魔法高校の聖騎士~楽園の鳥籠で天使は嘲笑う~

天羽睦月

第1章 運命のプロローグ

第1話 始まりの日

 現在から数世紀前、ある国の科学者が不可思議な力を使用する少数の人々を俗世から離れている深い森の中で発見した。その人々は、物を透視したり蛇口から出る水を操作して球体状にできる能力を持っていた。

 科学者たちはその人々を研究対象とし、さらなる能力の解明のために研究を始めた。その研究の結果、潜在能力としてその人々が有していた能力ということが判明したのである。科学者たちは、地球上にこの不可思議な力を有している人々のことを公表しようとすると、ある一人の年老いた男性が科学者の一人に話しかけた。

 

 その言葉とは、我らの発見を皮切りに潜在能力を発現し不可思議な力を扱う人々が増えるだろうとのことであった。その言葉通り、日に日に不可思議な力を扱える人が増えていった。

 不可思議な力を使える人々が増えたことで世界中が混乱をしている中で、研究者たちはその特殊で不可思議な力を魔法という言葉で包むことに決め、世界中に魔法の存在を広めた。

 

 世界人口の10%が有するまでに増えた神秘なる魔法を扱う力。その力を善や悪に使う人に次第に分かれていった。それは日本においても同じである。善行に使う人、悪行に使う人に分かれていき、日々様々な事件が起きるまでになっていた。

 魔法を扱う力を持つ人が世界人口の10%といわれてはいるが、その世界各国の割合はバラバラである。日本においては、魔法を扱う力を持つ人が多いとされている。


 そして時は現在、15歳である黒羽出雲は、中学校の近くにある商店街を歩いていた。そこは平日の夕方に差しかかっていることもあり、買い物客で賑わっていた。出雲は髪色は黒色で耳にかかる長さをし目鼻立ちはハッキリしているものの、年相応には見えないその幼い童顔の顔がコンプレックスである。


「太陽の日が気持ちいい。もうすぐ受験なのに全く自身がない……どうしたらいいんだろうか……」


 受験が近いのにどうしても自信が持てない。来週の頭に受験があるのにも関わらずどうしていいか分からなかった。着ている中学校のブレザー型の制服も、出雲の内心と呼応しているかのように皺が目立っているようである。


「筆記試験があるのは確定しているけど、実技試験で何をするのか分からない……魔法を用いる試験なのか、武器を使うのか……」


 筆記用具を持ってくるようにと言われていたので筆記テストは確定であるが、家に送られている注意事項や行う項目に実技試験とは書かれていなかった。

 どうしてだと考えている出雲だが、答えが出ないことを考え過ぎていて頭痛がしていた。


「答えが出ないことを考えていても仕方ないか……」


 溜息をつきながら商店街を進んでいると、奥の方から爆発音が聞こえてきた。出雲はその爆発音を聞くと、目を見開いて固まってしまった。


「な、なんだ!? 何が起きたんだ!?」


 出雲は周囲を見渡して商店街の奥の方から必死な形相で逃げてくる人々を見ていた。逃げてくる人々を見ている出雲は、一体何が起きているのか理解ができていない。


「に……逃げなきゃ……早く逃げなきゃ!」


 怖い怖い怖い――出雲はこの目の前に広がる地獄のような光景の恐怖を抱いていた。逃げる人が地面に倒れてしまった人を踏みつけ、子供も地面に座って泣き喚いているのが目に入る。

 つい数分前までは活気が溢れる商店街だったのにも関わらず、出雲の目に入っているこの現状を認識したくなかった。


「怖い……せっかくの魔法を犯罪に使ってるのか……」


 魔法を犯罪に用いることは重罪である。いとも簡単に人を殺すことも可能であるし、怪我を負わせることも容易である。


「逃げなきゃ! 早く!」


 出雲が踵を返して商店街の入り口に向けて逃げようとすると、子供が泣く声が耳に入った。出雲がその声が聞こえた方向を向くと、顔に包帯を巻いて両目だけを出している男性がいた。その男性は右手から両手に収まる程度の大きさの炎を発生させているように出雲は見えた。


「あれは、魔法か!? やっぱり魔法を使った犯罪なんだ! あ、包帯を巻いている男が女の子に近づいてる!? 助けないと!」


 怖い気持ちを押し込んで出雲は、子供のもとに駆けだした。攻撃されるかもしれない。掌にある炎で焼き殺されるかもしれない。しかし、出雲の心のなにあるのは殺される心配よりも助けたいという気持ちだけであった。


「お母さんどこー! お母さーん!」


 地面に座って泣きじゃくっている子供のもとに辿り着いた出雲は、もう大丈夫だからねと笑顔を向けた。


「だれー? お母さんはー?」

「すぐに送り届けるから! 今はここから離れよう!」


 笑顔を向けながら泣きじゃくる子供を抱いた出雲は、一気に駆け出して包帯を巻いている男から逃げようとした。しかし、包帯を巻いている男は炎を出雲の足元に向けて放った。 

 出雲の足元に放たれた炎は小規模な爆発をした。その爆発を受けた出雲は、子供を抱えたまま地面に倒れてしまう。


「ぐあ!? 魔法で人を襲ってくるなんて! だ、大丈夫か!?」


 出雲は抱えている子供の安否を心配していると、大丈夫だよと子供が出雲に話しかけていた。


「私は大丈夫だよ」

「よかった! すぐに逃げるから、安心して!」


 そう言いながら出雲は抱きかかえる力を強めて、一気に駆け出した。出雲は背後を見ると、包帯を巻いている男が聖痕がと何度も呟いている声が聞こえていた。


「何を言っているんだ? 聖痕?」


 聖痕とは何だと眉間に皺をよせながら考えていると、商店街の入り口に到着をした。

 もう大丈夫だと出雲は考えていると、包帯を巻いている男が自身の足元から発生させた炎を爆発させて勢いよく出雲のもとに一直線に飛んできた。


「な、なんだそれは!? 反則だろそれ!」


 炎を爆発させた勢いで商店街の入り口にいる出雲のもとに飛んできた包帯を巻いている男は、自身の右手に炎を凝縮させて球体状に変化をさせた。それを見た出雲は、どうしたらいいのか冷や汗をかいていた。


「俺はどうしたらいいんだ! この子を守るためには!」


 抱えている子供を見ながら出雲は悩んでいた。自身の魔法を使うのはいいが、未だに魔法を扱いきれていない自身でどれだけ対応が可能か分からなかったからである。 しかし、そんなことで悩んでいる時間はなかった。目の前に魔法を悪用している人がいて、自身と子供が危険に晒されていたからである。


「悩む前に行動あるのみだ! 俺はこんなところで悩んでいられない!」


 死ねない――守るんだと叫びながら、出雲は自身の右手を前方に出した。そしてそのまま、輝けと力強く言葉を発した。 輝け――その言葉と共に、出雲の右手から眩い光が放たれた。その光を受けた包帯を巻いている男は両手で目を覆い、向かってくる速度が落ちた。

 その隙を出雲は見逃さず、後方に飛んだ。そこには逃げていた人たちが多数おり、出雲と抱えている子供を保護した。


「あ、ありがとうございます! そうだ! この子の母親はいませんか!?」


 自身のことよりまずは子供のことだと思い、すぐに母親を探すことにした。すると、すぐに母親が名乗り出て女の子と再会を果たした。


「お兄ちゃんありがとう!」

「どういたしまして。さ、早く安全な場所に!」


 出雲の言葉を聞いた母娘は、すぐに商店街から離れた。出雲の攻撃を受けた包帯を巻いている男は、視力が戻ってきたのかその場にいる建物や逃げていた人々を攻撃し始めた。


「やっぱり俺の攻撃なんかじゃ、何も役に立たないのか……」


 悔しいと言いながらその場に立っていると、背後から近寄ってきた一人の男性がそんなことはないぞと出雲の頭に手を置いて前に出た。


「も、もしかして……その服って!?」


 出雲は自身の前に出た男性を見て驚いていた。その男性は白色と黒色2色が鮮やかに彩られている制服を着ていた。また、腰には一本の剣を差しているようである。

 その男性は20代前半と思え、髪は短髪で左頬に切り傷がある精悍な顔立ちをしていた。


「もしかして、魔法騎士団!?」

「そうだ、君の魔法のおかげで間に合ったんだ。その勇気と魔法を誇っていいぞ」


 誇っていい。そう言われた出雲は嬉しいと感じていた。俺でも力になれる、魔法に自信を持っていいんだと笑顔になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る