フレアバレッタ―

@WaTtle

復讐篇

美少女に焼かれる

 かつて戦争が起きた。


 星暦194年、多くの種族が共存する魔国は、周辺諸国が連合として宣戦布告をされていた。


 宣戦布告された魔国は、強大な軍事力を持っていたが、周辺諸国からの攻撃を防ぎきることができなかった。


 その状態の魔国に、ある傭兵団が援軍として馳せ参じた。


 その傭兵団の多くは未成年、子供で編成された。


 魔国の戦線を支えるといった戦法ではなく、戦場を指揮する大隊に大胆に突撃していくものだった。


 傭兵団は、周辺諸国それぞれに部隊を派遣してはどれも華々しい戦果を挙げた。


 星歴195年、戦争に勝利した魔国は、傭兵団に対し報奨を与えようとしたが、傭兵団は姿を消した。


 その後も傭兵団を探したのだが、見つからなかった。


 しかし、捜索を打ち切る事態が起き始めた。


 戦後、国の犯罪が多くなっていたからだ。


 国の警備が回復していないのもあるが、なにより犯罪者の多くが他の国籍の人間であった。


 戦争が終わってから五年、未だ犯罪が減る傾向が見られない。




「ここがカーマイン領……」


 独りの赤の髪の少女が呟いた。


 少女が辿り着いた先には、人の気配がなかった。


 少女はカーマイン領と呼ばれていたその場所はすでに廃墟と化していた。


 彼女が歩く道のりにはボロボロになっていた家屋とそれに染みついた血痕が多く見つかった。


 彼女は吐き気を催しながらも、手で抑えつつも前へと進んでいた。


 彼女が見たかったのはこれだけじゃない。


 道の終わり、奥まで辿り着いた少女はあるものを見て愕然とした。


 大きな邸宅があったであろう廃墟だった。


 ここにも大きな血痕が多く見られた。


 彼女は恐る恐る血痕に近づいてぶつぶつと一つ一つ調べ始めた。


「これは――で、この血は――で、これは――」


 そうやって調べていくうちに、少女はある血痕に目を留める。


 少女はその血痕に近づくと、何かを確信した様子を見せた。


「そっか、これが私の――」




 一面が芝生の緑の平原、線を引くかのように芝生がなくなっている部分は道として利用している。時間は夕刻になりそうになり、芝生の色は徐々に変化をし続けた。空も青から橙色になるころ、道を歩き続ける少年がいた。


 無造作な茶髪で、穏やかな雰囲気のある顔で、服装は、半袖にポケットの多いベストを着ていて、長ズボンのベルトに差し込んだ長い布袋に、左肩にバッグを掛けている。


「参ったな。これは」


 何度この言葉を放ったのだろう。少年は、歩き続けて疲れて言ったわけではない。道の先の深々と生えている木々が多い森とそれに連ねる山が見えていたからだ。地図を持っているわけでもないが、少年は目視で確認して自然と出た言葉であった。道を外れてこの森と山を避けられないか考え始めた。


「どこかに抜け道はないか」


 少年が考えていることを言ったと同時に、道から外れて森を迂回できないかと試みたその時、ふと声を掛けられる。


「そこで何をしている?」


 少年は外れた道に顔を振り向くと、馬車が止まっていた。馬車には、肉や野菜が載せてあった。少年に声をかけてきたのは、馬を操る眼鏡を掛けた白髪の老人ではなく、馬車に同乗していた若い金髪の青年だった。青年は、いかにも兵士のような服装をしていて、腰の左には、拳銃と剣を携帯していた。自分は警戒されていると感じた少年は青年の問いに答えた。


「すみません、もしかしてこの道通りに進まなきゃいかないという法律があるのですか?」


「そんなことはない、ただ君が……」


 青年が言葉を濁らせたので、少年は、


「怪しく見られたということですね。わかります」


と言い始め、少年は持っているものをすべて青年のまえに置き始めた。左肩からバッグを降ろし、腰に携えていたモノ、青年に怪しまれた原因、布袋の中身を青年の前で置いた。


「すまないな。君が剣を持っているから、盗人かもしれないと思って」


 青年ははっきりと言いながらも謝罪した。だが、少年は訂正するように、


「剣ではありません。これは刀ですよ」


「カタナ?この剣の名前か?」


 青年の問いに答えるように少年は静かに鞘から刀を抜き、刀身を見せた。その刀身は反れて刃が片方にしかないものの、その反れた刃は斬撃を行うのにさほど力を要らないだろうし、突くことにおいても秀でている切っ先であった。


「ほう、本物の刀とは」


 刀を見て最初の感想をくれたのは、馬車に乗っていた老人だった。老人は刀を抜いた少年に近づいて刀だけでなく、少年自身を見始めていた。


「お前さん、東の神祖から来たのじゃろう」


「はい」


 少年は老人の問いに答えた。


 するとその様子を見た、隣の青年がまた警戒したのか、少年に改めて問い詰めた。


「神祖って、大戦のときこっちに攻めようとした国じゃないか。お前、まさか密入国者か、それかやはり……」


「待て、神祖から来たからと言って決めつけてはいかん」


 青年を制止した老人。少年はその隙にズボンのポケットからあるもの、スマートフォン略するとスマホという端末機械を取り出した。身分証明ができる機能があるからだ。


「これは俺のスマホです。今、俺の情報を見せます」


 そういうとスマホの画面には、少年の写真と、名前などの情報が載っている。


ミツハル・シロガネ 星暦183年3月4日 男 神祖 魔法経験なし


 青年と画面を見た老人は、すぐに少年、ミツハルに尋ねた。


「ミツハルといったな。ここで何をしているんじゃ?」


 今度は爺さんからか、と言葉に出してしまいそうになったミツハルは答える。


「いや、もうそろそろ暮れてきそうなんでこの森をどう抜けようかと考えていたんです。流石に一夜で通り抜けられるか心配だったので、回り道を探していたんです」


 青年が光晴の答えに納得する一方で、老人は改めて、


「儂が訊いているのはこの国に何をしているか、じゃよ」


 食い下がってくる老人の問いに、驚きながらもミツハルは隠すことなく答えた。


「じつは、武者修行をしている、というと恰好がいいんですが旅行感覚でただの旅をしているんです」


 ミツハルは答えながら老人の態度を伺っていた。その老人はしばらく考え込んでから、青年に耳打ちしながら、馬車へ戻るとミツハルへ、


「それなら、この森林の中に儂の住んでいる村がある。そこへ来るか?」


 ミツハルは、馬車へ戻る青年に目を向けると喜んでいた様子なので、念のために、


「見ず知らずの俺を招いていいのですか?」


「いいよ、むしろ道で野垂れ死んでもこまるしの、どうせ帰るついでだしな」


 その答えで納得することにしたミツハルは


「では、お邪魔させていただきます」


「それじゃ、乗っていくといい。もう暗くなるからな」


 そう言われるとミツハルは空を見て陽が沈みかかっていることに気づいた。老人の言葉に甘え、荷物を適当にまとめ、老人の馬車の荷台に乗った。少年を乗せると、馬車は動き出し、道に沿って森の中へと向かっていった。馬車は夕陽が差し込まなくなった暗さの中、進んでいった。




「おい、もう着いたぞ」


 青年の声にミツハルはハッと起き上がった。自分がいつ眠っていたかと、青年が


「森に入った途端、急に倒れたかと思ったらいびきをかいて寝るもんな。ビックリしたぜ」


 そう言われると、ミツハルは自分の荷物に異常がないかを確認しながら、謝った。


「すいません」


「いいよ、ずっと歩いていたんだろ。旅をしていると聞いたから仕方がない。それにもう夜だからな」


 ミツハルは顔を上げると、森の中であるようだが、網目のような木の枝から夜になっていることを実感した。が、暗さは感じなかった。ミツハルは荷台から降りると同時に青年が手を差し出し、


「そういえば、名乗っていなかったな。俺はグリッド・ハーヴェイ。あの爺さんの孫だ。」


 と言われ、ミツハルが握手しているとグリッドの後ろにさきほどの老人、グリッドの祖父がいた。その周りには、少なからず人だかりができていた。ミツハルは心配されてんだな、とグリッドの祖父に目をやった。すると図体の大きい男がグリッドの祖父に、


「大丈夫ですか。帰ってくるのが遅かったので心配しました」


「すまないな。途中で拾い物をしてな」


「拾い物って彼のことですか、だいじょうぶですか?もしかしたら……」


「身分証を見せてくれたから大丈夫じゃよ。それにこんなときだからこそ必要だと思って連れてきたんじゃよ」


「あなたが言うのであれば、仕方がないですね」


 ミツハルは彼の発言で自分のことを、男をはじめとして周りに容認させたのを感謝すると同時にあの爺さんは何者かと考えた頃、青年が答えた。


「言い忘れたけど、俺の爺さん村長なんだ」


 その答えに俺は――。


「先に話すことですよね、その重要なこと」




 ミツハルは老人改め、グリッドの爺さん改め、村長に家まで付いて行くことにした。その道中、村の様子を見ていたミツハルは村にある違和感を覚えた。村にある家は、どれも簡素に建てられた小屋で、長年住んでいる雰囲気が感じられなかった。畑も作ってから一年も経っていないと思われる。村人も大人が多い割には、幼い子供が少ないと感じた。村長の家に着いたと思ったら、村長の家として特別にあるものといえば外に掲げられた旗だけだった。旗には盾に炎の模様が施されていた。村長がミツハル、グリッドを入れた後、居間で茶を用意しながら話を切り出した。


「こんなところですまんね。儂の家も去年で来たばっかじゃ」


「それは別に構いませんが、なぜか訊いても?」


とそこにグリッドが、


「爺さん、弾薬はいつものところでいいよな」


「おい!それは後で……」


というと、慌てて村長は孫のグリッドを部屋に押し出した。その様子を見ていたミツハルは誰もいない居間で、状況を整理し始めた。


 最初の頃は警戒されたのに、身分証を見せたらあっさり信用するどころか、村まで案内してくれた。そして、村についてからの村長たちの会話も気になった。今となれば、自分を不審に思いつつ、何故か信頼されたこと。作られてからおよそ一年しか経っていない村。そして、銃の用意をしている村長。疑問に思うところが多い。


 村長が戻ってくるころ、状況を整理したミツハルは落ち着いた様子で話した。


「お忙しいようですね。」


「まあの。獣がぞろぞろしているから。村を守るので必死なんじゃ」


 村長の答えに対して、ミツハルは突然、目つきを細めて声色を変えて訊いてきた。


「獣にしては、弾薬が多いな。爺さん」


 ミツハルが突然の態度の変化に、村長は驚かずに答えた。


「やはり気づくか。ただの阿呆ではないとは思っていなかったよ」


「アンタの孫が持ってた弾薬がどう考えても、ライフルで使うものだからな」


「そんな短時間で見抜かれるとはな、さて本題と行こうか、疑問に思っていたのじゃろう」


村長の態度も少なからず変化し、改めてミツハルは村長に疑問を晴らすかのように訊いてきた。


「その銃は、人を殺すためか?」


「ああ。そうじゃ」


「否定どころかごまかさないのな」


「下手に嘘をつけば余計に怪しまれるからな」


「獣っていうのは、盗賊とかそんなところか」


「そこまで読まれるとは」


 村長がやっと参ったように、手を挙げた。自衛の為に、自分の村の為に人を殺すことは、この国では、よく聞く話である。その上で、ミツハルはまた村長に訊いた。


「何故、一年しかたっていない村をそこまで守る?他に移り住むことだってできるだろうに」


「もう移り住んだあとなんじゃよ。何度も引っ越しているからな」


 ミツハルが何故と聞こうとしたところで、村長が続けた。


「ある時、儂らはゴルドという貴族の領地に住んでいたんじゃ。そのゴルドの主は、ほかの領地とは大きく税を徴収していたんじゃ。儂らは、国王に頼るしかないと思って手紙を送って内密に調査してくれたんじゃが……」


「上手く隠されたのか、国とつながっていたと」


「いや、おかげでゴルドの悪事は暴かれたよ」


 村長が意味ありげに間を置くから、外れた推理をしたので、自信満々ではないが少し恥ずかしくなったミツハル。そんな彼を差し置いて村長は構わず話をつづけた。


「しかし、ゴルドたちは多くの盗賊を従えていての、儂らを恨んで住んでいた街を襲撃してきたんじゃ。この件でゴルドは貴族としての地位を取り上げられたんじゃが、儂らも住む場所をなくなったんじゃ」


「それで今の土地に?」


「おぬしは、人の話を最後まで聞かんのか?」


「すまなかった、早とちりして」


 今度は頭を下げたミツハル。顔が赤くなっているのを隠すという行為でもあり、なにより爺さんの注意は間違ってないと思っていたからだ。この話を遮る早とちりはミツハルが自覚している短所でもある。


「まあ、長話だからな。相槌程度でも思っているよ。それにあながち間違いでもないから」


 そういう村長の言葉で顔を上げたミツハル。


「この村の前に、村を作って過ごしてきたんじゃが、ゴルドたちに襲われて命からがら逃げてきたんじゃ。そんでこの村を作ったんじゃ。そして……」


「そこから過ごし始めたと」


「その通り」


「わざわざ間を取らなくてもいいから」


「お前さんが言いたそうにしていたから、つい」


「そのまま話せよ。気遣うな、こんなところで」


 また顔が赤くなったのではないかと頭をまた下げた。自分で顔を上げると、村長に訊いた。


「で、ここを治める貴族には許可を取ったのか?」


「ここを治める貴族はいないよ。二年前に死んだと聞いておる。」


「じゃあ、ここは無法地帯ってことか?」


「そうなるの」


 それを訊いてミツハルは呆れるように、村長に訊いた。ミツハルは嫌な予感をしながらもこれが早とちりであってほしいと願いながら。


「じゃあ、国の騎士団に護衛を願えないと」


「そういうことになるの」


「だから、本来許可のいる銃をどこからか無許可で所持していると」


「そうじゃな」


「それで今もゴルドの襲撃に備えていると」


「そうじゃ」


「じゃあ、俺はその襲撃に巻き込まれるかもしれないと」


「密偵からの情報で今夜仕掛けてくるだろうから、巻き込まれるじゃろう」


「旅人だったら、このことを話しても問題ないと」


「うん」


「それで俺が死のうと問題ないと」


「……」


「なんか言えや、ジジイ!」


 思わずキレたミツハルは立ち上がった。早とちりではなかった。むしろ、事件に巻き込まれる寸前だったことを知ってしまった。ミツハルは、何を訊いても厄介ごとしか返してこない気がする。そんな中、村長が切り出した。


「そういうことだから、改めてお願いする」


 頭を下げようとする村長を待ったと手を出す。ミツハルの質問がまだ残っていた重大な質問が残っていた。


「どうして俺なんかを信用する?ただの旅人に何を期待する?」


 その問いに、村長は逆に訊かれた。


「ただの旅人が神祖出身で刀を持っているか?」


 その問いにはミツハルは答えることはしなかったが、


「だが、それで信用するか、普通?」


「こんな状況に現れたんじゃ、運命か何かを感じる」


「俺が神の使いだったら、まずアンタを裁くけどな」


 とミツハルが返すと、村長に背を向けて外のドアを開ける。そのドアから一歩も動かず村長に向かって言った。


「だが、生憎不真面目なもんでな。アンタより先にそのゴルドを裁くよ」


 村長が喜ぶ様子を見せると、ミツハルは笑って言った。


「奴らのいる場所に目星をつけているんだろ?教えてくれ」




 夜が更けた頃、森に囲まれた開けた地で大勢の人が松明を灯りにして武器の手入れをしていた。その多くの者の風貌が傷だらけで数々の悪事を働いたのであろう、金銀財宝が箱に詰められている。しかし、そんな者たちとは違い、外見が太り気味で鼻髭が特徴の男は葉巻を吸いながら、男たちに集まるように指示しながら自らも銃剣の準備を整えて男たちの前で演説をした。


「これから、吾輩ゴルドの名誉を傷つけた愚民どもに今度こそ裁きを与えるときが来た。おかげで吾輩は家を失いお前たちの安寧の場所を奪った奴らでもある。今度という今度は一人ひとりわれらの手で殺しつくしてやっと我らは盗賊団として船出を切ることができるのだ」


 そんな男の演説には観声が大きく出た。だがその大声の中には、二人の男が小声で話すものがいた


「これってあのおっさんの逆恨みだよな」


「うちらが気を付けろつっても、聞かなかったもんな」


「こんなことより、追いはぎや他を当たっていったほうが」


一発の銃声が男たちの歓声を消したと同時に、一人の男が何物も言わぬモノになり、そのモノが倒れる音が聞こえた。その男と話していた男は震えながらそれを見ていた。


「吾輩に、不満があるやつはいるか?」


とゴルドが銃剣を構えながら大声で聴衆に唱えた。それに答える者はいなかった。


「ならよろしい」


 反応を見たゴルドは銃剣を降ろし、聴衆にモノの処理を指示した。


「吾輩に意見したものはこうなることを覚悟せよ」


 というとゴルドは盗賊たちに村を襲撃するように細か斧や槍を持つ部隊を出撃させていく。するとゴルドの背後から、声をかけてくる男が来た。


「順調そうですな」


「今度という今度は一人も逃さんぞ」


「誰を逃さないと?」


「無論、吾輩を陥れた愚民どもだ」


「ほお、今撃たれたのは何でしょうか?」


「私に意見した馬鹿者だ、当然の報いだ」


「ところで、狙撃部隊の配置は?」


「無論、後で出して逃げ出したものを殺すためだ」


「外れにいる人たちのことですね」


「何なんだ貴様は、さっきから」


 そう言いながら、ゴルドが後ろへ振り向くと、見たこともない茶髪の少年、ミツハルがいた。見たこともない少年に対しゴルドは、


「誰だ、貴様は?」


 と言い、ミツハルは笑いながら答えた。


「ただの不真面目な神の使いだよ」


 ミツハルは、先の台詞に少し恥じらいながらも胸を張って言った。


「アンタを裁きに来た」


 ゴルドは少年が自分を殺しに来たと感じなかった。むしろ、


「他のものは何をしている」


「さっきの狙撃部隊は壊滅したぜ」


 ミツハルは頭の中で何かを切り替えたと同時に、ゴルドに向かって抜刀した。


「なにっ」


 間一髪、のけ反って斬撃を躱したゴルドは同時に、


「何をしているこのガキを早く」


「それならアンタの言うガキが馬鹿者と同じようになってんぜ、処理はしていないがな」


「なにっ」


 周りを見ると人影がない。わずかに見えた死体で状況を掴んだ。


「ならば!」


 銃剣を腰で構えてミツハルに向け一発ずつ撃ち何度も銃声を鳴らした。


 ミツハルに対して銃剣を槍のように構えると同時に、銃声を聞いて駆けつけてやってきた彼の部下がやってきた。ゴルドはやってきた部下に対して、命じる。


「そのガキを殺せ!」


 ミツハルの背後をとった彼の部下が斧を切り下ろすが、背後を一切見ずに、背中越しに鞘で受け止め、振り向くと同時に一人を胴斬り、次の一人に走り出し斬り下ろし、また一人斬り上げて、いつの間にか部下が一人になったところで、鞘で叩き上げて刀を突き出した。


「なんだと」


 速くも部下4人を仕留められたどころか、それをやったミツハルが、それを軽々しくこなしていく姿が美しく、死神のように感じられた。それを見たゴルドは恐怖を感じたのか銃剣から銃弾を放った。しかし、それも銃弾はミツハルに当たることなく、高く銃声を放っただけだった。


「当たってないぞ、おバカの大将」


 ミツハルは軽く挑発した。その言動にゴルドは激怒した。


「舐めるなよ、ガキが」


 ゴルドは銃剣を構えなおし、ミツハルに突き出した。ミツハルはそれを横に躱しながら反撃をするために近づこうと考えた。


「舐めたツケだぞ、小僧!」


 ゴルドは突き出したと同時に横へ銃剣からまた撃ってきた。今度の射撃は単発ではなく、連射してきているので、近づこうとしたミツハルは何発か掠っていった。


 しかし、ミツハルは勢いを落とすことなくこちらへ突き進んでいった。やがて銃剣から弾が出なくなると、ミツハルは改めて距離を縮ませながら叫んだ。


「そりゃ舐めるさ、この程度の小細工じゃあな!」


 ゴルドに斬りかかろうとした時、突如彼の目前に矢が飛び込んできた。それに続けて多くの盗賊がミツハルに向かって行った。


 ゴルドは隙をついて銃剣に弾薬の装填をした。その中、弓を持った部下は彼に近づいて行った。


 その行動で命拾いしたゴルドは向かってくる部下に対して、


「遅かったではないか、この無能どもが!」


 と怒鳴り始めた。


「すいません、こちらも苦戦していたので」


 盗賊はそう言い訳すると、ゴルドに問い詰めた。


「苦戦?あの程度の村を滅ぼすのに何を」


 ゴルドの言葉を遮ったのは遠くから聞こえる銃を連射する音が聞こえるのと盗賊の悲鳴が聞こえた。その方角は村があった方角からだ。盗賊は逆方向に逃げ出してゴルドのほうへ向かった。


「もう駄目です。あのジジィ、俺たちを殺しにきやがっている!」


「逃げてきたものは俺たちで最後です、逃げましょう!」


「もうみんな散り散りに逃げて行って、統率が執れません!」


 命からがら逃げてきたのか、冷静さを失ってバラバラに報告してくる部下たちの前にゴルドは村に返り討ちにあったことが分かった。


「たかだか愚民の老兵ではないか!そんなものが銃を持ったところで」


 次に言葉を遮ったのは、近くの盗賊の悲鳴と逃げ出す足音であった。それに向くと、切り殺された死体と殺した逃げ出す部下を追って切り捨てるミツハルの姿だった。


「爺さんたちのほうは、うまくいったみたいだな」


 ミツハルは言う。この時、ゴルドはすべてを察した。


「銃を扱うやつを先に始末すれば、どうにかしてくれるといったけどな、残っちまったな」


とギロっとゴルドを見下し、刃を向けた。


 それを見た部下たちが、ゴルドを揺さぶって、叫んだ。


「もう駄目だ、逃げよう!」


 追い詰められたゴルドは、自分にまとわりつく部下を


「邪魔だ、どけ」


 といい部下を振り払って自分だけ逃げ出そうとしていた。そこへミツハルが近づいていき、まとわりつく部下とゴルドをまとめて斬り倒した。しかし、部下が盾になったからか、傷は浅く済んでいた。


「ふざけるな。こんな奴に、吾輩の盗賊団が」


 そういうと、銃剣を構えなおし、今度は正確に狙いを定めて単発で狙い始めた。


 それを避けるミツハル、しかし避けた先に矢が飛んできた。


 ミツハルはまずいと考え始めた。ゴルドの射撃が正確に近い上、弓を持つ者の回避狙いで射っていること、残りの盗賊、村を襲撃した者が予想より多く帰ってきたことが彼を追い詰める要因になっていた。


 ――これで終わるのか


 旅の最中で、無理やりだが村を守る羽目になって村を守って自分は死ぬのか


そう考えた途端、不思議とミツハルは冷静になれた。戦って死んでいくことを誇りとする神祖の育ちなのか教えなのかはわからない。ただ自分が生と死を今一番実感していることだった。


とりあえずゴルドを斬る


 その考えが頭を支配し、行動を起こした。ゴルドの前までに矢と斧から身を避け、ただ眼前の敵将のゴルドめがけて斬り下ろした。


 ゴルドへの直撃と同時に彼の銃弾がミツハルの腹に命中した。致命傷ではないと理解したが、動くことができなくなってしまい、自然と手が傷口からの出血を抑え込むことに集中した。


手が出せなくなったミツハルに襲い掛かる盗賊たち。今の彼に盗賊たちからどうにかする手が文字通り出せなかった。


 死を覚悟したのは、ほんの一瞬だけだった。


 襲い掛かってきた盗賊が自分の目の前で撃たれたのだ。


しかし、銃声は彼の知る音ではなかった。何かが燃えた音、というのが聞こえた音に近かった。


 ミツハルは刀を地面に刺し、それを支えに片手は傷口を抑えながら立ち上がった。死体の弾痕は燃えていた。不思議に思った。こんな痕が残る銃弾は自分の知る限りない。


 その時、立ち上がる音が聞こえた。


殺したはずのゴルドが立ち上がったのだ。


死にかけたゴルドは、倒れたミツハルを見下していった。


「貴様のような虫けらに吾輩の盗賊団を、よくも!」


 とはいえ、死にかけているゴルドは最後の力と言わんばかりに銃剣を取り出し、倒れかけているミツハルに向けた。


 これは外れない。狙いを付けなくても、移動できなくなったミツハルには回避ができなくなっているほどの状態だ。助けを乞える人もいない。


 ミツハルに向け、ゴルドが告げる。


「死ね、虫けら――」


 その言葉を遮ったのは、またも燃えるような銃声。今度はちゃんと姿を見た。


 女性だ。銃を構えた女性が現れては、ゴルドが倒れた。女性がゴルドの腹を撃ったのだ。先ほどの盗賊の燃えた弾痕と同じく、彼の弾痕も燃えている。


「あづい、たずげて」


 ゴルドは女性に先ほどまでの毅然とした態度とは違い、情けなく命乞いをした。


「断るわ、虫けらさん」


 銃をゴルドの頭に向け、銃口が赤く光って、発砲すると赤い光が炎を纏った弾丸となって、ゴルドの額に命中した。命中したゴルドの額から頭へと燃えだした。


 銃を撃った女性は華奢な体形で、大きな胸元を大幅に露出したノースリーブにへそを出している。デニムに拳銃をしまっているポケットをベルトにつけられている。首チョーカーをしていて、首元に羽根の模様をしたマントを付けていた。男性が性的に興奮する体を持っている女性は、逆に幼げな顔をしていて、赤い髪を上に束ねたポニーテールが肩まで届いて美少女といえる外観だった。


「そこで死にかけているのは、誰?」


 突然、女性に声をかけられた。


「アンタは、一体……」


 女性もとい少女は、彼を無視した。そして口を開くと、


「行きがかりで殺し合いをしていたから邪魔したわ。悪い?」


「いいや、助かった」


 そう言いつつも、ミツハルは倒れた。


「全然、助かってないようね。腹に銃弾食らっているんでしょ?」


 そう言うと、少女はミツハルのもとへ来た。


 ミツハルは、腹から出血していることを確認しつつも、少女の顔を見つめて考えた。


 かわいいな。


「分かる?私の魅力に」


 少女は自信ありげに言った。と同時にミツハル、こいつは性格に難ありだと思った。


「最期に、その自慢の、顔を見せつけ、たいのか」


 死にかけてきたミツハルは、途切れ途切れで少女に話す。


「素直に言うのね、顔はもっと素直でかわいかったけど」


「お前、……」


 いい加減にしろ、と言いたかったが、痛みに耐えるので、精一杯だった。


 その様子を見た少女は、ミツハルの被弾した腹を診て、少女が手をかざし、


「ちょっと痛いけど我慢してね」


 なにを、と言葉にする前に少女の手が赤く光り、勝手に処置を始めた。


ミツハルの腹が、特に被弾した部分が燃えるように熱かった。ミツハルは呻き声を漏らした。


「があっ、あづい……」


 この女が自分に何をしているのか訊こうと思ったが、そんな状況じゃなかった。


 その熱さに焼かれるような感覚になっていく中で、ミツハルは気を失った。


「あらら、気を失っちゃった。でもこれで良しと」


 少女の手の光が消えると同時に、ミツハルの処置を終えた。


 荒療治とはいえ少年の腹には火傷の跡が残っていた。


「これで我慢してよね」


 それが唯一、目の前の少年に言える謝罪の言葉として呟いた。


 そんな中、若い男の声が聞こえた。その声は徐々に近づいてきた。


 少女は、腰の拳銃に手をかけて待つ。


「おーい、ミツハルどこだ⁉」


 そう呼びかけると同時に、森からやってきた青年、グリッドが来た。


 少女は拳銃を抜いて、グリッドに向けて構えた。


 グリッドは、面食らった表情で拳銃も剣も抜けなかった。


 そんなグリッドに少女は道に倒れた少年を指して訊いた。


「この子がミツハル?」


 訊かれたグリッドは、拳銃を構えられているので、コクコクと頷いた。


 少女は続けて訊いた。


「アンタはこいつの仲間? それとも盗賊の仲間?」


「ミツハルの仲間だ!」


 少女は慌てて答えるグリッドに嘘はないと判断したのか拳銃をしまうと、


「ミツハルって子、重症ぽいから助けてあげて」


 そうグリッドに言った。そう聞いたグリッドはミツハルに駆け付け担ぎ上げた。

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