第5話 ロマンスは突然に⑶
「あっ、あの、それじゃあこれで」
なにやらあたふたと野分の手を振りほどいてぱっと身を翻した他校生が、校門の方へ向かって駆けていく。
野分は慌ててその背中に声を掛けた。
「待って。キミの名前は? どこの学校なの?」
野分の声に応えて振り返り、他校生は笑顔でこう言った。
「この近くの花澤学園! 名前は
手を振りながら駆け去っていく姿に、野分も大きく手を振って見送った。
「うん! また来てね!」
まるで青春ロードムービーのような爽やかなシーンだったが、野分の後ろで雷がこきりと首を傾げた。
「……花澤って……」
「野分くん! 今日は差し入れ持ってきたんだ!」
明るい声と共に目の前に差し出されるかわいらしいハンカチ包み。中にはこれまたかわいらしいクマの形のココアクッキーがぎっしり詰まっている。
「あ、ありがとう」
ある種の迫力に押されて後ずさりしながら礼を言う野分を、菜種 桜はとろんとした目で熱っぽくみつめる。
桜は昨日とは異なり、制服姿だ。ブレザーにチェックのスカート。近隣の女子校、花澤学園のものである。
「お前、女子校の生徒が男子校に入ってくんなよ!」
草むしりに精を出していた雷が怒鳴る。
昨日桜に言われた通り、部に昇格する前ではあるが担任に相談してみたところ、すぐに市に掛け合ってくれた。
結果、荒れ果てた元市営球場を自分達で整備するなら自由にしていいと色よい返答を貰うことが出来た。
そのため、今日は放課後まっすぐ元市営球場にやってきて、すっかり草ぼうぼうの空き地となり果てた球場の想像以上の惨状に、とりあえず草むしりから始めようということになった。
そうして四人で黙々と草をむしっているところに、桜が登場したのだ。
「うるさい! だから、昨日はちゃんと男装してたでしょ!」
雷に向かって怒鳴り返す桜。
晴は草をむしる手を止めて桜と野分の様子を見やった。
野分は今一つよくわかっていないように愛想笑いを浮かべているが、桜は完全に乙女モード全開で野分に迫っている。
(ややこしいことに……)
いろんな意味で前途多難な自分達の状況に、晴は目頭を押さえて深い溜め息を吐いた。
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