第30話次郎の病

次郎は、ある日、朝、起きると目眩がした。


それから、気を失った。


母親に起こされてやっと目が覚めた。


しかし、立つ事が出来なかった。


そのまま病院に救急車で運ばれた。


次郎は、病にかかっていた。


心と体に。


病名は聞き事もない病気だった。


ただ、分かった事は次郎はガンに侵されていた。


即入院、即手術が行われた。


屋上で次郎を待っていた光は担任教師から聞かされてすぐに自転車を走らせて病院へと向かった。


一ヶ月後…。


次郎は、退院して学校の屋上に光といた。


次郎は、光を抱いた。


光は、幸せだった。


しかし、次郎は屋上でそのまま死んでいた。


ガンは、次郎の身体中を侵していた。


次郎は、心の中で泣きながら光を抱いた。


光は、妊娠した。


光は、次郎の葬式には出なかった。


次郎が死んだ事をお腹の子供に見せたくなかった。


光は、休学して子供を産んだ。


名前を一郎とした。


次郎は、天国で笑ってる気がした。


光は、中学校に行くのをやめて小説に力を入れた。


そんな時に母親の未来が目の前に現れた。


「光…子供の面倒はわたしが見るから小説に集中しなさい。」


と言ってきた。


ボロアパートに三人で暮らし始めた。


最初は、光は、未来をお母さんと呼べなかった。


『引きこもりの次郎。』


という小説を光は、書いた。


周りと上手くいかない少年が少女と出逢って変化していく細かな描写で光は、書いた。


光にとっては初めての私小説になった…。


私小説は、当初、全く売れなかった。


暗い、ありがち、今さら引きこもりの話なんて古い。

そんな批判の声が多かった。


しかし、ある大きな賞の審査員が称賛した。

ありがちな話の中に社会問題と病気が芸術的に散りばめられている。


そして、光は誰もが目指す賞を受賞した。

テレビに出た光は小説の内容よりもその容姿の美しさで脚光を浴びた。


それが、未来の娘だと分かると光の本は飛ぶように売れた。


沢山の取材の依頼が毎日来たが光も未来も一切受けなかった。


光は、まだ、次郎の事が忘れられなかった。


愛しいあなた


もう、空の人になってしまった。


夢で逢えても抱きしめてくれない。

どうして?夢の中ぐらい良いじゃない。


ケチと呟くと、あなたは困った顔で笑うだけ…。


先に行けって言ってるのは分かってる。

新しい人と幸せになれって言ってるのも分かってる。


でもね、あなたを忘れられないの。


毎日、連絡くれた人がいきなり消えてしまったみたいに寂しいの。


学校の屋上に花瓶を置いてわたしは今日もあなたとお喋り。


遠くで笑うあなたは罪な人。

近くで笑うあなたも罪な人。


いつも側にいて…。

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