その恐怖は、人に寄り添う

@yumesaki3019

第1話 少年と青年

 ねぇ知ってる?つい最近先生から聞いた有名な昔話らしいんだけどね。

 ある学校の少年がね、夕暮れとぼとぼ一人下校してたんだって。少年は虐められてたらしいんだ。幸いその日は補習で帰る時間が遅くなったからいじめっ子達とは別れて一人帰ることが出来たんだって。

 少年の家は神社の近くでね、毎日鳥居の前を通らなきゃいけなかったんだ。今日も少年は鳥居の前を通ろうとしたんだ。普段は虐められながら帰るから目を向ける暇もないんだけど、夕暮れだった事もあって早足で横切ったんだ。

 でもおかしいんだ。歩いても歩いても鳥居が視界から消えないんだ。怖くなり走っても走っても家に着かない。少年は鳥居の前から先に進めなくなってしまったんだ。疲れ果て少年は座り込んだんだって。とうとう、泣き出してしまったんだ。そりゃそうだよね。

 漸く泣き止んだ頃、少年はある青年と出会ったらしいんだ。何を言われたのか…は伝えられてないだって。暫く会話した後、神社に招かれたんだって。いつまでも真っ赤な空の中少年と青年は二人は歩み出した。軽く話しながらね。

 二人揃ってお参りしようとした時。境内から何か、何か出て来る雰囲気がした。ギシ、ギシと軋む音もする。まるで誰かが歩いて来るかのような…そんな音がした。涙跡が残る中少年は震え上がったんだけど青年は全く怖がっていなかった。むしろ親しげに何かを迎え入れていた。青年には何が見えていたんだろうね。軋む音がしなくなり、静寂に包まれた神社は、別世界の様な雰囲気を醸し出していた。

 次に青年と少年は神社の売店に向かった。普通なら閉まってるはずなんだけど、夕暮れに染まっている時間だからなのか、巫女さんが数人居た。少年の身長じゃ見えないけど、何かを売っているらしかった。

 よいしょっといきなり少年を抱え、青年は二人分の籤引きを引いた。普通なら沢山の籤引き紙の中から数枚取り出す筈なんだけど、その時はブラックボックスの中から2枚取り出す事になっていた。怖いよね、何が入ってるのか分かんないんだから。

 青年が引き終わり次は少年が引く番だ。青年に抱き抱えられながら恐る恐る籤引きのブラックボックスに手を突っ込むと、中で何かに触った。フサっとした感触がしたんだけど何故か驚きはなかった。普段から家で触っている飼い猫のような感触だったから。それを避けながら籤引きの紙を箱から取り出した。

 青年と少年が引き終わった後、少年は後ろから誰かに肩を触られた。青年はお守りの支払いをしてるから知らない人なのは間違いないんだ。さっきの軋む音といい、見えない誰かなのかもしれない。ガクガク震えながら青年の手をギュッと握っていたんだって。

『あはは、大丈夫だよ。悪い人達じゃないから』

 と談笑する青年。なんでか分からないけど、青年はやけに詳しかったんだ。その優しい声を聞いて少年は安心した。何故か、自分の家族の声に似ていたんだって。

 籤引きを見ようとしたら、青年はその籤を巫女さんに渡したんだ。疑問には思ったんだけど真似をした方が良いのかなと思い、少年も同じ様に巫女さんに渡した。表情はあまり見えないけど、巫女さんは笑っている様に見えた。なんでだろう、と疑問で仕方なかったらしい。

 さぁ帰ろうかって時、少年は青年からお守りを貰ったんだ。そのお守りには【幸福祈願】って刻んであったんだって。多分さっき売店で買った物だろうね。

『中身は見ないで欲しい』

『中身を見たら幸福のお守りがなくなってしまうから』

 と強く言われたんだ。最初の、何度も戻された鳥居まで戻ってきた時に

『大丈夫、僕が付いてるから』

『安心して生きて欲しい』

 と言われたんだって。

 気が付いた時には家の前に居て、無事に帰れたらしいよ。

 その日の夜、宿題を終わらせた少年は改めて貰ったお守りをじっくり見た。すると一瞬お守りから赤い光が溢れた。目を擦って見ても特に変わらない。不思議に思ったんだ。

 その次の日、お守りをポケットに入れて学校に向かった。そこで少年は初めていじめっ子達に強くでたらしい。それだけじゃなくて、先生達に相談したり親に言いつけたんだって。今迄は怖くて言えなかったのに、凄いよね。勇気を振り絞る事が出来たんだよ。私だったら怖くて怖くて言い出せないもん。昨日不思議な目に遭った後なら尚更ね。お守りのおかげかは分からないけど、少年は変わる事ができたんだ。

 また次の日、いじめの子達は学校を休んだらしい。更に、先生や友達の態度が優しくなったらしいんだ。少年が勇気を出したからかな?何でかは分からないけど、少年はいじめから解放された。良かったよね。

 そして時は流れて少年は高校生になった。それでも少年は青年の事を忘れては居なかった。あれからポケットにはいつもお守りがあった。でも不思議な事が一つあった。いつの間にかお守りがボロボロになっていくんだ。何もしてないはずなのに、だよ。

 少年に恋人が出来た。幸せの絶頂だったんだ。放課後デートに行く約束をしたその日、少年はサッカー部だったんだけどね、部活動でボールを追いかけてグラウンドを走っていた。ボールがあらぬ方向に飛んでいき慌てて少年は追いかけた。でも少年は気付いて居なかったんだ。その先が道路だった事にね。飛び出した少年の前を通ろうとするトラック…。人々の悲鳴が、特に彼女の悲鳴が聞こえる中少年は死を覚悟したんだ。でも、奇跡が起きたんだ。トラックはギリギリ少年を横切ったんだ。グラウンドに戻った少年はまさかと思いポケットから出しお守りを見た。思った通りお守りは破れ切り、中身が見えそうになっていた。

『中身は見ないで欲しい』

 青年との約束を思い出しハンカチで包もうとした時、何を見ているの、と彼女がお守りを取った。誰かに見られるのも不味い、と慌てて取り返そうとしたけど、彼女に先に中身を見られてしまった。そこに何があったのか…それは分からないんだ。何故か伝えられてないんだってさ。

 それからと言うもの、少年は毎日神社にお参りをする様になったんだって。きっと少年は青年に感謝をしているんだろうね。大人になっても少年は今もお参りを続けているらしい。

 ここからは私の考察なんだけど、きっと他愛ない会話の中でも少年は青年に色々学んだんだろうね。もしかしたら、少年にとって幸せな時間だったのかもしれないね。虐められてた少年を肯定してくれたのかも。そんな人との出会いの場所である神社に思い入れがあるのも分かるよね。これでこの話はおしまいだよ。二人が今でも幸せだと良いね。

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