第4話 試験会場への道

 試験当日の早朝に出雲は家を出た。

 試験会場である魔法騎士団の演習場は家から2時間近くかかるため、早朝に発車をする電車に乗るためである。


「まさか試験会場が家から遠いとは……もっと場所のことを調べておくんだった……」

「眠いわ……お兄ちゃん試験頑張ってね……」


 琴音が眠気を抑えながら出雲を応援していた。琴音の横に立っている楓も眠そうであるものの、あくびをしながら出雲に全力を尽くして悔いが無いようにねと言う。

 その言葉を聞いた出雲は、頑張って来ると楓と琴音に元気な声で言った。そしてそのまま駅の方に歩いて行く。


「まさか見送られるとは思わなかったな。静かに行こうとしたら母さんと琴音が起きていて、応援をしてくれるなんて最高だな」


 出雲は家族が応援をしてくれて、より合格したいという気持ちが高まっていた。駅への道中、筆記試験のことや魔法実技試験のことを考えていた出雲である。


「緊張してきた……筆記試験の点数が足らない場合で落ちることもあるからな。でも、それでも全力を尽くして試験に臨まないと!」


 全力で臨むぞと意気込みながら駅に入りホームに出た。始発ということもあり、電車に乗っている人は多くない。

 出雲は空いている椅子に座りながら徐々に明るくなる空を、電車の中から眺めていた。


「朝日が眩しいな。日の光を浴びて元気に行くぞ!」


 電車の椅子に座りながら、窓から差す日の光を受けて出雲は元気になっていた。そしてそのまま電車に乗り続け、乗り継ぎをしながら魔法騎士団の演習場がある駅に到着をした。出雲は数歩程度歩き辺りを見渡すも、到着をした松野駅には何もなかった。

 

 数駅前までは建物や住居などが多数あったのだが、トンネルを抜けた先にある松野駅が見えると、周囲には何もなかった。無人駅なように見え、草木しか生えていないように見える。


「何もない……どっちに向かえばいいんだ?」


 出雲は周囲を見渡すも、建物も何もないのでどうすればいいか悩んでいた。

 試験開始1時間前に駅に到着をしたのにも関わらず、時間が刻々と過ぎて行く。出雲の後に駅に止まった電車から、少数ながら受験者と思われる制服を着ている数人の男女が駅から出てきた。


「あの人たちも試験を受ける人なのかな?」


 神妙な面持ちをしている数人の男女を見ていた出雲は、その男女の後をついていくことにした。


「多分受験者だろうし、一緒に行っても問題ないよね? 場所が分からないから仕方ないし……」


 同じ方向に向かうのに、一切の会話がない緊張感が溢れる駅前となっていた。出雲は数人の男女が駅の東側を歩いているので、出雲は小走りで後を追っていく。


「草木しかなくて、のどかな雰囲気だな。本当にこんな場所に魔法騎士団の演習場があるのかな?」


 本当にあるのか不思議に思っている出雲は、先ほどみた数人の男女を顔を思い出していた。


「落ちたら人生が終わるような顔をしていたな。俺も絶対に合格をしたいけど、それ以上に受からなければならない他の理由の重圧を感じているようだったな」


 俺も受からなければならないと、心をの中で意思を燃やしながら後をついていく出雲。緊張をしながらも駅から出て20分程度歩くと、出雲の目の前を歩いていた数人の男女の姿が突然消えた。


「え!? 今の今まで目の前を歩いていたのに! 姿が消えた!?」


 どうしてだと焦りと不安を感じながら、駆け足で数人の男女の姿が消えた場所まで向かった。


「ここで姿が消えたんだよな?」


 出雲は怖いと感じながら右手を伸ばすと、ある場所から手が消えた。

 いや、消えたというよりは魔法によって何か隠されているんだと出雲はその手の消え方で感じ取っていた。


「ここにバリアのような魔法が展開されているのか? それで演習場の姿が見えなかったのか!」


 なるほどと納得しながらも、試験の集合時間が迫っているので出雲は目を瞑りながらそのバリアを通過した。


「こ、怖い……抜けられたかな?」


 何が起こるか分からないので、怖いと何度も心の中で呟きながら歩く。

 出雲が目を瞑りながら歩いていると、何かにぶつかった。それは固くもなく柔らか過ぎることもなかった。


「何かにぶつかった?」


 壁でもあったのかと出雲は思いながら静かに目を開けると、そこには商店街で出会った陸奥景昌が立っていた。

 景昌は自身にぶつかってきた出雲に対して、何をしているんだと話しかけていた。


「目を瞑ってどうしたんだ? ここに来れたってことは試験概要のトラップを突破したんだな?」

「む、陸奥さん!? あ、はい! 魔力を通したら内容が変わってここを指定されました!」


 出雲は試験概要の内容が変わったことを伝えると、それも試験の一つだと景昌に言われた。


「そ、そうだったんですか!? 危なかった……」


 既に試験は始まっていたのかと冷や汗をかいていると、景昌が試験会場に遅れちまうぞと出雲に言った。


「そ、そうでした! 失礼します!」


 景昌に頭を下げ終えると、時間がと言いながら会場に走って行く。出雲は試験会場はこちらと書かれている立て看板を頼りに、奥に走って行った。


「あ! あった! あの大きなプレハブが試験会場かな?」


 出雲は試験のために作られたと思われる、プレハブの長方形の建物が目に入った。そのプレハブの建物の扉を静かに開けて中に入ると、そこには既に50人程度の受験生が設置されている机の前に置かれている椅子に座っていた。

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