災華の縁 ~龍が人に恋をしたとき~

多部栄次(エージ)

すべてが終わった後に

 愛しき人に。






 風が穏やかに靡き、草葉がサァッ、と音を奏でる。何処までも澄み渡る雲一つない蒼い空。不純なものなど一切なく、ただあるのは青空と草原。世界は上下に青と緑に分かれている。


 その鮮やかな緑一色の丘の先には切り立った崖があった。その崖からの眺めはまるで幻想郷。この世のものとは思えぬ美しい湖や日の光を照らす清輝の森、そしてひとつの巨大な街――誰もいない国の残骸がみられた。


 崖の上には一本の大きな樹と、手作りと思わせるひとつの歪な墓があり、その墓には一輪の可憐な華が添えられている。


 その樹の根元にひとりの男が休むかのように座り、背もたれながら崩壊した街を見つめている。その男はその街の何を見、何を思っているのか。その目は、喜びとも悲しみとも喩えられない。だがその瞳の一筋からは何かの決意が現れていた。


 青年の髪が靡く。


 その右手には、一通の古ぼけた手紙が握られていた。




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