第6話 参戦!⑷
「なんだ。だったら辞める必要ないじゃん。堂々としてりゃいいんだよ」
雲居は笑顔でそう言った。
「でも、その他が全然ダメだし……」
ルールが覚えられたないだけでなく、捕球もヘタクソで雷に怒られてばかりいる。
雷みたいに初心者なのになんでも出来る存在が傍にいるので、日和は余計に自身が情けなくなるのだ。
薄暗くぼやく日和に、雲居は呆れた声を出した。
「あー、もう! ダメとかアホとかじゃなくて、お前の気持ちはどうなんだよ。野球、やりたいのか? やりたくないのか?」
そう尋ねられて、日和は目を丸くした。野球部に入部してからこれまで、野分には苦労をかけてばかり、晴には呆れられてばかり、雷には叱られてばかりだ。
でも、辞めたいとは思わなかった。辞めた方がみんなのためじゃないかとは思っても、辛いから辞めたいとは思わなかったのだ。
「オレは……ノキ達と一緒なら、楽しいと思う」
日和は正直な気持ちを口にした。
「だったら辞めんなよ。心配しなくても、ルールなんて頭では覚えられなくても体が覚えてくれるって。自分の頭が信じられなくても、体は信じられるだろ」
雲居が太鼓判を押す。日和はじっと雪をみつめた。
「僕だって最初はルールなんかわからなかったけど、漫画を読んでいるうちに覚えられたしな」
雲居がそう言ってふりがなを振り終えた時、窓の外から野分の声が聞こえてきた。
「あれ? 霧原くん?」
姿の見えない日和を探しているようだ。日和は窓を開けて野分を呼んだ。
「ノキ、こっち」
「あ、霧原くん。そんなとこで何してんの?」
野分と晴、それにグラウンドから戻ってきた雷も日和が教室にいるのを見て首を傾げる。
「あれ? そっちの人は誰?」
注目を浴びて、部外者の雲居は焦った。
「いや、僕は……」
「……にゅ、入部希望者」
なんでもない、と言おうとした雲居を遮って、日和が目を逸らしながらもはっきりした口調でそう言った。
「えぇぇぇぇっ!?」
日和のいきなりの発言に、身に覚えのない雲居は心底驚いて振り向く。
冗談ではない。入部したいなどと一言も言っていない。
そう言おうとしたのだが、日和に制服の裾をぎゅっと掴まれ、子犬のような目で見上げられて、雲居は「うっ」と呻いた。「きゅ〜ん」と効果音が聞こえてきそうな日和の瞳に、雲居は自分の失敗を悟った。
(な、なつかれた……)
雲居は野球漫画が大好きだ。野球のルールもしっかり頭に入っている。
だが、実際に野球をやるなど考えたこともない。運動するのは好きじゃないし、体育は唯一の苦手科目だ。
しかし、期待と不安でいっぱいの瞳で自分を見上げる日和を見ると、拒否の言葉が口から出てこなくなる。
瞬時に日和になつかれたことからみても、雲居はかなりのお人好しで優しい性格だった。
故に、日和の台詞を否定することがどうしても出来なかった。
「く、
こうして、野球部は日和の強引な勧誘により、巻き込まれタイプの五人目のメンバーを得たのである。
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