燻る

 百均で買ったライターで煙草に火を点ける。燻らせた煙が虚へ立ち消えた。半開きの窓から侵入した僅かな風が、カーテンと前髪を揺らして失せる。朝日は未だ上らない。

 喉が渇いた。腰掛けていたベッドから立ち上がり、脇の机からペットボトルを掴み取る。照明を落したままだが、外の猥雑なネオンのお陰で暗がりに困ることは無い。少しではあるが残っていた生温いただの水が喉を通り過ぎていく。空のボトルを少々乱雑に置く。程なくして倒れ、床へと転がり落ちた。中身を失い、重心を見失ったのだろうか。

 ベッドの方を見遣る。女がすやすやと安らかな寝息を立てていた。一服盛ったので後二時間はこのままだろう。そうでなくても不慣れらしい女だったから、疲れ果てて暫くのびていてもおかしくはない。皺の目立つシャツを手に取り、袖を通し、ボタンを留める。

 ふと鏡が目に入る。虚ろな眼をした男がそこに立っていた。こんな生気の無い男に惹かれる女共がぞろぞろ出て来るこの街は、見る目も性根も腐っているんだろう。そう思った。そこに何の感情を抱いた訳ではない。ただ思っただけである。

 扉を開き、廊下へ出て、そのまま外の喧騒へと消える。歓楽街の外れのビジネスホテルは、この時間にスタッフを見たことがない。二本目の煙草を取り出し吹かす。この後の予定は特に無い。物は有っても金は無い。酔いどれや殴り合いの横をふらふらと抜けてゆく。朝日は未だ上らない。

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