ローズの過去
領主のもとへと案内された、ミツハル、スズ、そしてロゼと名乗っていたローズ。
大広間へと騎士、ローズ、騎士、ミツハルとスズ、騎士で入っていく。
ベール侯爵、と呼ばれる男は仙人と呼ばれそうな、髭の長さに白い髪が特徴の中年だった。
そのベール侯爵は大広間の一番高い、まるで玉座のように高い位置の椅子に座っていた。
そのベール侯爵の前にローズが一番前に膝を降ろし、続けてミツハル、スズと膝を降ろした。
この時、騎士たちが壁に立って、扉の前に狐の亜人の騎士が立っていた。
ベール侯爵が口を開ける。
「久しいな。カーマイン子爵の娘よ」
「お久しぶりです。侯爵」
ローズが答える。
「おぬしは死んだと聞いていたが、逃げ延びたからか?」
「それは……」
ローズは少し黙ると、話し始めた。
「逃げ延びてはいません」
「なら何故、目の前にいるおぬしは生きているのは、何だというのだ?」
「私は……」
そう言ってチョーカーを外し始めた。
「殺されたのです。ある集団に」
そう言いながら、チョーカーを外す。
チョーカーを外すと首に傷痕がついていた。その傷跡は、まるで。
「私は一度、首を刎ねられたのです」
そして彼女は当時のことを話し始めるのである。
私が襲われる前の、昼にはカーマイン領には、何も異常がなかった。
異常がない、というのは何も館には、そんな知らせもなかったから。
私は、カーマイン子爵の娘としてはいい加減、結婚も考えさせられる十六の年だった。
だけど、そんなことを気にせずに館を抜け出しては街に出かけるのが日課だった。
館から使用人たちが私を連れだすまでは、街に出歩いて、楽しんでいた。
街は、いつも通り賑やかな商通りで、繁盛というには、言い過ぎかもしれないけど、平和であることには変わりなかった。
私はそこで、料亭の料理の味見をしたり、果物なんかを分けてくれたり、たまに来る闇市では、珍しいものを見せてくれたりしていた。
しかしその日の私は、ある目的で鍛冶屋に行った。
それはある使用人へのプレゼントを考えていたから。
私は、その日も使用人にばれて連れ戻されたけど、無事に目的を果たせたから良かった。
その使用人は、リームというメイドだった。
リームは、いつも庭で木や花を手入れしていた。
その庭は、この館にとって数少ない装飾の一部であるほど自慢の出来だった。
それを作った彼女にお礼をしたかった。
だから、彼女へ鍛冶屋に作ってもらったハサミをプレゼントしたくて、庭へ駆け込んだ。
そして庭にいる彼女に話しかけた。
「何か御用ですか、お嬢様?」
「そんな呼び方しないで。今、誰もいないよ」
彼女とは、二歳の年が離れていて、他の使用人とは特別な関係を持っていた。
だから、他の使用人とかがいないのを確認すると、彼女は説教するように言った。
「また、館から抜け出して。あなたはここの領主の娘なのよ」
「分かっているって。だから、街に行ってここについて知る必要があるのよ」
「何を得意げに言っているのよ。もうそろそろあなたも結婚を考えなきゃいけない年なのよ」
「そんなことはいいから、これ!」
説教を避けるため、彼女にはさみをプレゼントした。
「まさか、私にこれを渡すために?」
「そうよ。いつも庭の手入れしているとき楽しそうだったから。こっちの方が喜ぶかなって」
「ロゼ。ありがとう」
私は一人娘だった。姉が欲しかった私は年が近い彼女と特別に仲良くなっていた。
いつしか、そのときの私の呼び名はロゼになっていた。そう呼ばれるのが嬉しかった。
ローズという子爵の娘として扱われずに心から接してくれたから。
リームには、何かしら恩返ししたかった。
彼女は喜んで受け取ってくれた。だけど。
「このはさみは嬉しいけど、ここの領主の娘だと自覚してほしいの」
「えー」
私はがっかりした。プレゼントした後なら説教を避けられると思ったから。
むかついた私はリームに言い返した。
「そういうリームの方がもういい年頃じゃない。いつまでもここにいたら結婚できずにおばさんになっちゃうよ」
「あなたにそんなこと心配されるほどじゃないわよ。私はここの使用人なのよ。ここの跡継ぎのあなたがちゃんと自覚しないと……」
リームが突然、言葉を遮った。
私は庭の入口の方へ顔を向けた。そこには、予想通り人がいた。
その人は私と同じ髪の色をした母様が私たちに近づいてきた。
母様もそうだが、私の両親は他の領主みたいに着飾ったりはしない。着飾るのは、他の貴族と会う時ぐらいだろう。
「そうよ、リームの言う通りもうあなたもここの領主の跡取りとして自覚してもらわないと」
母様がリームの説教を繋げるように言ってくる。
「そうでもしないと、リームも結婚できないじゃない」
「奥様、そんなことは……」
リームが赤くなって母様を止める。
どういうことかわからない私に、母は教える。
「実は、モテているのよ。街に出れば噂に出るほどにね」
「え⁉ そのような話、初めて聞きました!」
私はこの時初めて聞いた。リームは確かにきれいな顔だし、上品さもある。だけど、そこまでの評判になっていたとは。
「そりゃ街に出ればそれくらいわかるわよ」
「⁉」
「そういうことだから、あなたが街に出て知った気になっているつもりでも、それはまだ一部なのよ」
「……」
「だから、ちゃんとここの領について知るためにも、ちゃんとお父様から学びなさい」
「はい」
母様の後ろから父様が近づいてくる。
「あとは旦那様、よろしくお願いします」
「来い、ローズ」
「はい、父様」
それからは父様からいつも通り、貴族としての勉強を陽が落ちるまで行われた。
夜が更けた頃、私が眠ろうとした時だった。
館の扉を乱暴に開ける音が聞こえた。
お父様の声が聞こえる。
「応戦するぞ!」
その言葉を聞いた時、ここで何が起こってしまうのか想像できてしまった。
その時、リームが私の部屋に駆け込んだ。
「ロゼ、逃げましょう!」
「一体何が起きてるの⁉」
「何者かが、集団で襲ってきたの!」
「母様と父様は?」
「ご主人様に言われたの! あなただけでも連れ出せって!」
「……そんな! いや!」
「いいから行くの!」
リームはそう言って私の手を引っ張って部屋から出た。
部屋から出てまず窓の外を見た。綺麗な花がそろえてある庭が燃え広がっていた。
遠くを見ると、街には炎と煙が立ち上っていた。
それだけではない。使用人と騎士が血を流して倒れていたのを見た。
私はこれまでの状況を把握した。
「リーム、みんなが――」
「ロゼ、あなただけでも生かしていかなきゃ!」
「でも!」
「それが私の、使用人の務めだから!」
館の中を走り回って、外へ出るとある場所に着いた。
そこは馬小屋だ。馬たちは興奮してはいたが、生きていた。
リームは馬を落ち着かせると、私を乗せた。
「ロゼ、馬の扱いは良いよね?」
「本当に私たちで逃げるの⁉ 他の皆は⁉」
「いい⁉ ロゼ! 私が倒れても行きなさい!」
すると、襲撃者の一人が私たちを見つけた。
「いたぜ! 例の小娘が!」
「ごめんね、ロゼ。プレゼント嬉しかったわ」
「リーム!」
「死んでもらうぜ!」
リームは私を乗せた馬を走らせると、その襲撃者へ駆けた。
私は、手綱を握りながらリームへ振り向くと、襲撃者と刺し違えていた。
彼女は私がプレゼントしたはさみで襲撃者を刺していたのだ。
私は、彼女のもとへ駆けよりたかった。だけど、乗った馬はスピードを上げてリームのいる馬小屋から離れて行った。
彼女の死を目の当たりにして涙が止まらなかった。止められなかった。それでも。
私は、彼女と最期に交わした約束を果たそうと出口へ向けて馬を走らせた。
だが、突然銃声と共に馬から降ろされた。馬が前のめりに倒れて、私は前へと吹っ飛んで倒れていた。 おそらく、馬の前足を銃で撃ったからだろう。
私は起き上がると、最悪の光景が目に映った。
父様は串刺しにされて磔にされて、母様は腹部を切断されて転がっているのを見てしまった。
私は、この時何とか保った理性を無くした。逃げることなんて考えられなかった。
そんな中、私に近づいてくる中年の男が来た。
その中年は手入れが施していない髪を肩まで伸びていて、顎全体に鬚を生やしていた。
その中年の恰好は、盗賊や犯罪者にしては装備が整っていた。
その中年の男が近づいてくると、私は倒れたまま必死に男から離れようとした。
「い、いや。死ぬのは――」
「安心しな。嬢ちゃん」
その中年は私の後ろ髪を掴み、剣を構えた。
「痛いのは一瞬だ」
その瞬間、剣は私の首を薙ぎ払った。
「――以上が襲撃の時に起きた出来事です」
話を終えたローズに、侯爵が問い詰める。
「だとしたら、おぬしはどうして今、生きている?」
「それはある男によって私の身体を蘇生、その実験体にされたからです」
「それは誰だ⁉」
「それは――」
ローズは話を再開した。
私があの後、意識を取り戻したのは、何かの台の上で一糸も纏っていない状態だった。
頭がぼんやりしてすぐに理解できなかったが、そこを例えるなら、そこは手術台か、実験台のような場所だった。
そこで目を覚ました私は、起き上がろうとも、ここから出ようともせず、恥じらいの意思さえ湧かなかった。
意識を持っていても動けずにいる私を寄ってくる爺さんが来た。
爺さんは、太り気味で学者のような装いだった。他に特徴があるとすれば、右腕が義手になっていることと、片眼鏡をかけていることだった。
意思を持っていたら、まず私がここはどこだ、何故ここにいるか、訊いていただろう。
でも、私は黙って爺さんを見るだけだった。
「やっと目覚めたか、ゼロ号」
ゼロ号。それは彼が私に対する呼び方だった。
まるで機械じゃない。その時はそう思った。しかし否定したくても、口は言葉を発することさえ許してくれなかった。
「起きろ、ゼロ号」
その声の通りに私の身体が勝手に起きて立ち上がる。
私はこのとき、死ぬほど恥ずかしかった。なにせ、訳も分からない老人相手に裸を見られているから。
そんな私の心を読んだのか、爺さんが言ってきた。
「そんなに恥じることはない。儂はそういう趣向を楽しむためにお前を造ったわけではない」
この時に私は思い出した。リームの、私の両親の最期を。そして、自分の首を斬られたことを。
その私が今、生きていることが不思議で仕方がなかった。
私を造った、と言っていた爺さんが金貨三枚を空中に放る。
「金貨を撃ち抜け」
爺さんの命令に私の身体が動き出す。
気づくと右手に炎を集中させて、炎から拳銃を生成した。
拳銃を生成すると、空中の金貨に向けて発砲した。
銃口から放たれた炎の弾が、金貨を溶かしながら、爆散した。
感情を表せなかったが、自分の手でやったことに驚愕した。
「やった! 成功した!」
爺さんは結果に満足のようだった。意思のあった私は自分の行為に驚いていた。
「いいぞ、いいぞ! この調子なら本段階までいいのが量産できるぞ!」
量産? どういうことなのか、博士の後ろを見てぞっとした。
私と同じ年頃の少女たちが人形のように積み上がっていた。
積み上げられた少女たちには生を感じなかった。私と同じように殺してから運び込まれた死体なのだろう。
私は意思だけで留まっていたが、感情があったなら悲鳴を上げていたに違いない。
そんな私の意思を無下に爺さんは私を無機質な機械の腕で私を撫でた。
「お前はこのドクター・バルクトが産み出した、【キメラノイド】じゃ! これからお前は儂のために行動してもらうぞ!」
私は自分の意思に反して口にした。
「了解です。ドクター・バルクト」
博士の施設の訓練室で戦闘訓練をしていく中、新しい少女が、同じキメラノイドが現れた。
その少女たちはかつて私が目覚めたときに積まれていた死体たちだった。
私はその生産に関わっていなかったが、訓練室に次々とキメラノイドが入ってきた。
訓練部屋に現れた彼女たちとも模擬戦を繰り返しただけだった。
その中でも、氷を扱う二人組、【グラキエス】には、勝ったことがなかった。
グラキエスの戦法は、短髪の娘が敵に接近戦を仕掛け、長髪の娘が遠距離で援護するといったものだった。
二人で一つのキメラノイド、彼女たちは、博士からも最高の評価を受けていた。
他の部屋にもキメラノイドがいたが、私のいた訓練室で目立っていたのはグラキエスだった。
戦闘訓練を繰り返していたある時、私はドクターと話す男の声が聞こえた。
「まだ使い物にならないのか、もう散々やったおかげで、手配書に載ってしまったんだぞ」
その声に私は反応した。聞き覚えのある声だ。
「ドクター。いい加減に何人かこっちに寄越してくれよ」
「おぬしに渡すためにも、力を使いこなせなきゃいけない。だから、かかってしまうんだよ」
私は気になって、その話を立ち聞きしていた。
その時から私は自分の意思で動くことができた。
「ふざけんな! このままじゃてめえの言いなりで捕まってしまうんだよ!」
「うるさいの! 儂だってまだまだ足りない! 確実に成功したいのじゃ!」
男とドクターが喧嘩の時、次の発言が私の頭を支配した。
「だったら、俺が最初に持ってきた赤髪の女を寄越せ! 首を刎ねた奴だ!」
ドクターと話している男が私を殺した犯人そのものだった。
復讐心が湧き上がった。しかし、湧き上がった頃には、男は怒って帰っていった。
名前までは聞き出せなかったが、あの男がここと繋がっていることが分かった。
次に会うその時まで私は、これまで以上に戦闘技術を磨いてきた。
ある時、博士は私を呼び出した。
呼び出した理由は、あの男へ私を差し出すためだった。
差し出された私は、奴に付き従うふりをしていた。
こんな奴に頭を下げるのはとても反吐が出そうになった。
だが、私は上手く奴に気に入られている。
そのまま、私を連れて博士のもとから離れた。
そして、私は奴の後ろを取った。
その瞬間、私は拳銃の引き金を引いた。
「なにすんだ! 小娘が!」
私が放った炎の銃弾を剣でかき消した。
「あのジジイ! 時間をかけておいてこんな欠陥品を寄越しやがって!」
「黙れ! 父様たちの仇を討たせてもらうわ!」
「じゃあもういっぺん首をちょん斬ってやるよ!」
奴と堂々と戦う羽目になったが、奴に攻撃が通らなかった。
その時、研究所からグラキエスの二人がやってきた。
奴一人にこれだけ苦戦しているのに、分の悪いあの二人が加われば。
「くそっ!」
悔しさを吐き捨てながら、拳銃を撃ち続けて空へ飛んだ。
悔しいが、ここは退かなきゃ博士に何されるかわからない。
空へ飛んで一気にその場から離れた。
そんな私に向かって氷の矢が次々と放たれていく。
狙いをつけられないように、木などを盾にしながら離れていくので精一杯だった。
そこから、私は研究所にも戻らず、あの男から、ドクターが差し向けたグラキエスから逃げ続けていた。
「そんな、バルクトだと⁉ あいつの研究は続いていたのか!」
ベール侯爵がショックを受けている最中、俺はスズにこっそり訊く。
「バルクトって?」
「バルクトっていうのは、魔法学院のもと学院長っす。けど学院長の席を若者に譲ったって公には……」
侯爵が整理をできたのか、落ち着いてきた。
「おぬしの話はよくわかった」
侯爵が騎士に命じる。
「その娘を捕らえろ! この娘には他に訊かねばならぬことがある!」
「待ってください! 私は……」
壁に立っていた騎士たちはローズを取り押さえに行った。
ローズもタダで捕まるわけにはいかない。そう思って炎の障壁を張っていく。
「無駄に足掻くな!」
ベール侯爵が水の魔法で炎の障壁ごと彼女を濡らす。
ローズは濡れた身体を乾かすように炎を自身の身体に纏わせる。
炎は自身全体に燃え上がり、弾丸を放った。その弾丸が騎士たちの武器を狙い撃った。
気づけば大広間の所々を燃やしていた。
ちなみに、所々というのは、物だけでなく、人もそれにあたる。
「熱い熱い熱い、誰か助けて!」
そう、スズの翼の一片も巻き添えはそれにあたるのだ。
彼女は燃えた翼を、床を転がって消火した。
ローズは大広間から逃げるため、入口を向かったが、狐の騎士がそれを阻止する。
狐の騎士は彼女に向かって氷の風を放った。
風は所々で氷のつぶてがあるため、ローズの身体を所々当てていた。
彼女が倒れたところで狐の騎士は捕らえようと鎖の魔法を構えた。
「観念してください!」
狐の騎士が言ったその時、鎖の魔法を斬撃で打ち消された。
その斬撃はミツハルの刀によるものだった。
「なんで?」
「悪い、俺もこいつに訊きたいことがあるから!」
そう言いながら、狐の騎士の腹を殴った。狐の騎士は気を失って倒れた。
ミツハルが言っているのも、嘘ではない。
それを見ていたスズ、騎士たち、そしてベール侯爵は驚愕した。
「白銀光晴! 儂の邪魔をする気か!」
「そう呼ばれるのは久しぶりだ! 侯爵殿!」
「大戦を経験したおぬしは、また戦いを求めているのか!」
大戦の参加者、それを知った
「まさか。俺はそうしたくねえから、辞めたのさ。それに……」
背後にいるローズを見て、続ける。
「こいつを殺した、という奴に心当たりがある」
「えっ……⁉」
「それはどういうことだ?」
その言葉にローズは驚き、侯爵が訊き返す。が、ミツハルは答えない。
「たしか、そこらの小物の悪党しか一般には知られないんだよな? スズ」
突如振られた話に彼女は驚きながらも答える。
「そ、そうっす。でも今なんで?」
彼女が驚くのもわかる。今、騎士に囲まれた状況で、ましてや侯爵を敵に回して訊くことではないだろう。このミツハルは異常だと誰もが考えた。
「今ここにいる騎士団や、侯爵なら知ってる可能性があるだろう?」
ミツハルは刀を地に向けて叫ぶ。
「訊きたいことはたった一つだ」
侯爵が息をのむ。ミツハルは苦虫を噛み潰しながら言った。
「ダジア・シンシエ、この男について知っていることはないか」
侯爵は唖然としながらも訊き返す。
「それは貴様の方が知っているのではないか? ダジアの部下だろう、貴様は!」
「もう俺は奴の部下じゃない。だが、今奴が何をしているかなんて大体見当はついてきた」
彼女は呆気にとられたまま彼を見つめている。。彼はただ侯爵に向き合ったままでいた。
彼女をそのままに、侯爵が訊いてくる。
「確かに、その男は数々の襲撃事件の首謀者であることは間違いない。ただ、そんなことをしてあの男に何のメリットが――」
「あるんだよ。奴にとって戦争を起こし、それをゲームとして遊んでいるんだ」
怒鳴るように侯爵に叫んだ。
「奴は親切そうにしながら、俺のような奴を戦いに誘って、戦争でこき使いやがった! 大戦が終わった後も奴は戦争の準備をしていたんだ! だから俺は、奴から離れたんだ!」
「そんなことが、そんなことが、ありえん⁉」
侯爵が慌てている中、周りを囲んでいた騎士たちもざわついてきた。
たかが少年の嘘、と吐き捨てる者もいれば、最近そういった事件が増えた、と言う者もいた。
ざわめく大広間で、一人訊いてきたものがいた。
「じゃあ、私を、私たちを襲ってきたのは、そいつだっていうの⁉」
ローズだ。彼女がミツハルに食い掛かるように訊いてきた。
彼女の心境は復讐する相手を見つけたときとは違うのはわかる。ただ、彼に憎しみをぶつけてしまいたいと頭を支配していた。
「さっきのお前の話を聞いたとき、お前の復讐の相手が奴に重なっていた。だから確信はある」
ミツハルは信じてほしいと願いながら答えた。
「どちらにしろ、お前たちには捕まってもらわなければならない! 大人しくしろ!」
ミツハルとローズ、二人に向けて大きな魔術を唱え始める侯爵。
侯爵の頭上には水、雷、氷を纏う雲ができていた。
天井ギリギリに浮かんでいる雲をミツハルは止めようにも距離が届かない。
その雲は二人に向かって飛んで行った。
その時、大広間のドアから矢のように鋭い雷が雲を貫いた。
直撃した雲は爆散した。
その直後、穴ができた大広間の戸を開ける少女がいた。
「大広間で何をしているのです⁉ 父上!」
「スイカ⁉ これはな……」
「スイカ?」
ミツハルは、スイカと呼ばれた少女に視線を向けた。
スイカと呼ばれた少女は、背丈は小さく、ローズより幼い顔立ち、ドレス姿と合わせると人形のような愛しささえ感じられる。
そんな彼女をミツハルはじっと見つめていた。
それは決して、彼女に見惚れているわけではない。彼女がある人物に重なっていたのだ。いや――、
「久しぶり、兄上」
生き別れた妹そのものだった。
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