第6話 ハンターに成る意味

 「何の為にって……。バカにする奴らを見返してやりてぇんだよ」


 「それだけ?」


 「あぁ…」


 俺は本当の目的を言うのをやめた。

 言った所で誰もこんな非現実的な話を信じるわけないのだから——

 

 向こう側の世界。

 地球で、親父は薬剤師とか云う、よく分からない職業の仕事をしていた。

 仕事が終わり、自宅に帰る道中、急に目の前にモヤモヤした真黒い楕円形のものに身体を一瞬にして吸い込まれた。

 その空間の中は、塵一つ無い空間。星の無い宇宙を彷徨っている感覚だった。

 長い間、彷徨い途方に暮れていたある時、吸い込まれた時と同じモヤモヤした真黒い楕円形のものに再び身体が吸い込まれ、気づくと見知らぬ古びた石地の上に倒れていた。

 周囲には、地のヒビ割れた隙間から白い雑草が生え、さらに一帯には濃い白霧が漂っていて視界が悪かった。

 霧の中、探り探りで歩き進んで行くと、その先には地面が無く、下には自分が足をつけている古びた地の側面が見えた。

 地は遥か下まで続いており、白霧の中かへ消えている。この地は、恐らく人工的に造られた塔の様な建物の最上階で、雲の中に居たんじゃないかと言っていた。

 そして上空に空を切る音が聞こえ、上を見上げると一体の龍が空を飛んでいた。

 その龍は、漆黒の身体全体に小さな無数の光粒が輝きを放ち、まるで目の前に星があるのかと、宇宙に居るのかと錯覚する程、神々しい光を纏っていた。

 しばらく見た事のない生き物に唖然としていたが、龍は親父の視線に気づくと、目の前に降り立ち、咆哮した。


 その途端、モヤモヤした真黒い楕円形のものが龍と親父の周りに無数に出現し、吸い込まれてしまったと。

 そして、気づいたときには、この街近辺に倒れていて、目の前には一枚の光粒を纏った鱗が落ちていたと。


 それから元の世界に戻るため、その龍を探し回ったが見つからず、親父は元の世界に帰る事を諦めたらしい。


 前に親父は、命が幾つ有っても足りないから諦めたと言っていたが、本当の理由は俺が産まれたからだろう。

 俺のせいで、親父は戻りたい本当の世界に帰れなくなった。

 母さんも病気で亡くなり、もういない。

 俺もハンターに成り、今日から自立するんだ。

 誰も向こうの世界に戻っても親父を責めない。

 俺は親父を元の世界に帰らせてやりたい。


 これが、俺の本当のハンターに成った理由。


 しかし、それを話した所で信じて貰える訳が無い。

 存在すると云う記録すら一切無い非現実的なモンスターが居るなんて——



  「しょーもない…期待外れだわ」


 「じゃぁお前は何の為になったんだよっ」


 「私は…姉を助ける為よ…」


 「助ける?何かの病気なのか?」


 「アンタに関係ないわ…」

 エマは素っ気なく答え、背を向ける。


 「治らない病気なのか!?」


 俺の言葉を無視し、エマはそのまま宿屋の方へと姿を消していってしまった。

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