傲慢

 ああ、そうさ。

 君の事なんて、私はこれっぽっちも知りやしない。

 過ごした年月は知らないがね。

 何も言わない君を?私が?知るわけがねえでしょうが。

 君の好きなものは?君の愛した詩は?君の嫌いな人は?

 言わなきゃ!!何も分かんねえよ!!!

 なあ、これ以上失望させないでくれ。頼むからさ。なあ。痛くても顔を顰めて食いしばるだけ。長いこと隣にいたからって、全てが伝わってるわけじゃないのよ。というか伝わったフリが上手くなっただけさ。それすらも気付いていなかったんなら絶望でしかないね。皆から求められた勇者は、人心掌握がクソほど下手だったなんて、お前本気で国の舵取る気あった?まあいいや。行けると思ってたんでしょうよ。

 いやぁほんと、傲慢だわ。

 君はいつまで経っても人様に頼りきりじゃあないか。言葉一つも相手に委ねきり、自分の委細は口から出さない。そんなので伝わるわけがない。君は言うなれば赤子と同じだ。背中で語って付いてくるのは、場に身を委ねることしか出来ない馬鹿共ばかりだったろう?君は、お前はそんな奴らですらも信じようとしたがね!嗚呼、嘆かわしい!!

 それで?国力はガタ落ち?ふざけたことを言うんじゃあない!!私の愛した国はこんなに荒れ果てていたかい?!君の求めていた世界はこんなだったかい!?子供は泣き、親は飢え、国土は穢れて都は腐り果てた!!!こんな、こんなクソみたいな国、本当にこれが私達の目指した理想かい!?違うだろう?!!

 ……目を覚ませなんて言わないさ。君はそうやって生きてきたし、今まではそうやって上手くやってきた。だから君が、「人を疑え」なんて忠告を聞き入れるなんて思っちゃいないさ。分かってる。それだけは、私が一番よく知ってる。それが君の生き方だ。私が知っている、数少ない君の内面だ。

 ……民に、彼、いや君を降ろそうなどと言っても、きっとそんなことは出来ないだろうさ。幾ら不満があっても、君がいなければこの国は既に無かった。そんなこと、誰しもが分かっているからこそ、君はこんなふうに穢れちまったんだ。誰しもの責任を被せられ、泣き言も言わずにただ剣を振って、やっと成したと思ったら慣れない文官の仕事。分かってるさ。辛かったろう?だからさ、


 ───淡く輝く銀の刃に、滴り落ちるは朱一滴


 ……これで、君はようやく楽になれる。他にもっとやり方はあったかもしれないけどさ、何も言わないからこうなっちゃうんだ。自業自得だったと思って諦めてくれ。これでも、君のやり方に不満があったとしても、私は君を慕ってたんだ。


 だからもう、これ以上ヒーローを穢さないでくれ。


 ……なぁに。国のことなら心配無用だ。

 君よりは上手くやる。もとより私は、そういう役だったろうさ。

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