第7話 球拾いの天才⑻
「じゃ、雷先輩! お願いします!」
「おおよ! 手加減しねえぞ!」
バットを構えた雷が、戸惑いながら突っ立っている雨彦に宣戦布告する。
「あの、なにこれ?」
「これから雷先輩が打った球を捕球してくれ。もしも十球、全部捕れたら野球部に入ってよ」
「はあ? それじゃあ入りたくならわざと捕らなきゃいいだけじゃん。それじゃ、勝負にならな……」
「うん! だから、入りたくない時は、捕らなくていいよ」
野分はにっこり笑って、雨彦にグローブを手渡した。
「行くぞおらあっ!」
何故かやたらと張り切っている雷が、晴の投げたボールを打って雨彦の足元に転がした。咄嗟に体が動いて、雨彦はグローブでボールを掬い取る。
(うお。バレーボールより小さくて硬い)
硬球なんて初めて触った雨彦は、バレーボールとは全然違う感覚に慌てた。
(ちょっとおっかねえな。でも、捕れないことはない)
続く二球目も、雨彦はなんなく捕球する。三球目と四球目はちょっと遠くに転がされたが、雨彦は地面を蹴ってそれを拾う。
(ていうか、拾わなければいいんだよな)
そう思うのだが、こちらに向かってボールが飛んでくると、つい体が動いてしまう。
結局、八球目まで完璧に捕球してしまい、バットを手にした雷が少し面白くなさそうに歯を食い縛る。
「うらあっ!」
これまでで一番の速さの球が飛んでくる。
(バレーのコートよりずっと広い。届かない?)
「……くっそぉっ!」
雨彦は地面を蹴って飛んだ。
目いっぱい伸ばした手の中に、ボールが収まる。
「だっしゃあっ!」
思わず起き上がってガッツポーズをした。
(はっ……何ムキになってんだ俺……)
振り上げた拳に、自分自身で戸惑った。
「んがあっ! クソが! これでも喰らえ!」
やけくそ気味に雷が放った最後の一球もきっちり捕球して、勝負は雨彦の完全勝利で終わった。
「やっぱりすごいや霜枝くん! 俺の目に狂いはなかった!」
野分が万歳して喜ぶ。
「ちっ……やるじゃねえか」
雷も悔しそうにしながらも雨彦を認める。
「すごいねえ」
「うん。彼が入ってくれれば守備が強化される。うちの部に絶対に必要な人材だよ!」
日和と雲居も目をキラキラさせて雨彦に駆け寄ってくる。
「いや、ちょっと待ってよ。俺は野球部には……」
「わかってるよ。バレー部だもんね」
野分が雨彦の肩を叩いた。
「でもさ、球を捕っている時のキミは、すごく生き生きしていたよ。キミは、本格的にバレーをやる気はないっていったよね? でも、今球を追っていたキミの目は本気だった」
野分は確信を込めた目で雨彦をみつめた。
「やっぱり俺はキミに野球部に入ってほしい。野球部には、キミが必要なんだ!」
まっすぐに言われて、雨彦は唇を震わせた。
「あ……」
「ちょ〜っと待った」
何か言いかけた雨彦を遮って、不機嫌な声が響いた。
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