第10話 恐怖の瞬間
「全く、バカ鮎夢のせいで遅刻じゃんかっ!」
「仕方ないやろ!?遅かったんやから」
あれは数時間前に遡る。
昨夜、用事で帰りが遅くなった鮎夢に気付いた私は目を覚ます。
ハッキリとした事は分からないけど、もしも、本当に芸能人の ayumu なら撮影で時間推して帰りが遅くなるのは納得出来なくはない時間に帰宅してきた。
夜中に目を覚まし二度寝したのが、既に起きる数時間前。
鮎夢も変わらない時間帯に寝たとなると、条件が同じであり、目覚ましかけていたものの私はそのまま寝ていたと思われる。
鮎夢は目覚まし止めて寝たと話していた。
お互い、どちらかが起こすだろうという甘い考えだったのかもしれない。
学校にギリギリ到着したものの、下駄箱の所で
「あーーーっ!」と、鮎夢は大声を出した。
ビクーッ
「な、何なのさ!いきなりっ!大声出すなっつーの!バカ鮎夢!」
「……眼鏡……忘れてもうた……」
「眼鏡!?良いじゃん!」
「良くないわっ!アホっ!俺の容姿見たら大騒動やないかっ!」
「あー、ayumu のそっくりさん。じゃあ取りに帰るか休む方向で帰れば?」
「出来るかっ!もうええ……仕方ないわ……どうせ辞める身分になるのも時間の問題やしな」
「えっ?鮎夢マジで言ってるの?」
「せや。覚悟してるわ!」
「駄目だよ!一緒に卒業……」
頭をポンとする鮎夢。
「学校は別になっても、離れ離れになっても家で会えるからええやん!ほら、行くで!」
その時だ。
「ほら、チャイムはとっくに鳴ったぞ」
グイッと私の手を掴む鮎夢。
ドキン
「すみませーん」
鮎夢は、そう言うとそのまま走り去る。
この手が繋がれたまま
離れ離れに
ならなきゃいいのに………
だけど………
この手が繋がる事はなかった
眼鏡を外して登校して一気に鮎夢は人気者になったからだ。
結局、眼鏡をかけるのも辞めた。
「鮎夢、良かったね?」
ある日の夕飯時、私は鮎夢に言った。
「何がやねん?」
「モテモテ君になれて、さぞかしご気分良いでしょう?」
「いや、良いとか悪いとか、そんな事は考えた事あらへん」
「ふーん」
「急に何やねん!あ~、そういう事かぁ~」
「何?」
「妬いてるんやろ?」
「妬く?妬く理由が分からないんだけど?」
「隠さんでもええやん!素直やないねんなぁ~」
「うるさいっ!」
「ほら二人共、早く済ませてー」
ママが言った。
私達は食事を済ませ各部屋に移動した。
数日後。
「あっ!魅羽、ちょうど良かったわ」
「何?帰って早々」
「今から急用でママ出掛けてくるから。後でパパとも合流するから留守番宜しくね」
「留守番?ちょっと待ってよ!もしかして私一人留守番?鮎夢も用事があるとか言って別々に帰って来たんだけど?」
「鮎夢君?あー、そう言えば連絡さっきあったばかりだったわ。とにかく宜しくね」
そう言うと母親は慌てて出て行った。
「一人なんて…」
私は早目にお風呂など済ませ自分の部屋にいた。
そして、偶々用事でリビングの近くまで行くと物音がしていた。
「鮎夢、何してんの?電気付けなよ」
話をしながら、パチッと、リビングの電気を付けた。
ビクッ
「えっ!?」
そこには目出し帽を被った人影が2つあり、拳銃の銃口を私に向けられていた。
「金目の物を出せ!」
「えっ!?」
「ほらっ!早くしろっ!」
「死にたくねーなら出せ!」
私は恐怖で動けないでいた。
その時だ。
「ただいまー」
鮎夢が帰宅してきた。
「誰だ!?」と、犯人。
「……同居人……」
「魅羽、何してんねん」
「鮎夢…来たら駄目!警察に連絡してっ!」
「警察?」
「泥棒なのっ!」
ズキューン
発砲された。
ビクッ
「黙れ女っ!殺すぞ!」
「…………………」
その直後だ。
グイッと私の腕を掴み抱きしめるようにされると、廊下に倒れ込む。
「警察には連絡済みやから、この部屋で大人しくしときぃ」
「えっ?鮎……」
「野郎っ!」
ドカッ
カラーン
拳銃が床に転がる。
「テメェー」
ドカッ
「済まんなぁ。事情あって体鍛えてんねん。そのうち警察(さつ)も来るさかい」
その後、二人は警察に連れて行かれた。
「大丈夫やったか?」
「うん……鮎夢も怪我して……」
グイッと抱き寄せる。
ドキン
「俺の事はエエから。お前に何かあったらアカンやろ?」
「私は大丈夫だから。鮎夢が芸能人だったら何かあったら駄目じゃん!怪我したら尚更」
抱きしめられた体を離す
「お前は女の子や!ともかく無事なら良かった」
頭をポンとした。
ドキッ
「部屋に行きぃ」
「う、うん……」
ある日の夜。
真夜中の時間の事だった。
カチャ
「鮎夢……まだ起きてたの?」
「起きてたで」
「あ…曲作りしてたんだね。じゃあ邪魔したらいけないから部屋に…」
「魅羽」
「何?」
「これ見てみぃ」
「えっ?」
楽譜を見せる鮎夢。
「えっ?これ……ayumu?」
「せや」
「…俺の…もうひとつの顔や」
ドキン
「えっ!?」
「優城 鮎夢は…ayumu やねん。いずれ言うつもりやったから」
「何となくそんな気はしていたけど確信がなかったから…じゃあ…鮎夢は ayumu だったんだね。普通なら飛び上がって喜ぶ所だけど……冷静でいる自分が不思議なんだけど…」
クスクス笑う鮎夢。
「お前ん中で、優城 鮎夢も ayumu も受け入れていたからちゃうか?」
「えっ?」
「同一人物やったちゅう事が救いやったんちゃう?」
「そうなのかな?」
「そうやと思うで。俺の事は秘密やで」
「当たり前じゃん!鮎夢が大変だよ」
「お前もな」
「私は平気だから…」
「そっか」
「部屋行くね」
「ああ」
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