第7話 球拾いの天才⑹






「野球部?」

「そう! さっきのスーパーキャッチを見て、キミなら守備で活躍できると思って」


 人数の足りない野球部に、すでにバレー部に所属している人間を勧誘しに来たという。凄い度胸だな、と雨彦は呆れつつ感心した。


「悪いけど、僕は一応バレー部だから」

「ほらな野分、無理だって言っただろ」


 雨彦が断ると、野分の後ろに立つ晴が顔をしかめて言った。


「う……だって、さっきのスーパーキャッチすごかったんだもん! 忘れられないの! 一目惚れしちゃった!」


 野分が両の手を握りしめて訴えると、晴は何故か壮絶に嫌そうな顔をした。そして、何故か雨彦を睨んでくる。


「ありがたいけど、僕はこの身長だし、本格的にスポーツをやるつもりはないんだ」


 一目惚れしたとまで言ってくれる相手には悪いが、期待に応えられそうにないと思いながら雨彦は答えた。


「小柄でも野球は出来るよ! もちろん無理にとは言わないよ。すでにバレー部に入っているんだし。でも、一応声かけておこうと思って……て」


 熱心に言い募りながら、野分は途中でぱちくりと目を瞬いた。


「本格的にスポーツをする気はないって、バレーはやるんでしょ?」

「いや、バレー部には入ったけど、僕の仕事は球拾いと雑用と、あと……」


「誰だてめぇらっ!! 雨彦を狙うストーカーか!? そうか! そうなんだな!!」


「うわあっ」


 突如として、雨彦の背後から飛びついてきて小柄な弟を腕の中に庇った霜枝 晴彦に、野分と晴は呆気にとられた。


「ストーカーが二人も……っ、やはりこの学校は危険だっ! 雨、逃げるぞ!!」

「どこにだよっ!?」

「ストーカーのいないところだっ!! 奴ら一匹見かけたら三十匹はいるからなっ!!」


 霜枝に引きずられて抵抗する雨彦だが、体格差があるため逃げ出すことが出来ない。


「キャプテン! 霜枝先輩の発作です!!」


 外の様子に気付いたバレー部員が大声で呼ばわる。

 すぐさま駆けつけてきたレギュラー陣が三人がかりで霜枝を雨彦から引き剥がした。


「離せてめえら!! 俺は! 兄として! 雨の生命身体及び自由を守る義務があるんだよ!!」

「おめぇが一番雨彦の自由を侵害してんだよっ!!」

「間違った過保護もいい加減にしろっ!!」

「今のうちに逃げろ雨彦っ!!」


 先輩達に指示された雨彦は、後も見ずに走り出した。呆気にとられていた野分と晴も彼の後を追って、阿鼻叫喚の現場から逃げ出した。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る