第18話父の影

ある日、背の高い男が未来の部屋を訪ねて来た。


「松本未来先生ですか?」


男は、紳士的で低い声だった。


未来は、何故か吸い込まれるような気持になった。


「君の父親、松本哲児です。」


「と、父さん?」


未来には青天の霹靂だった。


物心ついた時から、父さんがいない生活に慣れすぎていた。


「未来、君に一目会いたくて…。では失礼。」


「父さん待って!」


未来は、呼び止めたが、男は消えてしまった。


そこで、未来は夢から覚めた。


妙にリアルで自分の瞳に似ている眼を持っていた。


佐智に父親の事は聞いたことはなかった。


どこかで父親を無意識に求めていたのかもしれない…。


佐智から、連絡があった。


「未来、お父さんの事、知りたいの?」


「別に…。」


「じゃあ、何で、あんな小説書いたの?」


夢に出てきたと説明した。


「未来、それ、本当に夢?お父さんは背が高くて瞳がとても未来に似てるのよ。」


未来は、言葉が出なかった。


佐智と話し終わってから久しぶりに礼二が訪ねて来た。


「よ、花火丸!ボウリング行くぞ。」


「はい。」


「珍しく素直じゃあねーか。」


一人でいたくない気分だった。


ボウリング場に着くと未来は


「上野さんの、お父さんってどんな人ですか?」


と礼二に聞いた。


「クソ真面目な公務員だよ。」


「ふーん、だから、上野さん不真面目なんですね。」


「まあ、反面教師だな。真面目過ぎて出世できないタイプだった。」


未来は、ふーんと呟いてボールを投げた。


「今日、わたしが勝ったら朝まで一緒にいてください。」


「え?」


礼二は、ボールを隣のレーンに投げてしまった。


ボウリングは、未来の勝ちだった。


礼二は、仕方ねーとばかりの顔で未来の部屋に入った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る