イド

 だれもがしあわせにはなりやしないわ。

 ただしいことをすればしあわせになれるとはかぎらないもの。

 しょうじょはいった。いみはよくわからない。

 なみだはひかってにじになる。

 だからだれもが、だれかのふこうをねがっているの。

 しょうじょはつぶやいた。なみだをこらえて。

 かのじょはてをのばした。

 しらないせかいをともにすごした。

 ぼくのしらないよるのいろ。

 ほしふるまちのちいさなねいき。

 ととんたたんとかけだした。

 ぼくはあのときしあわせだった。


 いつからだろう。


 なにかが、変わってしまった。


 彼女の言葉を、僕は今確かに理解している。


 世界は反転する。

 誰も彼もが幸せになれる、そんなのはただの御伽噺だ。

 正しい裁きで泣く人がいる。

 僕は語った。酷く、静かに。

 落ちた涙が嫌に綺麗で、それが欲しくて傷付ける。

 彼女は押し黙った。涙が頬を伝う。

 僕は彼女の手を掴んだ。

 慣れ親しんだ丑三つの暗闇。

 雨音だけが街を包む。

 慟哭なんて響かない夜。

 ぼくが、僕の中で涙を流した。

 やがて、雨と混ざって消えてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る