な、何が起きたんだ!?」


 地面を何度も転がった出雲は、目の前で起きていることが理解できていなかった。

 突然戦闘が始まり、源十郎が戦った所までは見えていたが、その次から理解が追い付いていなかった。


「じ、地面に何かが落ちてきて、その衝撃で俺は吹き飛んだのか……」


 何かが落ちてきた場所に近づくと、そこには口から血を吐いている源十郎の姿があった。


「だ、大丈夫ですか!? 無事ですか!?」

「お、お前は……」


 ゆっくりと立ち上がりながら、右手の篭手で血を拭う源十郎。出雲の姿を見ると、景昌のところの生徒かと言葉を発する。


「こんなところに学生がいたら死ぬぞ? ここはお前のいる場所じゃない。さっさと退け」

「でも! 俺にも何か出来ることが!」

「ただの学生に何が出来る! 死線も潜ったことがないだろう!」


 そう言われた出雲は俯いてしまう。

 二人がそんなことをしていると、複数の金属音が耳に入って来る。


「部下たちが戦っているのか。俺でも互角かどうか分からない相手に、あいつらが勝てるとは思えないが……」


 源十郎がそう呟くと、第一部隊の部隊員たちが宙に浮きながらハニエルと戦っている姿が出雲の目に入る。 第一部隊の隊員たちは一人一人ではなく、二人や三人での数人ずつで攻撃を仕掛けていた。

 しかし隊員たちの攻撃はことごとく防がれてしまい、腹部や腕を斬られてしまう隊員が多かった。


「隊員たちが負傷しているな。軟弱な隊員が増えすぎている証拠か……」


 源十郎がため息をついていると、二人の隊員がハニエルと互角に戦い始めていた。

 その二人とは優雅と女性隊員なようで、二人は協力をしながら攻撃と防御に分かれて戦い、防御をした人は隙を見て魔法で攻撃をするという形で戦っている。


「未菜さん! 今です!」


 防御をした優雅が右下にいる未菜に指示をすると、未菜と呼ばれた女性が空気中の水分を用いて水槍を作成した。

 未菜は黒髪の肩を超す程度の長さをしており、男性隊員とは違って全身を覆う鎧ながらも重みが少ない動きやすい鎧となっていた。


「これでも受けなさい!」


 未菜が放った水槍はハニエルが左腕を剣に変化をさせて防いでいた。その腕を見た優雅が、そりゃそうだよなと苦笑いをしていた。

 優雅と未菜が戦っている姿を見ていた源十郎は、味があるやつもいるじゃねぇかと微笑しているようであった。


 出雲は優雅たちの戦いを見て、高レベルな戦いを出来るようになるのだろうかと不安になっていた。

 今現在の自身の強さを考えた際に、どうすればあのレベルまで行けるか道が思い描けなかった。


「俺はどうしたらあそこまで強くなれるんだ……」


 どうしたら、どうしたらと出雲が悩んでいると、その出雲の姿を見た源十郎が話しかけてくる。


「君はまだ学生だろう? なぜそんなに焦る必要がある?」

「お、俺は……英雄になるためには力が必要なんです!」

「英雄とは、また大きく出たもんだ」


 大笑いをしながら出雲へと近づく源十郎。

 出雲の真横に移動をした源十郎は、出雲の肩に右手を置いた。


「君は俺のことを知っているか?」

「魔法騎士団の第一部隊の隊長であり、魔法騎士団の副団長の獅子王源十郎さんです」


 出雲が源十郎のことを言うと、源十郎はそれだけかとため息をつく。


「俺のことなんてそれほど世の中に出ていないから仕方ないか。俺は子供の頃は魔法を扱えなかったんだ。魔法が扱えなくて体も病弱で剣すら振るうことも出来なかった」

「そ、そうなんですか!?」


 出雲は目を見開いて横にいる源十郎を見つめた。

 源十郎は出雲の目を見ると、俺もお前と同じに悩んだ時があったと言う。


「魔法の適性はあっても扱えない。それでも俺は魔法騎士団に入って世界を救おうとしたんだ。俺の若い頃は今ほど平和じゃなかったからな」

「聞いたことがあります……法整備がまだできていなかったから犯罪が横行していたと」


 源十郎の幼少期は、魔法犯罪が多発していたことで有名である。

 魔法に適正がある人間が増え続けたことで、神秘なる魔法を自身の利益にだけ使う人間が増えた結果、魔法騎士団と民間人との武力衝突が起きたとされている。


 結果的に魔法騎士団が圧倒したが、民間人に向けての戦力投入はおかしいのではと議論が起こり、法整備が進んでいく。


「そうだ。あの衝突の結果、法整備が進んで今に至る。 だが、法によって犯罪は減ったが、表沙汰になっていない犯罪も増えつつある。そのために魔法騎士団はこれからも必要だ」

「はい。だから、俺はすぐに強くなりたいと……」


 すぐに強くなりたい。

 その出雲の言葉に源十郎が、心と共に強くなれと言う。

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