第7話 球拾いの天才⑸






 天木田高校男子バレー部は強豪であり、県予選では常にベスト4に残っている。今年は二年生の霜枝 晴彦を中心に、春高出場を目指して練習に励んでいた。


 霜枝の強烈なサーブがリベロの腕を弾いて体育館の壁にぶち当たる。


「すごいよな、先輩は」


 レギュラー陣の練習を眺めている一年生達は、その圧倒的な実力に羨望の溜め息を吐いた。


「それに比べて……」


 一年生達は球拾いに駆り出されている同級生の一人を見やって、憐れみを浮かべた。


「あいつって本当に弟なの? 入部してから球拾いしかしていないじゃん」


 視線の先では、霜枝 晴彦の弟、霜枝しもえ 雨彦あめひこがレギュラーが打った球を真剣な顔で拾っている。


「まあ、あの身長じゃなあ」

「いくらリベロでもな」


 ウイングスパイカーの兄とは違って雨彦のポジションはリベロだが、守備専門といっても、身長156cmは男子バレーの世界では不利すぎる。


「あいつ、中学の時もずっと率先して球拾いと雑用してたよ。ほとんどマネージャーみたいだった」


 同じ中学出身の部員が言う。


「兄貴が入ってるから一緒に入っただけで、バレーやりたい訳じゃないらしい」

「へえー」

「じゃあ自主練とか誘っても嫌がられるかな」

「バレー部にいたら兄貴と比べられるだろうに、嫌じゃねえのかな」


 他の一年生達が囁き合う声を聞きながら、雨彦は声に出さずに答えた。


(別に嫌じゃないよ。球拾いも嫌いじゃないし)


 レギュラーの三年生が打ったスパイクがワンバウンドして飛び込んでくる。雨彦はそれをなんなく受け止めた。


(どこに行くかわからないボールの動きを予測して動く。これだけでも結構な運動になる)


 受け止めたボールを投げて、別のボールを追う。受け止めるのと、投げたボールが籠に綺麗に収まったのは同時だった。


 子供の頃から、バレーをする兄にくっついていたが、雨彦はさほどバレーに興味が持てなかった。兄が生き生きと練習するのを眺めながら、なんとなく球を追いかけているうちに、球拾いだけ上達してしまった。


 兄は球拾いに熱中する弟を心配して練習に混ぜようとするが、雨彦はこのまま球拾い役で満足だった。


(いっそ、マネージャーになればいいのか。でも、兄貴が駄目だって言いそうだし……)


 休憩に入ったので、体育館の外に出てほっと息を吐きながらそんなことを考えていた。


 そこへ、


「あ、いたいた。霜枝、雨彦くん?」


 自分を探していたらしい一年生が二人、駆け寄ってきて、雨彦は顔を上げた。





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