役所にて

 歩き続けてだいぶ経つ。気づけば街道が森は抜けたところ、街までの距離は近くはないが、見える範囲まで辿り着いた。だけど、嬉しいとは思わなかった。


 どうしてこうなるんだ。村の襲撃が終わったと思ったら、今度はよくわからん女の復讐に付き合っている。そう思って呑気にしているロゼを睨むが――


 命の恩人なんだから


 その言葉がよぎってくる。これを無碍にするという手がない自分が腹立たしい。


「もうそろそろ街ね、夜になる前に着くといいけど。ねえ、早く行こうよ」


 そう心配する彼女に提案する。


「お前だけでも、飛んで先に行けば?」


 言い終わるのと同時に蹴り倒されそうになったが、寸前に回避した。


「あなた、私の力を秘密にしているの、知っているでしょ!」


 そう言われても、彼女の力の全部も、タネだってわからないのに。


「じゃあ、我慢して歩け。これ以上は速くなれん」


 とっさに言い返してみたが、効果があったようで、彼女はぶつくさ言いながらも、おとなしくなった。そんな彼女に訊いてみた。


「とりあえず、街に着いたら役所に行けばいいんだな?」


 ご機嫌が斜めっている彼女は答えた。


「そう、そこで金を貰って賞金首や悪党なんかの情報を集めなさい。あたしは外で待ってるわ」


 あれ、そうなると。


「お前は来ないのか」


「あたしは街には入れない」


 役所どころか街にすら入らない。これってパシリにしては面倒なのでは。


「おい、お前が来れば速いだ――」


「命令よ、ミツハル。行きなさい」


 そんな横暴になおも反抗する姿勢を見せる。俺は諦めずに言った。


「お前、スマホを扱えたよな。だったらスマホ持っているよな?」


「悪いけど、スマホは扱えるだけよ。持ってないから」


 彼女がそう言うと、俺はある疑問を彼女にぶつける。


「お前が隠している力、魔法によるものだって言えばごまかせるんじゃないのか?」


 俺がそういうと、呆れるような顔をしながら手を振って答えた。


「確かにそうだけど、銃の弾とかを魔法で作るなんて、魔法学院だって空想の段階よ。それに」


 そう言うと彼女は俺に顔を近づけて言う。


「これ以上、面倒ごと増やしたい?」


 そういうと、にっこりと街の方向へ歩き始めた。


 溜め息交じりに納得した。確かに俺一人で行く以外、選択肢はないようだ。


 すると、街の方から鳥、いや人、でもない、手足が鳥の人型の種族、ハーピィがやってきた。


 ハーピィの大体の者が華奢な身体で、飛ぶための邪魔な部分を省いているため、露出は多い。飛ぶ姿は何度も見たことあるが、美しく惹かれる部分もある。


 そのハーピィが目の前で降りてきた。全体の印象としては、茶色い髪や翼が、鳥で例えるとスズメに近い色合いだった。


「こんちはー。私、スズっつーモノですけど。ミツハル・シロガネという人を探しているっすけど」


 そう軽く自己紹介したスズに対し、


「俺がミツハルですけど」


 そういうと、翼で握手されると、要件を言う。


「そっすかー。実はゴルド一味をぶっ殺したあなた様を連れて来いといわれてるんすよー」


 握手を振りほどき、ひとまず距離を取ってから言う。


「すみません、その件について役所に行かなければならないのですが」


「ダイジョブっすよー。私はこれでも役所のハーピィですので安心してくださいっす」


「でもなー。」


 ロゼに横目を向けると、ニコニコしながら言った。


「いいんじゃない。行ってきたら」


 そういうことなら遠慮なく。


「案内お願いします」


 スズというハーピィ、いやめんどくさいから人でいいか。案内をお願いするか。


「話がまとまったようなので、連れていくっすね」


 そう言うと肩をスズの鳥の足に掴まれた。彼女の言葉が頭をよぎる。


 連れていく? まさか俺を――。


「ちょっとまって、心の準備が――」


「ということで、お一人様ごあーんなーいしまーす!」


 スズは陽気に翼を広げて街に向けて飛んで行った。俺を運んで。


 足が地面から離れたことを確認すると、心とは逆に身体が覚悟を決めたらしく、肩のバッグと刀の入っている刀を離さないように左の肩と腕で落とさないように抑えつけていた。飛んだ跡を見ていると、ロゼがご機嫌よく手を振ってきた。そのままバイバイという意味にならないだろうか。


「お連れさん置いて行っちゃいましたけど、いいんすか」


「いいですよ。ただのじゃじゃ馬ですから」


 飛んでからそんなに経っていないのに、馬車より早いのではないかと考えられるスピードで街に近づいていく。


ロゼとはだいぶ遠のいて街まで近くなったのでこのままずらかろうかなと考えたりはした。


 そう思った瞬間、後ろから熱風がやってきた。それが徐々に迫ってくる。


「「あぶないっ」」


 二人がそろえて言った。スズはより上の空へ飛び、俺は足を上げた。


 そこへ炎を纏った物が飛んで来た。炎にまとわれているのは、銃弾だった。こんな銃弾は初初めて見た。その銃弾は、スズではなく、俺に向けて撃たれたものだった。


「なんすか、あれ⁉ 私、あんな炎初めて見たっすよ!」


 どうやら炎の中の銃弾は見えなかったらしい。それよりも。


「その前に俺が片方でぶら下がっているんですけど⁉」


 慌てて叫んだ。スズが上空に飛ぶとき、彼女の右足から俺の右肩を外れていた。今、左足から離されたら確実に死ぬ高度になっている。


「すいません、今掴み直すんで!」


 スズは空中で左肩を強く掴みながら右肩を掴もうともがいている。左肩、痛いんだけど。


 彼女がもがいている最中、後ろを振り向いてみた。


 ロゼ。やっぱりお前が撃ってきたのか。もはやホラー映画のストーカーじゃないか。


 しかも、飛び立った跡からだいぶ進んでいるというより、追いついている。こいつ、飛びやがったな。あんなこと言っておいて。いや、人前じゃないからいいのか。スズも見てないし。


 ただ一つ心中で言わしてくれ、愚痴ぐらい許してくれ。撃たなくてもいいじゃん。


 それは置いといて。


 いい加減掴んでくれないかな。左肩がだいぶ食い込んでいるんだが。


「ちょっと、動かないでほしいっすよー。上手く掴めなくて落としちゃいますよー」


「だったら降ろせ!もう街に着くだろ、降ろした方がいいって!」


 何気に真下は街の道路だ。スズは何故か降ろさない。


「だって、私は役所で下っ端なんすよ! ここでちゃんと運ばないと出世が!」


「その前に、俺がこの世から出世するわ! 頼むから、降ろして!」


 結局、役所に着くまで意地になっても降ろさないスズと口論していた。片足でぶら下がったままで。




「これがゴルド一味討伐の報奨金です」


 俺は、役所に着くなり、役所の豪華な客室に案内されて、明らかに偉そうな人から大金を渡された。しかし。


「多すぎません、このお金?」


 机の上に金の札、金札が千枚、要するに千万ロンだ。旅をして日銭を稼いでいた俺は、千ロンから二万ロンが普通だった。偉い人の隣に立つスズが小さく呟いた。


「わ、私の給料の約50万倍じゃないすかー」


 スズはまるで神を見るような目で金札千枚を眺めていた。そして俺を翼で掴んで、頬擦りしてきた。


 魔国に来てから、こういうボディタッチのスキンシップは色んな種族で経験してきた。特に女性は多い。こういうのもなんだが、身体が小さめで子ども扱いされることが多いから可愛がられる。これは嬉しくもあり、悲しくもある。しかし、今のこの女は違う。目がお金になっている。そこで俺は、彼女を抑えて言った。


「止めろ、俺の財産目当てだろ」


「いやいや、このまま寿退社しましょうよ」


「お前に渡すか。あんな危ない運び方した女なんか」


「いやいや、あなた様は良い面してるし、文句ないすよ!」


 すると、スズの頭に拳骨が降ってきた。


 スズが力抜けるように、俺を離していった。


 スズに拳骨を降ろした人が、先ほど金札を置いた偉そうな人こと、ミノタウロス。牛の頭でスーツ姿だが、種族特融の筋肉でピチピチになっている。ちなみに、こういうタイプとのスキンシップは遠慮している。以前、背骨が折れかけた経験があるから。


「申し訳ありません、後でよく言っておきますので」


「いえ、助かりました」


 それと同時に、俺は笑顔で机の金札を差し出した。


「お礼です。受け取ってください」


「いえ、それはお客様のですから」


 そう言って笑顔と共に返してきた。


「こんな大金、使う当てもないし、それに、基本宿無しだから何処かに置いとくこともできないから、受け取り切れませんよ」


 そう手を仰げて言う。そう断る俺を筋肉ムキムキの偉い人が提案した。


「それならスマホの情報を元に口座を作りましょうか?」


「口座を?」


 その言葉に俺は頭を傾げる。すると、先ほど殴られたスズが翼を頭から離し、得意げに説明しだした。


「口座を作っておけば、お使いのスマホで現金を使わずにお買い物のときに口座から決済するんす。現金を持たない金持ちとかは利用してるっすよー」


 説明をして小さな胸を張るスズ。


どうせ、今のところ使い道が思いつかないから。


「じゃあ、手続きをお願いします」


 俺はスマホを取り出しながら言った。


「それでは必要な機材をお持ちします。しばらくお待ちください」


 すると偉い人は別の部屋へ行った。この部屋に残っているのは、スマホを片手に待つ俺と、持ち歩けない大金、そして殴られた頭を両翼で擦るスズのみになった。


 スマホを見て思う。この携帯端末一つで身分証明から口座の開設ができるだけでなく、通話機能に、日常生活を補助、ゲームが行えたり、多機能で便利なものだと思っている。魔国に来てからこれを持つだけで、便利に過ごせるようになった。


「すごいっすねー。珍しいっすよー。他国の人がこの国のスマホを持ってるなんて」


 沈黙に耐えられなかったのかスズが口を開いた。


「普通、他国の人が持とうとしたら審査に引っかかって所持を許すことなんてあまりないのに」


「そうだな。俺も、不思議だと思ってるよ。簡単に持つことができたんだ」


「じゃあ、どうして持てるようになってんすか?」


「それは秘密だ」


 そう言ってソファーに背持たれてスズの追及を切った。スズは納得いかない様子で見つめてくるが、これ以上答えることができなかった。


 それに、本当に言えない事情だしな。こればっかりは。


 スマホをいじろうとしたとき、偉い人が大きな機材を持って入った。見た目の筋肉に見合った運び作業だったので、彼に会ってから始めて違和感のない光景だった。


 機材が一通りに運び終えると、偉い人は彼のソファーの対面に座って言った。


「これから、口座の開設の手続きに入ります」


 俺はそれから、スマホの情報を扱った、口座の開設、預金、スマホ決済の登録を行うことになったのであった。




 外から夕陽が差し込んだころ、一通りの手続きを終えた俺は、スズと一緒に客室を出て、多くの一般人や受付で賑わうロビーに案内された。


「お疲れっしたー。これでスマホでの決済ができるっすよー」


 そう呑気に言う彼女に、俺は言い返す。


「こんなところで騒ぐなよ。誰かが聞いているかもしれんのだぞ?」


 そう言ってポケットにしまった財布の中身を改めて確認した。十万ロンほどの金札を持っている。


これだけでも俺には十分な大金なのに、スマホにはその百倍近いお金を使うことができる機能があるのだから、今までよりもスマホが重くなったように感じた。


万が一の為にセキュリティロックを覚えたから。大丈夫だ。多分。


「あのう、そこまで怯えなくてもいいっすよ。最初のうちはみんなそんなものですから」


 俺の様子を見かねたスズが慰めるように言った。俺はその言葉に対し、礼を言った。


「ありがとう、スズ」


「いえいえ、困ったら金をお預かりするっすよ。個人的に」


 その言葉にため息をつくと、同時に笑いながら言ってやった。


「貸すかよ。お前に」


「もういけずなんすから」


 そう言葉を交わす中、俺はハッとロゼのお使いを思い出した。


「スズ、ここ最近の賞金首や悪党について情報はないか!」


 そう言ってスズに詰め寄った。すると動揺しているのか、彼女は小声で


「あ、あの……」


 聞こえなかったので、顔を近づけた。すると、一気に顔を赤くしたスズは、涙目になって訴えてきた。


「はなれてほしいっすよ」


 その言葉で冷静になった俺は、スズとの距離がいかにもキスをしそうなくらい近くなっていたことに気づいた。慌てて離れた俺は頭を下げた。


「ごめん、急な話をして詰め寄って」


 俺が謝ると、スズは涙を拭いて言った。


「いえ、反応できずにごめんっす」


 そう言うスズは、上目遣いでしおらしくなっていた。さっきまで金にがめつく女とは思えないほどだった。


 彼女は涙を翼で拭うと、再び陽気に振る舞った。


「さっき言ってた情報持ってくるっすね」


「ああ、すまないな。本当に」


 そう交わすとスズはオフィスへと飛んでいった。


 俺は受付前のソファーに座って頭を抱えた。


「急に詰め寄ったら、困るよな」


 そう呟くと周りの人たちにどう思われているんだろうと心配していた。


「何だと、この犬っころもういっぺん言ってみろ!」


 突然の叫び声に俺は顔を上げ、声がした方向へ向ける。


 どうやら揉めているのは、犬の耳が特徴な女性の亜人の受付嬢に、何やら品の高い装飾をした剣士らしき人間らしい。


「僕が苦労して倒した盗賊の報奨金がこれっぽっちだと?ふざけるなよ!」


 クレームらしい。他の客や受付もじろじろと男たちのやり取りを見ていた。受付は、彼に訴えた。


「だから、何度も申し上げたとおりに、こちらの盗賊はこの金額が妥当になっております。だから――」


「いい加減にしろよ、犬風情が!」


 男が声を荒げると同時に、剣を抜いた。それを見た周りの客が逃げ出し、次々と役所から逃げて行った。それとは逆に彼の仲間と思しき人間が六人、次々と受付嬢へと近づいていく。例の男は、抜いた剣を受付嬢の首に突きつけた。


「さあ、もうこの際だ、金をよこせよ。犬」


 クレーム問題から一気に強盗へと変わっていく一部始終を見ていた俺は、見るに堪えなくなって、立ち上がった。


 俺は、男たちに近づいていった。


 すると、不意に後ろから声を掛けられた。あの男の七人目の仲間らしい。


「おう、兄さんよ、犬の躾の邪魔だ。あっち行きな」


「犬の躾ってだれのこと?」


「何言ってんだ。そこの――」


 俺は肩に触れられた腕を軽く捻る。腕は関節ごと曲げてしまった。


「貴様ああ!」


 受付嬢に向けられた剣がこっちに振りかざした。


 剣は余裕で躱せた。こっちが刀を抜く必要はないな。


 俺は男の顔面にまっすぐに拳を突き出した。


「躾が必要なのは、お前らだろう?」


 男たちは逃げるように出口を目指した。


 しかし、偉い人のミノタウロスにぶつかる。


「どうかしましたか、お客様?」


「あいつ、あいつが、俺たちを襲って――」


 俺を指さして、嘘をつこうとしようとしたとき、スズが叫ぶ。


「嘘っす! この人たちが襲おうとしたところをミツハルさんが助けたんです!」


 その言葉を聞いた偉い人は男たちを睨みつけた。


「どういうことか、奥まで来ていただけませんか」


「そ、その、俺たちは……」


 男たちの言い分を無視し、先ほど俺たちとは違う部屋へ連れて行かれた。


 その様子を見ていると、俺の傍へスズが飛んでくる。


「ありがとうっす。あのままだったら大惨事になったかも」


 スズが礼を言う。受付嬢の方へ見ると、こちらに頭を深く下げた。無事のようだ。


「礼を言うのはこちらだ。お前が言ってくれなかったら俺が連れて行かれたかもしれん」


「私はほんとのことを言っただけっす。気にしないでっす」


 俺はスズに礼を言うときに気づいた。もう外が暗くなっていた。


「あいつ、どうしているんだろ」


 無意識に口にしてしまった。あの女と離れて気分はいいはずなのに、何故か言ってしまった。


そう考えてくると、溜め息を漏らしながら、ソファーに腰かけた。一応、命の恩人をほったらかしにしているからな。


「大丈夫っすか、ミツハルさん」


 心配して声を掛けたスズに、俺は言った。


「ああ、大丈夫だ。ありがとう」


 そう言って、俺は訊いた。


「このトラブルは、よくあるのか、この人種差別が原因の事件は?」


 スズは俺のソファーに腰かけながら答えた。


「そうっすね。最近、人間にしろ、魔族にしろ、こういうことが最近起こっているっすね。まあここだとうちの上司が強いんで、ここまでのケースはあまりないっすけど」


 確かに。あんなムキムキと喧嘩を起こそうなんて正気じゃない。


「あれ? なんでこの役所に勤めてんだ、って聞いてくると思ったんすけど」


 不思議そうに聞いてくる彼女に、俺は答えた。


「別に訊きはしないよ。お前こそなんで役所に勤めてんだ?」


 そう訊き返すと、恥ずかしがりながら彼女は答えた。


「……それはお金の為ですけど」


「だったら、いいじゃないか」


 彼女の理由を聞いて俺は話す。


「お前の上司だって、何かの為に働いているだろ。金かもしれないし、別の理由だったかもしれないし」


 彼女は、珍しいものを見る目で、こちらを見つめている。続けて俺は話す。


「訊いたって答えてくれない奴でいるし、理由なんざいいだろ」


 そう言うとロゼのことを思い返す。ロゼはこちらが訊きたいことは何も答えてくれないし、俺をパシリにする女だ。


 それでもあいつに従っているのは命の恩人という義理だけだ。そう考えると、その義理であいつについていく俺は本当に不思議な存在かもしれない。


 スズは俺の言葉で何かを考えるように顔をしかめた。そんな彼女に俺は言う。


「俺としては、あの人がこの役所にいることで助かる人が多いんじゃないか」


 そう言うと彼女は理解したのか、こくりと頷き。


「そうっすね。あの人のおかげで安心して働ける人がいるっすから」


 そう言ってすっきりしたように偉い人を見る。


 俺も続けて見ると、彼と受付嬢と憲兵たちが話していった。


 答えてしばらく沈黙が流れた。


 先ほどの他愛のない話で分かったのがスズは、会話相手が欲しかったのだろう。


 俺は彼女と話そうと思った。ちょうど訊きたいことがあったからな。


「そういや、さっき言ってた件はどうした?」


「それなんですが、さっきスマホに送りました」


 そう言われてスマホを取り出すと、画面に賞金首などの情報が送られた。


 送られた情報に目を通していると、スズに訊いてみた。


「これに載っているので全てか?」


 スズはしばらく何かを考えるように黙ってから話した。


「何か不満でもあるっすか?」


「一覧にある賞金首たちと受け取ったゴルド一味の金額の差が妙に高くてな」


 そういうと彼女は少し考えてから。


「それは……」


 俺の耳元に顔を近づけ、翼を耳に近づけて囁いた。俺も話せるように顔を寄せた。


「あなたが倒したゴルド一味のような悪党は本来、ここに載せないようにしているっすよ。こういうのは、王都に仕える軍か、領の騎士団とかが対応するものなんす」


「俺はその軍とかが相手にするような奴を倒した、と」


「そうなるっす。今来た街の憲兵団じゃまず対応できないっすよ」


「じゃあ、軍や騎士団が対応するような奴は、テロリストや武装組織とかになるっすよ、すみませんが――」


「いい、それだけでもわかっただけ、十分だ。ありがとう」


 ちょうど話し終えたとき、街の外で待っているロゼのことを考えた。


 しかし、襲ってくることがあっても心配ないだろ、頭の中を振り切った。


「そういやお連れさん、置いてけぼりっすね。宿に入ったんでしょうか」


 スズが気にしてくる。そんな彼女に吐き捨てるように言う。


「あいつ、街に入りたがらなくって、そのままいるんじゃないか?」


「まずいっすよ! この時間帯に女子一人なんて!」


「しょうがないだろ、街には入りだがらなかったのは事実だし」


 スズはしばらく沈黙すると、両翼を羽ばたかせる。


「そうだ! 私がミツハルさんをそこまで運べばいいんすね!」


「いや、そこまでは――」


「いいえ! 私が責任を持って運んでいきます!」


 スズは折れそうにない。なら、妥協して受け入れるしかない。


「……なるべく固定して飛んでくれると助かる」


「わかったっす! ミツハルさんを安全に運びます!」


 ホントに頼むぞ。またぶら下がるのはごめんだからな。


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