第14話転校

未来が出版社から与えてもらったのは私立中学校とボロアパートだった。


「もっと綺麗なマンションをと言ったんだけどね、どうしても上野がボロアパートで良いなんて言うものだから。」


茂は、申し訳なさそうに言った。


「良いです。このアパートで。何か落ち着きます。」


「そう?そう言ってくれると助かるよ。でも小説に必要な資料とパソコンはあるから…。」


「今日、上野さんは?」


「会議で来れないんだ。申し訳ないね。」


未来は、少し心細くなった。


いつでも連絡してねと茂は言い残して帰って行った。


部屋には、新しい制服があった。


未来は、制服を着てみた。


不安と期待で胸は膨らんだ。


引っ越す前に、舞が未来の前に現れた。


「引っ越すんだって?」


「そうだけど。」


「わたし、小説では負けても女としては勝ったから!」


未来の背筋がヒヤリとした。


「木村君とわたし付き合ってるの。」


木村とは未来が小説の賞を取るまで付き合ってた彼氏だった。


「そう…。」


未来は、目の前が真っ暗になった。


「ガキ!邪魔なんだよ!どうせ、嘘だろ?」


上野が、舞を見透かしたように言った。


上野は、引っ越しの手伝いに来ていた。


「誰?この人?」


舞は、少し焦っている様子だった。


「おじさんじゃん、未来、趣味悪いね。」


「松本!」


息を切らして木村が来た。


「木村君…。」


未来は、涙を流した。


「松本、ごめん…助けられなくて。でもずっと応援してるから。前田とは付き合ってないから。」


舞は、恥ずかしくなったのかその場から逃げるように去った。


登校一日目、未来は不安で仕方なかった。


話せる友達出来るかな?


未来の新しい中学校は大学まである付属高校だった。


朝、職員室に向かい、担任の野村健司と未来は初対面した。


健司は四十歳手前の温厚な性格の持ち主だった。


「気楽にいこう。」


「はい。」


健司と教室に向かった。


「今日は、新しい友達を紹介する。」


未来は、廊下で逃げ出したい気持ちを押さえて教室に入った。


「松本未来です。よろしくお願いします。」


静かな拍手が響いた。


休憩時間になると、女の子が男の子の腕を掴んで未来の席に来た。


「わたし、二宮理恵。こっちの無愛想なのが高橋翼。よろしくね!」


「よろしく…。」


未来は、人間不信になっていたので声が小さい。


徐々に、未来は二人にも学校にも慣れてきた。


二人が未来のボロアパートに遊びに来た時に小説家であることを告白した。


意外と二人ともリアクションは薄かった。


それもそのはず、二人とも一流企業の社長の娘と息子である。


嫉妬という言葉を持ち合わせてない。


そんな時に、上野が訪ねて来た。


「ボウリング行こうぜ。」


とだけ言って理恵も翼も上野の車に乗せられた。


未来は助手席に座った。


ボーリング場に到着して初めて上野は自己紹介をした。


「俺は、上野礼二。こいつの担当編集者だ。」


と言って未来の髪の毛をガシガシした。


理恵も翼も車酔いしてトイレに駆け込んだ。


「上野さんの運転荒いから二人とも…。」


「二人とも、柔いな。」


と礼二は言って受付を済ました。


「俺は、さっきパチンコで負けた。俺が勝ったらお前達の奢りだ。」


どういう理屈だか分からないがそういう事になった。


結果、礼二と翼の一騎打ちになった。


礼二は、痛恨のミスをして翼が一本でもピンを倒せたら勝ちになった。


「翼!ファイト!」


理恵が声援を送った。


礼二は、翼の耳元で何か囁いた。

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