百合の花 ー15ー
A(依已)
第1話
数十分後、それらしき場所に到着した。おじさんは"僕はこっちに行くから、じゃあ"という仕草をしたので
「シェシェ、シェシェ、シェシェ」
と、わたしはバカのひとつ覚えの中国語で、心を込めてしつこく礼をいい、その場で別れた。
数十歩前に進むと、そこには壮大な雲海が広がっていた。普段の生活とはうって変わりすぎていて、現実味がなさすぎるにもほどがあるその景色に、もしやこれはよく出来たCG画像ではなかろうかと、疑ったくらいである。しかし、そんなはずあるわけもない。
雲の上を、歩いて行けそうな気がした。山々と雲は、嘘みたいにどこまでも際限なく続いている。天国に、つながっているような気さえした。そのふかふかの雲の上にダイブして、飛び乗ってみたい衝動に、どうしようもなく駆られた。
わたしの頭の中に、胡弓の美しく優しい旋律がこだました。
「あきらめずに、来てよかった」
嬉しさのあまり思わず、心の底からそう独り言を呟いた。
百合の花 ー15ー A(依已) @yuka-aei
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